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【名盤レビュー】mind soap / Raphael(1999)

mind soap / Raphael

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Raphaelが残した、唯一のオリジナルフルアルバム。

もう、彼らのようなバンドが登場することはないのだろう。
それは、90年代への美化や盲目的な懐古主義で言っているのではなく、"中二病"という概念が定着してしまったからだ。
思春期の多感な時期に陥りがちな"他人にわかってもらえない"という感覚。
その孤立感に起因する苛立ち、悩み、葛藤。
更には自尊心やプライドが混ざり合ってぐちゃぐちゃになる、当時は言語化されていなかった中高生特有の行動原理が、彼らの音楽には生々しく表現されていたのである。

その中心にいたのが、Gt.華月。
鋭すぎた感性により、わずか19才でこの世を去る天才は、そんな"他人にわかってもらえない"という想いを、あえて包み隠さずにシーンへと放ってしまったのだ。
すぐに背中を押そうとするJ-POPが溢れているけど、歩いている場所が、ホームの白線の外側だったらどうだろう。
僕らが本当に欲していたのは、同じように白線からはみ出した人がいて、同じように迷っているよ。
そんな共感だったのだと思う。
もうすぐで線路に突き落とされそうになっていたあの頃の少年少女にとって、"Raphaelに救われた"というのは、あながち誇張ではないのだ。

"中二病"という言葉は、それらを端的に言語化した一方で、メタ視点を与え、若い世代には反面教師的に、乗り越えた世代には黒歴史として"恥ずべきもの"や"痛々しいもの"として陳腐化してしまった感がある。
彼らが描く思春期の苦しみは、今では"中二病"として冷めた目に晒されてしまうのかもしれないし、リアルタイム世代でないと、彼らの登場がいかに衝撃的だったか、なかなか感覚的には落ちてこないだろう。
なんだかもったいないなと思う反面、"他人にわかってもらえない"が強まるほど、この作品が魅力的になっていく。
大人になってから聴くRaphaelも、なかなか味わい深いものである。


1. シナゴーグ前奏曲第3楽章~変ホ長調~

1曲目を飾るのは、お約束であるインストシリーズ。
教会音楽風のサウンドメイクで、クラシカルに幕を開く。

2. さくら

スピード感に溢れた、ソリッドなナンバー。
「さくら」というタイトルの響きには和の香りが漂うも、サウンド的にはジャーマンメタル風のアプローチ。
メロディは大きく2つのパターンしかなく、実にシンプルに仕上がっている。
目を見張るのは、Vo.YUKIによる鮮やかな表現。
抑揚を入れ込む余地が少ない楽曲であるにも関わらず、桜の散る情景を見事に描ききったと言えるだろう。

3. 小夜曲~悲愴~

立て続けに送り込まれたファストチューン。
ただし、こちらは東欧の民族音楽のようなフレーズも織り込んで、様式美的な側面を強めている。
メタルサウンドに異国情緒を持ち込んで、耽美性を高めるアプローチは華月の得意技。
ギターソロのインパクトも抜群で、序盤のスタートダッシュには外せない、彼ららしい楽曲であった。

4. 花咲く命ある限り

記念すべきメジャーデビューシングル。
純粋さを失いたくない、という華月の心情がダイレクトに歌詞へ反映されており、多くのリスナーの心に刺さることとなった。
激しく疾走するドラムと、相反する、伸びやかさを強調したメロディラインが、ミスマッチどころか、絶妙のハーモニーを奏でているから面白い。
シングル曲らしいギミックは残して、単体で聴いても充実感あり。
大団円的に終わるアウトロの影響もあり、スタートからの疾走曲コンボに、ひとつ区切りをつける役割もありそうだ。

5. ピーターパン症候群

フェードインから始まる変則的な楽曲。
メロディアスなサビを聴けば、ハードな楽曲群を抜けて歌モノパートに移ったのかと思わせるのだが、そこに辿り着くまでの構成が異質なのである。
キメが多く、ヒステリックに掻き鳴らすギターパート。
不規則なリズムを展開して、あえて重さを出そうと試行錯誤を繰り返すベース&ドラム。
一筋縄ではいかないコンビネーションが見事に決まった形であろう。

6. promise

この作品から、マキシシングルサイズのパッケージでリリースされることとなった3rdシングル。
イントロのギターのリフからアウトロの余韻まで、常に盛り上がった状態で走り抜けていくのだが、サビで更なる最高潮が待っているのはさすがである。
アルバムにおいても、休む間もなく第二のピークが来たといったところで、このエネルギッシュな詰め込みっぷりには、当時10代の彼らの若さに嫉妬してしまう。

7. ハックルベリーの恋

終盤に差し掛かろうとしているところで、ようやくアクセントらしいアクセントが。
しかしながら、なかなかどうして、これがまた佳曲。
カントリー風のサウンドワークに、印象的なメロディ。
歌詞は少し薄い気がしないでもないが、こんな引き出しを持っていたとは、と驚かされる。

8. eternal wish~届かぬ君へ~

彼らにとって大事な1曲であるというのは、後に2度目のシングル化を果たし、3回目のレコーディングが行われたことからもわかるであろう2ndシングル。
ストレートなバラードナンバーで、歌詞やメロディには拙さもあるのだが、その背伸びした感性が、彼らの純潔性を助長している。
素朴な節回しにYUKIの歌声が活きており、たった1曲で、3曲ぐらいで歌モノパートを構成したのと同等の充実感を与えてしまうのだから恐ろしい。

9. Holy mission

Raphaelの魅力は、YUKIの歌声だけじゃない、と言わんばかりに演奏陣が気を吐いた1曲。
ハードなリズムが生み出す疾走感と、正攻法に突き抜けたギターサウンドが、ファンタジックな世界観に、実態をもたらしているかのよう。
シンセの音色も効果的で、激しい音像に壮大なフレーズを重ねることで、ここが夢か現実か区別できないほどの非現実性を再現。
サウンド的には世界各国を渡り歩いた本作も、遂にはフィクションの世界にも辿り着いてしまったぞ、といったところか。

10. 吟遊詩の涙

いよいよクライマックスとなり、哀愁を感じさせる歌モノをここにセット。
なんとなく「Holy mission」と入れ替えたほうが収まりがよさそうな気もするのだが、ラストへ繋ぐことを踏まえれば、この選曲も悪くはない。
明確にクラシカルなフレーズを用いているわけではなくとも醸し出される異国情緒。
アルバム全体で1本の串が通されていて、諸々の付加価値がなかったとしても名盤であったことを証明していた。

11. 僕と「僕」

ラストは、自分の中にある痛みに全力で向き合ったバラード。
精神世界にこもりすぎて抽象的、あるいは断片的になっている感はあるのだが、それでも深層の部分で共鳴してしまう。
「mind soap」というアルバムが出した答え。
圧倒的な表現力による壮絶なエンディングは、じっくり歌詞を考察したうえで堪能したいものである。

華月の死により伝説へと昇格した印象はあるものの、10代でデビューして、このクオリティの作品を残したという事実だけを切り取っても、遅かれ早かれレジェンドバンドとして名を馳せていたはず。
だからこそ、素直に、華月がいるRaphaelの2ndアルバムが聴きたかった。
「ピーターパン症候群」の歌詞にある"大人になんてなりたくない"を、自らの身をもって再現しなくても良かったのにな。

#思い出の曲

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