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御代替わりの儀式──践祚、大嘗祭そして改元まで

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平成の御代替わりでの議論は徹頭徹尾、政教分離がテーマでした。そして令和の御代替わりもまたしかりでした。天皇がなさる儀礼には宗教性があるということなのですが、それは如何なるものなの…
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「昭和天皇の忠臣」が語る「昭和の終わり」の不備──永田忠興元掌典補に聞く(「文藝春秋」2012年2月号)

「昭和天皇の忠臣」が語る「昭和の終わり」の不備──永田忠興元掌典補に聞く(「文藝春秋」2012年2月号)

 昭和から平成への御代替(みよが)わりから20年あまりが過ぎた。今上陛下は78歳(当時)。推古天皇以後では、江戸期の霊元天皇と並ぶ、歴代第4位の御長寿となられた。歴代天皇は若くして退位されており、75歳を超えてなお皇位に就かれているのは、昭和天皇と今上天皇以外にはない。

 陛下はまだまだお元気だが、ご高齢なうえにガンを患われ、療養中だ。15年には前立腺ガンの手術をお受けになり、20年には不整脈を

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昭和22年の依命通牒は「廃止」されていない?──昭和の宮中祭祀改変の謎は深まるばかり(2013年1月26日)

昭和22年の依命通牒は「廃止」されていない?──昭和の宮中祭祀改変の謎は深まるばかり(2013年1月26日)

(画像は宮内庁)

 新たな謎です。

 昭和22年5月、日本国憲法の施行に伴って、皇室祭祀令などの皇室令および附属法令が「廃止」されましたが、宮内府長官官房文書課長名による依命通牒、いまでいう審議官通達が発せられ、宮中祭祀の伝統は守られました。

 依命通牒は5項目の定めがあり、第3項には「従前の規定が廃止となり、新しい規定ができないものは、従前の例に準じて事務を処理すること」とありました。これ

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悠紀殿の神饌御親供は「神秘」にして語られず──荷田在満『大嘗会便蒙』を読む 12(2019年10月17日)

悠紀殿の神饌御親供は「神秘」にして語られず──荷田在満『大嘗会便蒙』を読む 12(2019年10月17日)

(画像は令和の大嘗宮)

『大嘗会便蒙』下 大嘗会当日次第

▽12 悠紀殿の神饌御親供は「神秘」にして語られず

ム、近衛将、剣璽を捧げ、嘗殿の四面の簀子に候し、中臣、忌部、御巫、猿女ら、鳥居内に跪き、主殿、燭を執り、階下に候す

 これは天子が大嘗宮に到りたもうたときのことである。ゆえに貞享(斎藤吉久註=東山天皇の大嘗祭)の次第には、首に「到大嘗宮」の4文字があって聞こえやすい。

 嘗殿西面

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世論誘導に簡単に乗る「生前退位」支持派の人々──小林よしのり先生のブログなどを読む(2016年9月8日)

世論誘導に簡単に乗る「生前退位」支持派の人々──小林よしのり先生のブログなどを読む(2016年9月8日)

「生前退位」論議がどんどん先走りしている。

 ご意向の実現には典範改正か特措法かという議論もさることながら、こんどはNHKの報道が今年の新聞協会賞に選ばれたという。

 たしかに「国民的議論を提起した。与えた衝撃は大きく、皇室制度の歴史的転換点となり得るスクープ」(授賞理由)かも知れない。だが、もともと宮内庁関係者によるリークだろうし、それどころか宮内庁幹部たちが仕掛け人ともいわれる。格調高い皇

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ご意向=「生前退位」と解釈する所功先生の根拠 前編──非歴史用語をあやつる歴史研究家(2016年9月16日)

ご意向=「生前退位」と解釈する所功先生の根拠 前編──非歴史用語をあやつる歴史研究家(2016年9月16日)

 前回は、漫画家・小林よしのり先生のブログをテキストに、陛下のお気持ち=「生前退位」(「退位」「譲位」ではない)と解釈する根拠と問題点について考えました。結局のところ、根拠らしいものは何も見出せませんでした。つまり、メディアの報道を鵜呑みにしているとしか受け取れないのです。

 いや、本当にそうなんでしょうか。5年前、読売新聞の「特ダネ」に端を発した「女性宮家」創設論議でも同じようなことが起きまし

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所功先生、いまさらの「政府批判」の真意──もしかして矛先は男系男子継承維持派に向けられている(2018年9月24日)

所功先生、いまさらの「政府批判」の真意──もしかして矛先は男系男子継承維持派に向けられている(2018年9月24日)

(画像は新元号を発表する菅官房長官。官邸HPから拝借しました。ありがとうございます)

 新元号論議について、書きます。

 報道によると、9月22日、京都の大学を会場に開かれた、元号がテーマの公開シンポジウムで、敬愛する所功京産大名誉教授が、新元号の事前公表について「ルール違反」と指摘したとされます。先生が政府を批判されるとは、驚き桃の木です。

 記事によると、所先生の指摘は以下の通りです。

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「翌年元日」改元か、それとも「践祚の翌月」改元か──30年で一変した所功先生「改元論」の不思議(2018年10月7日)

「翌年元日」改元か、それとも「践祚の翌月」改元か──30年で一変した所功先生「改元論」の不思議(2018年10月7日)

 平安時代以降、代始改元は践祚の翌年に行われる踰年(ゆねん)改元が習わしでした。「同じ年に、臣下が二君に仕えるのは忍びがたい」(『日本後紀』)とされたからです。ところが、明治維新期に一世一元の制が採用され、さらに明治42年の登極令では「践祚ののちは直ちに元号を改む」(第2条)と明文化され、践祚同日改元に改められることとなりました。

