09/11/2020:『Coming Home』

教会の裏手にはパードレが住んでいる小屋があって、寝室が2つと祈祷室、キッチンダイニングがこじんまりとあるだけだった。最初の頃は弱々しい板張りだったらしいのだが、僕が小さい頃には漆喰の壁になり、そしてそれは今も改修を繰り返しながら壁として頑張っていた。

両親は、というか村の人は皆熱心に宗教と向き合っていたから、毎週日曜日のミサには必ず参加していたし、それぞれの家ではきっとことあるごとに祈りを捧げていた。

父はシャツにネクタイ、母と妹はお揃いのワンピース。だいたい他の家族も同じ感じだった。そして日曜の夕方にぞろぞろと教会へ集まり、パードレの説教に耳を傾け、賛美歌を歌い、硬い足置きに膝を乗せて祈る。

ミサが終わる頃にはすっかり夜になっていて、教会の明かりにぼんやりと照らされた道をそれぞれの家まで帰る。

父は時折そこに残って、村の人たちと話し込むことがあった。もちろん、僕には関係のないことだ。

「さ、お家に帰ってご飯食べましょう。」

と、母は妹の手を引きながら歩き出して、僕はポケットに手を入れたまま付き添った。

虫の声が聞こえたり、風が木々を揺らすリズムが届いて来たりした。

そういう道を歩きながら、僕はいつかこの村を出て行く日が来るんだろうなぁと考えていた。

                 ・・・

「まぁ、他にやることがないからさ。だからみんな傾倒するんだよ。」

ゼミが終わって駅前のパブに来た。僕の村の教会と同じくらいの歴史があるみたいだが、こっちの方がよく手入れもされているし人の出入りも頻繁で、何よりもビールが飲めるからいい。

ここの学生は誰しも一度は訪れるパブ。大学院まで残ることになった僕はもう何回来たかは分からない。もしかすると村の教会よりもその数は多いだろう。

「そうなの。いいわね。私はなんの変哲もない街で生まれて、そして育った。それだけなの。田舎も地元も、帰属意識みたいなものはないわ。」

目の前の彼女はミサも教会も、帰属意識も必要ないくらいに綺麗だった。目の前でギネスを飲む姿は間違いなくこのパブの中で最も宗教的な雰囲気を漂わせている。

「そこにあなたと一緒に帰れるなんて。なんだか不思議ね。」

平日でも賑わうこの店は、学生のみならず教授連中、事務員、用務員、その他諸々の大学関係者がみんな使っているから、カウンターの奥の方では僕の師匠が非常勤講師と一緒にいるし、大きな絵が飾ってあるテーブル席には食堂のおばちゃんたちがいた。

「とても楽しみよ、その教会にも行くんでしょ?」

と、彼女が聞いてきた。

「もちろんさ。みんなで歩いて行こう。」

と、僕は答えた。

パブの喧騒がリバーブしながら遠くなっていき、いつか聞いた虫の声や風の音みたいになった。

                 ・・・

今日も等しく夜が来ました。

Duldey Perkinsで『Coming Home』。


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