【名盤レビュー】THE ”420” THEATRICAL ROSES / MEJIBRAY(2014)
THE ”420” THEATRICAL ROSES / MEJIBRAY
オリジナルアルバムとしては通算2枚目にあたる、MEJIBRAYのフルアルバム。
楽曲の量産期にあった2012年~2013年を経て、ベストアルバムの発表から続けざまにオリジナル盤をリリース。
通常盤は、SE2曲が追加収録された全17曲という大ボリューム。
彼らのアイディアの豊富さは、残した楽曲数という客観的な形で証明されていた。
思い出深いのは、彼らを深く掘り下げるきかっけとなった「カルマ-瓦礫のマンティコーラース-」、「サバト」等の代表曲を収録している1stアルバム「Emotional 【KARMA】」になるのかもしれないが、名盤として推すとしたら、間違いなくこちら、「THE ”420” THEATRICAL ROSES」なのである。
彼らの武器は、Vo.綴の持つ衝動性と、Gt.MiAの戦略眼におけるバランスである。
音楽性としては、ハードなメタルチューンを中心としながらも、注目されたきっかけは、むしろキャッチー性。
サビのフックに、タイトルに据えた象徴的なワードを送り込むことで、耳に残って離れない大きなインパクトを創出する彼らのメソッドは、その後のシーンにおいて重要な指標となっていく。
同時期に頭角を現してきたDIAURAとの音楽性を踏まえた対比から、MEJIBRAYをDir en grey、DIAURAをPIERROTに見立てて、次世代の丘戦争としてライバル関係を煽る向きもあったほど、彼らの登場はセンセーショナルなものだった。
さて、この「THE ”420” THEATRICAL ROSES」は、バンド内外でバチバチぶつかりあった結果が、戦略だけでは作り得ない化学反応を生んでいる。
「Emotional 【KARMA】」も衝撃性は十分に高かったのだが、狙いがはっきりしすぎて、展開が読めてしまった部分があった。
一方、本作は、トータルコーディネートを意識しつつも、偶発性を味方につけた印象。
シングル曲とアルバム曲、という役割に沿った楽曲をただ落とし込んでいくだけの手法から一歩踏み出して、1曲1曲に個の強さを与えたい、というエゴイスティックな面を押し出した結果、熱量の高さもパッケージできていたのかな、と。
1. IDEA
空間系のサウンドを使ったSE。
シームレスに次の楽曲に繋がっており、実質的にはイントロの強化と言えるのだろう。
2. シアトリカル・ブルーブラック
先行シングル扱いとなるのか、アルバムのスタートダッシュとして据えられた王道的ナンバー。
タイトルをサビのフックで、という彼らの黄金パターンを改めて展開しており、一度聴いただけで何度も口ずさみたくなるインパクトを放っていた。
MiAはDo As Infinityに音楽的な影響を受けていることを後のインタビューで語っていたが、瞬間的なサビのキャッチーさは、代表曲である「サバト」や「アヴァロン」と同様、なるほど共通項を見出せそうだ。
3. DiefiL
勢いを継続させるスピード感が特徴のメタルチューン。
テクニカルなリフを刻むギターと、ヘヴィーな印象を消さずに疾走していくリズム隊との相性は抜群であった。
シャウトに頼らず繊細なメロディを紡ぐヴォーカルラインも含めて、これをシングル曲、あるいはリード曲にしても映えただろうな、と。
アルバム曲にキラーチューンを持ってくる、1stアルバムには見られなかった思い切りの良さにも成長が見える。
4. Hungry Psychopath
アクセントとなるミディアムナンバーとなるのだろうが、テンポを落としすぎずダンサブルに仕上げたことで、序盤のテンションを持続。
聴きどころは、綴による表現力の向上であろう。
必ずしも綺麗に高音が出ているわけではないものの、掠れた歌声が余計に哀愁を誘う。
どうしても攻撃性の高いシャウトに評価が集まりがちではあるが、叙情的な表現も武器になることを示した1曲となった。
5. Mr.レインは死んだふり
ミディアムナンバーを続けた形だが、ヘヴィーなサウンドと、ドラマティックな構成を活かすアプローチをとっており、似たような楽曲が並んだという印象はなし。
むしろ、耐えに耐えた感情を吐き出すようなカタルシスを生んでおり、俯瞰的なアルバム構成の上手さを垣間見ることになった。
シャウトを織り交ぜた感情表現については、もはや綴の真骨頂である。
6. RAVEN
シングル曲ではあるが、アルバムに入って真価を発揮。
モダンなラウドチューンの体裁をとっているが、まるで組曲の1パートであるかのように、総括にぴったりな楽曲でもあった。
スタートからここまで、コンセプチュアルなミニアルバムとして通用するほどに流れが美しく、単体で聴くよりもインパクトが大きい。
シングル曲のポテンシャルを最大限に引き出しているというのも、名盤の条件であろう。
7. 埋葬虫