 千年以上続いてきた踰年改元の制度が、どのような経緯で践祚同日改

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所先生、葦津「大嘗祭」論の前提を見落としてませんか──葦津珍彦vs上田賢治の大嘗祭「国事」論争 4(2019年10月22日)

所先生、葦津「大嘗祭」論の前提を見落としてませんか──葦津珍彦vs上田賢治の大嘗祭「国事」論争 4(2019年10月22日)

◇日経に掲載されたインタビューへの疑問

 即位礼正殿の儀を目前にして、18日の日経(電子版)に、「儀式は持続と変化の象徴」と題する所功・京都産業大名誉教授のインタビュー記事(聞き手は井上亮編集委員)が載った。

「古代(の儀式)はもっと豪華盛大で、平城宮や平安京における即位儀式の規模は近代を凌いでいます」「明治以降、それまでの中国式を改め、日本式のものを工夫して作り上げた知恵は大切にしてほしい」

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回立殿は板葺き、膳屋はプレハブの異常──荷田在満『大嘗会便蒙』を読む 7(2019年10月12日)

回立殿は板葺き、膳屋はプレハブの異常──荷田在満『大嘗会便蒙』を読む 7(2019年10月12日)

『大嘗会便蒙』上巻 元文3年大嘗会

▽7 回立殿、膳屋その他

ト、回立殿

 さて、紫宸殿の東庭、内侍所の西の方、少し北に寄って、回立殿を建てる。これは大嘗宮に渡御なさるとき、まずこの殿に渡御があり、御湯を召され、御装束を改めなさるところである。

ナ、回立殿の建て様

 建て様は、南北3間、東西5間(昔は長さ4丈、広さ1丈6尺だった)。ただし、西の方3間を1間とし、これにはそのなか2間四方に

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5つの「改元日」。プラスとマイナス──日本だけの無形文化財を後世にどう伝えるべきか(2018年9月30日)

5つの「改元日」。プラスとマイナス──日本だけの無形文化財を後世にどう伝えるべきか(2018年9月30日)

▽1 「二重権威」問題が避けられない政府の事前公表案

 政府は、来年5月1日に皇太子殿下が践祚(皇位継承)されるのと同時に改元するため具体的な準備を進めています。行政機関の情報システム改修には1か月を要するとされ、1か月前の4月1日に新元号を公表することを菅官房長官が会見で明らかにしたのは今年の5月でした。

 当初の予定では新元号の公表は今年夏とされていました。けれどもこれだと今上陛下と皇位を

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「退位の礼」はどうしても必要なのか?──退位と即位の儀礼を別々に行う国はあるだろうか(2019年3月10日)

「退位の礼」はどうしても必要なのか?──退位と即位の儀礼を別々に行う国はあるだろうか(2019年3月10日)

 先週8日、宮内庁の大礼委員会が開かれ、今上陛下の譲位(退位)に関する諸儀礼の式次第が決まった。もっとも重要なはずの賢所大前の儀はずっと後回しにされてきたが、ようやく4月30日午前10時から斎行されることに定まった。

 ということで、あらためて退位の礼について考えてみたい。

▽1 歴史に存在しない「退位の礼」

 大礼委員会の決定によれば、譲位関連の儀式は、3月12日の「賢所に退位およびその期

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御代替わり諸行事を「国の行事」とするための「10の提案」(2018年6月10日)

御代替わり諸行事を「国の行事」とするための「10の提案」(2018年6月10日)

関係者各位

拝啓 皆々様にはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

さて、次の御代替わりまで、早くも一年足らずとなりました。

政府は「前例踏襲」を基本としており、古来の儀礼が非伝統的、非宗教主義的に変更された前回同様の不都合が繰り返されます。次がそうなら、次のまた次も同様であり、いまのままでは「伝統尊重」とは懸け離れた御代替わりのあり方が確定されます。

きわめて憂慮すべき事態であり、国

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有識者たちに望みたい天皇・皇室論の学問的深化──第2回式典準備委員会資料を読む 10(2018年6月17日)

有識者たちに望みたい天皇・皇室論の学問的深化──第2回式典準備委員会資料を読む 10(2018年6月17日)

 第2回式典準備委員会の資料を検証する作業を続けます。

 前々回から、大嘗祭について考えています。前回は番外編的に「御代替わり諸儀礼を『国の行事』とするための『10の提案』」を呼びかけましたが、今回はもう一度、践祚に戻ります。

 御代替わり時のさまざまな問題が浮き彫りになったところで、政府のヒアリングに招かれた有識者たちの発言をあらためて検証してみたいからです。

 結論的にいえば、天皇・皇室

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「立皇嗣の礼」=国事行為を閣議決定。もっとも中心的な宮中三殿での儀礼は「国の行事」とはならず(令和2年3月24日)

「立皇嗣の礼」=国事行為を閣議決定。もっとも中心的な宮中三殿での儀礼は「国の行事」とはならず(令和2年3月24日)

政府は今日の閣議で、来月に予定される「立皇嗣の礼」のうち、「立皇嗣宣明の儀」と「朝見の儀」について、天皇の国事行為として行うことを決定しました。〈https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202003/24_a.html

▽1 国民を前にして伝進される壺切御剣

先々月末、1月29日に開かれた宮内庁の大礼委員会では、以下のような関連行事が予定されていまし

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