【名盤レビュー】ALIVE / SOPHIA(1998)
ALIVE / SOPHIA
「little circus」から1年というスパンでリリースされた、SOPHIAの2ndフルアルバム。
初回生産分は、スリーブケース仕様で舞山秀一によるイメージ写真集が付属している。
今でこそ、大名盤として語られることも多い本作であるが、正直なところ、リアルタイムで聴いたときは戸惑いが先立った。
前作「little circus」は、ヴィジュアル系ポップロックをメジャーシーンにて昇華した名作であり、シングルカットされた「街」とともにロングヒット。
名実ともにブレイクを果たした中での新作発表となれば、ファンならずとも注目を浴びることになる。
そこで求められたのは、「little circus」の続編とも言える、ポップでキャッチーなSOPHIAだったのは間違いなく、カラフルさを削いで、精神的な重厚さを持つ本作は、"期待外れ"と見る向きがあっても仕方ないのかもしれない。
先行シングル「ゴキゲン鳥 〜crawler is crazy〜」が新境地的な作風だったとはいえ、ここまでガラっと変えてくるとは思ってもいなかったのである。
しかしながら、注目度がピークとなったタイミングで表現したいことを表現しきったことが、本作が正当評価を得られた要因であるのも事実だろう。
メディアへの露出も多く、本作に込めたメッセージに触れる機会も多かったし、当時はまだ、歌詞をしっかり読み込んで聴くという文化もあった。
ある程度、ふるいにかける部分はあったにせよ、"生きる"というテーマに真摯に向き合ったシリアスな作風は、思春期の少年少女に大きな衝撃を与えたのである。
僕もそのひとりで、俯瞰的な視点と、等身大の葛藤が混在する本作の奥深さに圧倒されてしまった。
ソフトヴィジュアル系は得てしてラブソングを歌う、という偏見に塗れた方程式はガラガラと崩されて、共感を超えた、自分自身の歌となる。
人生に影響を与える音楽とは、そうか、こういうものなのか。
音楽性という外観だけではなく、内面性も含めた世界観というべきか、総合芸術というべきか、本作に付随するすべてに対して心酔していたのは、きっと僕だけではないはずだ。
およそ四半世紀経って、本作の息は長いな、と改めて振り返る。
思春期には思春期の葛藤を、青年期には社会に擦り切れそうな無常観を、家庭を持てば重くのしかかる責任を、生きていくうえで逃れられないものとして受け止めながら、それでも前を向く力強さを与えてくれる本作は、年齢を重ねるほどに味わいを増し、もはや、ともに人生を歩んでいるような感覚になっていた。
そんなリスナーが多いからこそ、今でも、いや、今だからこそ、本作が大名盤であると言えるのだ。
1. ゴキゲン鳥~crawler is crazy~(album version)
イントロの前に環境音のSEが追加されている。
最初はコミカルさのある楽曲と認識していたのだが、このアルバムに収録されたことで、そのアイロニカルに人間のちっぽけさを表現した歌詞の奥行きがぐっと増した印象。
1周目と2周目で、まったく異なる味わいを持つ楽曲と言え、リピートして聴く意味を与えてくれるのである。
2. DIVE
歌モノ的な要素が強いミディアムチューン。
美しく、切ない旋律は、ストレートに料理すれば聴きやすいリードトラックとなり得るのだが、あえてキャッチーに仕上げず、ザワザワとした空間系のノイズを全編的に散りばめていて、どこかフィルター越しに世界を見ているような感覚を受ける。
純粋さを懐かしんでいるようでもあり、それが薄れていくことに空虚さを感じているようでもあり、気が付けば、早くも「ALIVE」の海にダイビングしていたといったところか。
3. この風に吹かれながら
またもミディアムナンバーが送り込まれた形で、ある種、前作との違いを決定づけた楽曲と言えよう。
淡々と、シンプルなメロディだけで構成。
それなのに、詩の力が強いせいか、何もないところでも心を揺さぶられてしまうのだ。
"生きる"というテーマに照らして聴いてみると、宇宙規模で見れば平坦な道の上を、僕らは日々、様々な感情を散らして歩いているのだよな、なんてことを考えさせられた。
4. -&-
キーボードの鮮やかなフレーズや、エフェクトをかけてノイジーに仕立てたパートなど、アレンジ面ではアクセントを加えつつ、サビのメロディは極限までシンプル化。
特に1番のサビは、たった1行だけ。
