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まいにち子育てヒント#20 日本保育学会レポート

令和元年5月4,5日に東京にて日本保育学会の第72回大会が開催されました。

昨年は仙台開催だったので移動が大変でしたが、今回は東京だったので気軽に朝から参加することができました。

日本保育学会とは文字通り保育に関わる研究者や実際に保育に携われている方々が集まる学会です。幼稚園と保育所が文科省・厚労省で二元化されているなかで、日本保育学会では両者の実践者が研究を交流するところに大きな意義があります。

僕は学会員ではないのですが、学生という立場で大会を見学に行きました。一般の方も参加費を支払うことで見学することができます。

大会は年一回開催されて、保育に関する多岐にわたる研究者が一堂に会して研究内容を発表します。各ブースで口頭発表が行われたり、ポスター発表やシンポジウムがあったりします。また、保育に関わる企業が商品を紹介しているブースもあるのです。

あまりにも展示や発表が多く、僕が見られたのはごく一部ですが、そこからみなさんにいくつかご紹介いたします。

(タイトルは登阪が要約して付けています。)

◯女児が女の子を描く際のジェンダー規範のあらわれ

子どもが人間を描くときに、ジェンダー規範がどのように反映されるかという研究です。

以前から、3歳以降に描写に男女差をつけはじめることがわかっていました。また、5歳からは女性の描き方に性差が現れ、女児は女性を華美に描くことがわかりました。

これは、8歳で写実性を獲得してから収束するそうです。

3歳以降に現れる女性の描き方は、長い睫毛やスカート、長い髪の毛などです。これが5歳からはウインクして星が飛んでいたり、ヒールを履いていたり、背景にハートが浮かんでいたりします。

この研究では、大人が色や形をかわいいと褒めることで女児にジェンダー規範が内面化されると仮説を立てました。

すなわち、保護者のジェンダー規範と華美さが相関関係にあるのではということです。

そして実際の女児の描画とインタビューを行ったところ、実際に保護者が娘に期待する女性らしさと描画に相関が見られました。

◯絵本の読み語りについて

読み聞かせを、コミュニケーションとしての「読み語り」と再定義し、保育者の読み語りに関する意識について調査した研究です。

アンケートから、保育者が自分の好きな本を読む傾向にあるとわかりました。読み語りの実施頻度自体も、保育者が絵本を好きだったかどうかに左右されるようです。

読まれている絵本は有名なものが多く、同じ本を何度も読むことになって困っている方もいます。一方でかつて読まれたような昔話はあまり読まれなくなっています。また、保育者は読み語りの重要性を知りつつも、実際には活動と活動の隙間にある時間を潰すような用途で実施するため、一回の読み語りの時間は10分未満になることが多いようです。

他に保育者の方の感覚として、3歳と4歳のクラスでは集中力のばらつきがあり、工夫を求められると感じています。

また、自分のコミュニケーション能力が必要であることや、絵本に興味を示さない子どもが増えていることに対する不安があるようです。

◯保育における理論と実践(シンポジウム)

保育では理論と実践をどのように関連づけるのか。

そもそも保育では実践がなければ理論を語ることが出来ず、したがって常に実践優位でした。しかし理論を軽視しては、実践が検証されないまま運用されてしまいます。

このシンポジウムではこのような難しい関係にある理論と実践について、特に軽視されがちな理論に目を向けながら研究者の方々が話を進めます。

非常に多くの話があったので僕が特に興味深かった点をまとめます。

保育の世界では事実上実践のみが語られていて、実際に日本保育学会でも理論と銘打ったシンポジウムはここでしか開かれていません。しかし全く理論なしに実践を行うこともまたできず、現場では言語化されていない「素朴な保育理論」とも呼ばれるべきものが運用されています。

この保育理論について、実践との往還関係によって自然とお互いが高まっていくような状態を作ることが出来ないか、というのが課題のようです。

とはいえ養成校で理論を伝え、それと実践との関係性を強調することは難しく、表現の工夫が求められるとも話されていました。

保育の世界を理論化するとき、「保育とは何か」「保育とは何か、を考えるとは何か」というふうに遡っていき、抽象的な哲学まで到達せざるを得ないのではないかと質問をしました。そこでお話しいただいたのは、保育に固有の自己目的性がそれを阻むということです。

すなわち、「遊びはそれ自体を目的とする」という事実があり、これが保育の根幹をなす以上、保育について哲学に持ち込めない領域があるとのことでした。

これは非常に納得がいき、僕の保育観がひとつ深まったように思います。

大会での発表は全体では数百もありました。この全ての営みが、子どもの健やかな発達への努力と貢献になります。それが美しいことだと感じました。

以上、レポートでした。

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