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【読書感想文9】リーダーの失敗事例を端的に示した「ローマ人の物語Ⅶ 悪名高き皇帝たち」

本書では約2000年前、紀元14年にティベリウスが二代古代ローマ皇帝に就任してから五代ローマ皇帝ネロが死ぬまでの古代ローマ世界について書かれている。

どうやらこの四人の皇帝はあまり評判が良くないらしい。カエサル、アウグストゥスが偉大すぎていたのと、後の五賢帝と比較されていまいちだったのかもしれない。しかし個別に見ていくと、大改革はしてないが、さして悪いことをしていない。どうも現状維持というものは辛く評価されがちなようだ。

それにしてもそれぞれの皇帝は性格と失敗の要因が面白い。古代ローマ史上最悪の皇帝と呼ばれるネロは最初の数年間は善政をしていたし、ローマ大火の対応も良かったにもかかわらず、最悪の評価を下されているのは、政治とはなんとも難しいものだと考えさせられる。

この約50年間で四人、浪費家のカリグラとネロですら税金を上げなかった。税金の値上げほど国民が不満を感じることはないからである。日本はここ10年でどんだけ税金あげましたかねえ。はあ。

1.ティベリウス

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カエサル、アウグストゥスに次いで50代で皇帝になったティベリウスはアウグストゥスの方針を忠実に履行することに勤めた。財政を健全化し、防衛網の構築に最高の人材を見出した、非常に有能な皇帝であった。しかしとにかく元老院からもローマ市民からも人気がなかった。

ちょっと可哀想である。

さらに後継者と見込んでいた人物が次々と亡くなり、20年以上も皇帝としての責務を果たす。しかし後半の10年間はなんとローマから離れてカプリ島で政務を行った。2000年前のリモートワークである。インターネットもメールも電話も電信すらなかった時代にである。

今の政治家どもは見習えや。

アウグストゥスという偉大な皇帝の跡を引き継いでしっかりと責任を果たした割には、その成果はまったく報われなかった。77歳でティベリウスが死に、若きカリグラが皇帝に就任したときはローマ市民は喚起したという。

教訓:偽善であっても人気取りは必要

2.カリグラ

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一言でカリグラを表現すると、ボンクラ世襲議員である。若くしてローマ皇帝になったカリグラはティベリウスの失敗を繰り返さぬように人気取りに邁進する。そのためにせっせと散財し、ティベリウスが必死で積み立てた国家財政がたちまち危機に直面する。

カリグラは頭が悪いわけでも、モンスターでもなかったが、若くしてローマ帝国の最高権力者になるほどの器ではなかった。最後は近衛軍団の一人に暗殺される。

教訓:金をばら撒くだけの人気取りは長続きしない

3.クラウディウス

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カリグラ の暗殺によって突如皇帝になったが、クラウディウスには軍人としても政治家としての経験や実績はなく、歴史の研究をしていたらしい。その割にはまともな政権運営をする。秘書官たちが優秀であったこともあるかもしれない。

しかし若きアグリッピーナと再婚することで運命は急転する。アグリッピーナは自分の連れ子であるネロを皇帝の地位に就けるために、クラウディウスは毒キノコを食わされて殺される。

教訓:若い頃に女を見る目を身につけるべし

4.ネロ

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カリグラよりもさらに若く、10代の若さでネロは皇帝に即位し、元老院もローマ市民も歓迎する。

いつの時代も若いリーダーは歓迎されがちなようだ。

とはいえネロの就任直後の数年間は善政と言って良かった。セネカという知識人が相談役としてサポートしていたためだとも言われる。しかし皇帝として政務をするに従って自信をつけたのか、セネカが引退した頃から母と妻を殺害するなど恐ろしい行動をし始める。

紀元64年にローマで大規模な火災が発生する。ネロは陣頭指揮を取り火災の鎮圧とその後の再建に務める。しかしこの緊迫する時期にネロは奔放な行動をしすぎてしまう。徐々にネロに不満を抱く人が多くなり、複数の暗殺計画がたてられた。追い詰められて逃げ場を失ったネロは自殺に追い込まれる。

ちなみにローマ大火の時にキリスト教徒を虐殺したことで、2000年後にもネロの名は悪名を轟かせている。ただこの種のスケープゴート的な手法は古今東西の政治家がやってきたことであるとも思う。

教訓:いつまでも人気があると思ってはいけない



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