攻撃的なギターと、神秘的なシンセの融合が、唯一無二の世界観を引き出すハードなナンバー。
ずっしりとヘヴィーなメタルコアサウンドをベースにして、ほぼ全編をシャウトで突っ切ってしまう。
演奏面での緩急はあれど、ここまで重ねてきた叙情的な流れを真っ黒に塗り潰すほどの破壊力。
「RAVEN」の次にこれを持ってくるとは、整理とチャレンジのバランスが絶妙としか言いようがない。
8. Contagion
折り返しとなるロッカバラード。
歌モノに寄りすぎると、線の細い歌唱が気になる部分もないわけではないが、声色を次々と変えてギミックを強めることで補強。
3分台のコンパクトさにまとめたことで、飽きさせない範囲で壮大さを引き出すことに成功していた。
9. Echo
リードトラックとなる「Echo」は、ピアノとストリングスが印象的なミドルチューン。
「Contagion」と異なるタイプではあるが、明確に歌モノパートを仕掛けるという意図があるのだろう。
この楽曲をリードに持ってきたのは意外な気もするが、戦略性の高い彼らのことだ。
ともすればスキップされてしまいそうな部分に、意識的に聴いてもらうための重要性を持たせた、と考えても良いのかも。
実際、楽曲の粒は大きく、ライブでこの曲順が再現されたら、グッとくるのは間違いない。
10. hatred × tangle red × hunger red
デジタル色を強めて、メタリックに攻めた前半戦とは異なるアプローチでのMEJIBRAYらしさを模索したダンスロック。
当時の流行にも歩み寄ったといったところで、聴きやすさは十分。
初期の彼らは"古き良き"を狙いに行っていた感もあったのだが、そればかりではなく、きちんと現代ナイズされた楽曲も自らのサウンドに落とし込めていたのが、頭一つ抜け出すことができた要因でもあったはずだ。
11. 瞬間のアイディアル
もう1曲、キャッチーさに振り切ったダンスロックが送り込まれた形。
ポップさを押し出しても、媚びた感じがしないのが不思議なものだ。
ストリングスを噛ませてシンフォニックな雰囲気を加えつつ、アッパーに仕上げ、アニメのタイアップがハマりそうな曲調に。
バンドが違えばシングルになりそうな垢抜け方をしているのだが、それをアクセント的なアルバム曲として使ってしまうのだから、つくづく贅沢なバンドである。
12. BOWWOW
終盤に向けて、そろそろ流れを戻そうか。
ヘヴィーなサウンドからは、そんなメッセージを受け取ることができる。
とはいえ、展開はカオティックで、あえて癖を強めている印象。
ボイスチェンジャー風の歌声や、ポップなパートも用意されている構成など、なんとも一筋縄ではいかないギミックが目白押しであった。
13. SUICIDAL WORD GAME
いよいよ本格的にスピードアップ。
ハードに疾走、キメのパターンも豊富である。
ここまでがっつり作り込まれているのであれば、あとはやりたいことをぶちかますだけ。
ギターの主張も強く、テクニカルな奏法だけでなく、フレーズのインパクトでもきちんと勝負できているのが好印象だ。
14. SERVANT
こうなってくると、一番盛り上がるところに王道曲を持ってくるのは必然だ。
「BOWWOW」からの助走を踏まえて、真正面から飛び込む思い切りの良さ。
アルバム曲の中にも爆発力のある楽曲を持ってこれたのは、ベストアルバムを発表したばかりというタイミングで、収録されるシングルが少なかったのも奏功したのかもしれない。
15. Cristate
「SERVANT」をピークとして、クロージングに向かっていくラスト前。
ピリっとシリアスに引き締めるかと思いきや、サビではメロディアスな展開も。
すっかり落ち着かせていくのかと予測してしまっていただけに、もうひと盛り上がりあることにテンションは再び上昇。
瞬間的な高揚感としては、本作の中でも随一ではないかと。
16. 鳥は泳ぎ方を知らず溺れ亡骸
正真正銘、シリアスに展開されるミディアム~スローナンバー。
淡々と、退廃的に進行していく中で、スイッチが入ると一気に壮大に。
その後も、アコースティック調になったり、シンフォニックなサウンドも飛び出したりと、ドラマティックな展開を見せ、7分弱の長尺に仕上がっている。
ラストの絶叫が、すべてを収束。
シアトリカルな演出も効いていたのでは。
17. COPERNICUS
エンドロールが目に浮かぶ、スペーシーなSE。
大長編の映画を見たかのように余韻に浸ることができる。
ヴィジュアル系との決別を表明するメンバーがいる等、活動再開の目は現状では低いと言わざるを得ない状況。
それでも楽曲にはまだまだ現役感があり、ラストツアーの千秋楽、幕切れとなったシーンの衝撃は未だに生々しい傷痕として残っている。
例えそれが希望的な意味を持たないのだとしても、いずれ伝説として語り継がれるバンドの仲間入りを果たしたと言えるのだろう。
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