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インフラから見る歴史

◆こんにちは。小学校教員のねこぜです。夏休み連続投稿はなかなか負荷がかかっています。「書く」と「読む」は、空気を吸うと吐くのように呼吸そのものです。1年間読んできた本について「書く」ことで呼吸を整えていきます。今回は歴史地形学について。参考文献は竹村公太郎さんの『日本の都市誕生の謎』です。


1.小学校社会科における歴史のポジション

 6年生になると歴史の学習をします。徳川家康や織田信長など、武将の名前を見聞きすることもあってか、子ども達の多くは歴史の学習が始まることを楽しみにしています。
 社会科は小学3年生から始まります。3年生では、主に自分の住んでいる地域(市区町村)のことを学びます。商店街やスーパー、市役所などへ見学に行きます。4年生では、自分の住んでいる県について学びます。地域の安全を守る警察署や消防署についてや、上下水道、ごみ処理施設について学びます。5年生では、日本について学びます。農業、漁業、林業、工業といった日本の産業や高地低地、寒冷地温暖地の暮らしなど。そして、6年生ではまず憲法や政治の仕組について学び、歴史、世界との関わりについて学びます。
 概観すると分かりやすいかと思いますが、3年生では極めてローカルな視点で、そこから4年、5年の自国、6年生の世界へと徐々にグローバルに広がっていきます。これが系統性です。こうしてみると歴史だけ、少し異質であることが分かります。もちろん歴史を学ぶ中でローカル、グローバルの視点は欠かせませんが、どちらかというと過去から未来へという時間軸の話になってきます。4年生で地域の伝統に触れるので少し系統性はあるものの、やはり少し浮いたポジションです。
 特に子どもたちは「歴史」だけ特異な単元だと先入観をもっているので、そこにどれだけこれまでの学び、社会科の見方・考え方を生かしながら取り組んでいけるかが学びを深める上で非常に大きな要素となるでしょう。

2.稲作の広まりからインフラの視点を

 歴史の学習では、縄文・弥生時代からスタートします。狩猟採集生活から農耕生活へのシフトが人間の生活にどのような影響を及ぼしたか推論する、とても面白いところです。縄文時代は1万年以上続いたと言われ、なぜそんなに長く続いたのかというと、一つに大きな争いがなかったという説があります。狩猟採集ですから、他人と争っている暇なんかない、明日食うものをみんなで何とか手に入れるのがやっとだという状況でしょうか。もちろん捕った獲物で争うことはあったのかもしれませんが、「育てる」という概念がない時代。身分の上下もあまりなかったのではないかと言われています。
 そこへ、大陸から稲作技術が伝わります。弥生時代へと移行。縄文時代後期には既に定住化が見られましたがいよいよ本格化していきます。稲作により、食料の安定化と長期保存が可能になりました。人口が増え、より多くの土地と食料が必要となり争いが起こったというところまでがセットです。これらは縄文時代と弥生時代の生活の様子を表した想像図を比較することで子どもたちから多くの気付きを引き出すことができます。

 ここで引き出したいのが土地争いをもう少し掘り下げた推論です。土地だけでなく、生きる上で必要な水源というインフラ視点です。

 水を貯めるダムがない時代、人々は変動する川の水量に頼っていた。1週間も日照りが続けば、川の水は枯れてしまう。干ばつが続けば、上流と下流、左岸と右岸の集落間で水の奪い合いが始まり、血を流す争いが繰り返された。
 水の奪い合いは、日本だけのものではない。人類共通のものであった。ライバル(Rival)という言葉は、Riverから来ている。同じ川岸に住む人々は、仲間ではない。自分たちの集落が生き残るための敵対する競争相手であった。

竹村公太郎『日本の都市誕生の謎』

 戦国時代、武田信玄の「三分の一堰」も有名な治水事業でしょう。世界文明もナイル川といった川沿いで興ったというのも頷けます。このように土地争いという視点からもう少しミクロな視点「インフラ」から見るとより生活実感の伴った理解へと繋がると考えます。
 『日本の都市誕生の謎』では、水源だけでなく木材や湿地帯といった地形学に特化した見方を提供してくれます。

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