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【ミステリーレビュー】リピート/乾くるみ(2004)

リピート/乾くるみ

タイムリープ+ミステリーの代表作とも言える、乾くるみによる青春ミステリー。



内容紹介


もし、現在の記憶を持ったまま十ヵ月前の自分に戻れるとしたら?
この夢のような「リピート」に誘われ、疑いつつも人生のやり直しに臨んだ十人の男女。
ところが彼らは一人、また一人と不審な死を遂げて…。
あの『イニシエーション・ラブ』の鬼才が、『リプレイ』+『そして誰もいなくなった』に挑んだ仰天の傑作。

「BOOK」データベースより


解説/感想(ネタバレなし)



大学生・毛利圭介は、風間と名乗る男から予言の電話を受ける。
彼は、未来からタイムリープしてきたと言い、実際に地震の発生を言い当ててしまった。
そして、毛利にも10ヵ月前の世界に"リピート"する権利を与えようと提案してくるのだ。

明らかに胡散臭いが、魅力的でもある誘い。
前半は、同じように集められた9人とともに、"リピート"の真偽について議論したり、それに対する駆け引きをしたり、といった内容が主軸として描かれる。
いつでもどこでもタイムリープできるわけではなく、とある場所で一定時間だけ偶発的に発生するワームホールに入ることによって、それとリンクしている10ヵ月前の同じタイミングに戻ることしかできない、という設定が巧み。
何度かタイムリープしている風間は、情報を持っているという点で優位であるが、決して万能ではないというのもポイントだ。

そして、後半は、実際に"リピート"をしてから。
リピートしてきたメンバーが、次々と不審な死を遂げていく。
世間的には連続しない事件であっても、主人公たちからすれば"ミッシングリンク"がわかっている、という状況を作り出したのが斬新。
そもそも、リピートしたらやり直しになる世界で、リスクを負ってリピーターを殺しまわる動機が不明。
そんなホワイダニットをメインディッシュに、意外な展開が続く終盤の畳みかけは圧巻だった。

それにしても、読めば読むほど、毛利が好きになれない。
最初は持たざる主人公、といった印象なのだが、徐々に女性関係のだらしなさや、自分本位な性格が鼻につくようになっていくのは、著者の計算通りといったところかな。
トゥルーエンドを目指してほしいという気持ちと、何かしらの天罰がくだってほしいという気持ちが混在しながら読み進める小説、というのも珍しいのではないだろうか。



総評(ネタバレ注意)


初版が発表された2004年は、既に携帯電話は普及しきっていて、SNSも広がり始めていた時期だったが、あえて1991年を舞台に設定。
固定電話しか連絡の手段がなく、不在だったら手の打ちようがないという描写には、ノスタルジーを感じずにはいられない。
もっとも、現代が舞台だったら、こんな眉唾な話、情報を漏らさずに何度もループするなんて事実上不可能だっただろう。
リピーター候補たちが、"まずは乗っかってみよう"となっていく感覚は、現代人には理解しきれないかもしれないな、と。

リピートの真偽については、結局は"真"。
乾くるみだし、リピートするまでの過程をやたら細かく描写するし、ということで、リピート後の世界においても何らかのトリックがあると想定してみたが、それはブラフだったらしい。
だとすると前半は冗長かな、と思わないでもないものの、本番はリピート後。
リピーターが次々と死んでいき、リピーターだけがミッシングリンクを知っているという特殊設定のミステリーがスタートする。
協力で進むのか、疑心暗鬼で進むのか、どちらのルートにも転びそうで転ばない危うさが独特のスリリングさを生んでいて、読み進めるペースがアップしたものだ。

起こっていたことの真相については、完全に裏をかかれた形。
素直に膝を打つしかない。
ただし、毛利が死なずに済んだのは偶然によるものであり、自ら真相に辿り着いたわけではないという点がやや不完全燃焼か。
元カノを逆上して殺した結果、死を免れ、現在の彼女を妊娠させた結果、首謀者の悪趣味に引っかかり答えを教えてもらった、というクズさ故のゲームクリアは、なんだかモヤモヤが残る。
もっとも、それも狙いだったのかもしれないが。
最後のリピーターとなった毛利に訪れる運命。
バッドエンドなはずなのに、なんだかスカッとしたのだもの。

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