だけど、なんとなく心が満たされない感じや、悩みや葛藤が渦巻く中で、カラ元気でも前向きでいようと無理しているような、複雑な感情がひしひしと伝わってくるのだから面白い。
メッセージ性にしても、音楽性にしても、「この風に吹かれながら」と「-&-」のコンビネーションが、本作の肝ではないかと実は思っている。
5. forget
本作において、ハードな楽曲と形容できそうな唯一のナンバー。
荒々しいロックチューンなのだが、全体的にザラザラとしたエフェクトをかけていることで、劇中劇のような、不思議な感覚を持ち込んでいる。
ライブのための激しさではなく、コンセプチュアルな作品の中に必要な激しさ。
唐突にこんな楽曲が放り込まれたのに、違和感なく構成されているのが、彼らのセンスの恐ろしいところであろう。
6. 口笛
タイトルどおり、ギターと口笛のみでラフに録音したインスト。
1分程度のブリッジ的な役割。
7. チョーク
SEを挟み、「forget」と2曲続けてのBa.黒柳能生の楽曲が続くのだが、そのコントラストに驚かされるお洒落で穏やかな雰囲気モノ。
気怠く、流すように歌い上げられるメロディラインの心地良さは、本作中随一。
全体的にミディアム調の楽曲が多いアルバムではあるが、メンバー5人のうち、4人がコンポーザーになっていることで、音楽性としてはむしろバラエティ性に富んでいる。
8. 坂道
SOPHIAがお得意とするパワーバラード。
ほどよくキャッチーで、どのパートのサビのような独特な構成により、どこを切り取っても右肩上がりで盛り上がっていくのが特徴だろうか。
アナログ的なザラついた質感。
この表現にも意図があるのだろうが、明確な答えが提示されているわけではなく、リスナーそれぞれの人生に結び付けて解釈するように仕向けているのでは、なんて勘繰ってしまう。
9. Replay
メロディとしてはワンパターンのみ。
1曲だけを単体で示されても、パッとしないというのが正直なところだろうが、この位置に置かれると、壮大な広がりをもたらし、大きなインパクトを残すのだから不思議である。
徐々に迫ってくるようなアンサンブルと、じわじわと心の内側に侵食する歌詞。
シンプルすぎるこの曲で、何故だか泣きたくなるのだ。
10. 君と揺れていたい
とにかく、ありとあらゆる方向から心を揺さぶられる本作。
ここでシングル曲が入ってくると、なんだかほっとする。
正統派の歌モノであり、本作のラインナップに入っても違和感はない一方で、ポップさ、キャッチーさ、素直に聴きやすさを重視したアレンジは、逆に新鮮さをもたらしていた。
11. 蜘蛛と蝙蝠
唯一、「little circus」からの流れを連れてきたような軽やかなポップロックチューン。
その点では異質ではあるのだが、「君と揺れていたい」からの繋がりで、とても美しくシフトチェンジしたといったところ。
例えば、この曲を2曲目に据えていたら、アルバムの印象がガラっと変わっていたのだろうな。
もっとも、ラストスパートとも言えるこの清涼感が、続く「ALIVE」をより際立たせるための伏線なのだが。
12. ALIVE
時間としては、たった5分。
それなのに、この1曲でアルバム1枚分ほどの熱量が込められていると言ってもいいであろう、無数のリスナーを飲み込み圧倒した表題曲。
この曲が存在しなければ、そもそも「ALIVE」はこのような構成になっていなかっただろうし、SOPHIAは「little circus」が最高だったよね、でファンの意見が一致するバンドで終わっていたかもしれない。
それだけの影響力があり、価値観を書き換えるだけの衝撃を放っていて、"生きる"ということを真正面から考えるきっかけを与える1曲であった。
ラストの怒涛の展開と、その後に残る余韻といったら。
13. about
余韻に浸るように、軽いタッチで軽やかに演奏されるショートチューン。
クールダウンをさせてくれることで、1曲目にリピートする余裕を取り戻させてくれる。
おそらく、「ALIVE」で終わっていたら、そのパワーに痺れたままで、リピートボタンすら押せなかったと思うのだ。
先日、遂にSOPHIAの再始動が発表された。
リスナーとともに年齢を重ねた彼らが演奏する楽曲は、どんなに説得力を増していることだろう。
サブスクリプションサービスでの配信も開始され、より触れやすくなったのもありがたい限り。
なんだかんだ、人生はまだ長い。
まだまだ、隣に寄り添っていてほしい作品である。
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