【ミステリーレビュー】密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック/鴨崎暖炉(2024)
密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック/鴨崎暖炉
葛白香澄と蜜村漆璃による密室シリーズの第三弾。
内容紹介
解説/感想(ネタバレなし)
リアリティの追求は後回しにして、密室殺人が横行している世界線における連続殺人。
殺人事件数も、6件、7件ときて、本作では8件と過去最大になっている。
トリック数だけで言えば、+αの数が用意されていて、とにかく密室トリックだけに特化した作品。
短編集ではなく、1冊の中にこれを捻じ込んでしまう力業には、毎度のことながら圧倒されてしまう。
"人が書けていない"の批判は、完全無視。
ストーリーはあるようで、ないようで、ご都合主義も散見される。
限られたキャラクターの中でいくつも密室殺人を実行するのが前提となっており、せっかく個性が強そうなキャラが登場しても、次の登場シーンは死体で、というケースも少なくない。
ただし、序盤は思ったよりも本格的。
多重解決的な要素もあれば、西と東で分断されて香澄と夜月がそれぞれの視点人物となって殺人事件に挑む展開は、これまでになかった要素だ。
漆璃が合流してからは完璧すぎて淡泊になってしまうが、登場を遅らせた意味は十分に感じる構成になっていた。
とにもかくにも、"八つ箱村"というフレーズを思いついた時点で勝ちだろう。
その名前から逆算して、鍾乳洞の中の特殊な村という設定を考えたのでは、と思うほど。
設定だけでなく、きちんとトリックにも活用されているところが見事で、好き嫌いは明確に分かれそうな作風ではあるが、エンタメ性に特化したバカミススレスレの密室トリックを受け入れられるなら、非常に贅沢な1冊である。
総評(ネタバレ注意)
相変わらず突っ込みどころは多くて、痛覚を感じない人間が設定どおりに存在するなど、いくらなんでも無理があるでしょ、というトリックは少なくない。
これを企んだ零彦は孫を殺す気満々だったのかと思うと、密室に憑りつかれたというのも嘘ではないのだろう。
トリック館ならぬ、トリック村。
大富豪とはいえ、スケールが大きすぎる。
前述のとおり、序盤の構成は特に面白かった。
探偵不在の中、即席の探偵役を見繕って、それぞれで発生した密室トリックを看破。
しかし、双子トリックが重複して矛盾が生じるという展開は、東西で分断されていたからこそ。
結果的に、犯人自ら推理していた形になるのだが、ひとつについてはちゃんと回答を導いているからサービス精神旺盛だ。
一方で後半はスケールが大きくなりすぎて、理解が追い付かなかったのも本音。
トリックの多さ故に淡々と事件が解決していくのだが、展開がスピーディーすぎてゆっくりトリックを嚙み締められないというジレンマが発生している。
実現可能性はともかく、これだけの密室トリックを集められるのは圧巻。
アイディアを形にするだけでなく、ひとつの世界観の中に押し込めてしまうセンスも凄い。
これに、香澄と漆璃との関係性の変化や上積みで、物語が動き出したらより面白くなると思うのだが、本作においては進展なし。
犯人の逃走方法も少し雑な気がして、ラストにもうひとつ、次回作への引きになるような工夫があればといったところか。