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育成の3本柱(その3)#20

「バレーボーラーの一貫育成メソッド」 制作の第20回です。前章では、育成の3本柱の一つである「勝利と育成の両立を志向する育成」について解説をしてきました。

本記事では引き続き、育成の3本柱についてまとめていきたいと思います。

育成の3本柱

本メソッドでは、育成の考え方について下記の通り3つにまとめています。

1. 『世界トップレベルの当たり前』から逆算した育成
2. 勝利と育成の両立を志向する育成
3. セルフコーチングができるプレーヤーの育成

ここからは「3. セルフコーチングができるプレーヤーの育成」について詳しく解説をしていきたいと思います。

3. セルフコーチングができるプレーヤーの育成

育成の3本柱の3本目の柱として「セルフコーチングができるプレーヤーの育成」を掲げました。ここでは、コーチングとは何か、さらにはセルフコーチングとは何を意味するのかを深掘りし、セルフコーチングができるプレーヤーを育成していくためには何が大切になるのかを考えていきたいと思います。

コーチングとは何か

セルフコーチングについて考えるために、まずは「コーチング」という言葉の意味について掘り下げていく必要があるように思います。まずは、その語源から辿ってみたいと思います。コーチングの語源は遥か昔16世紀に遡ります。馬車が初めて用いられたハンガリーの村、コーツに由来するとされています。

今でも馬車のことを英語で"coach(コーチ)"と呼びます。そして、馬車の役割は馬車に乗る大切な人をその人が望むところまで大事に送り届けることにありました。こうしたことから意味が派生し、コーチングという言葉が生まれ、「大切な人をその人が望む場所に到達するために支援をする」という意味で使われるようになっていったのです。そして、現在ではスポーツシーンに留まらず、ビジネスシーンなどにおいてもコーチングの有効性が認められ、一つの手法として使われています。

また、少し話は逸れるかもしれませんがコーチングという言葉は「指導する(ティーチング)」という日本語に翻訳されますが、この「指導する」という言葉とコーチングという言葉の間には決して無視することができないニュアンスの違いがあるように思います。「指導する」という言葉には「ある決められた目標やゴールを具体的に指し示し、教え導く」という意味があり、繰り返しにはなりますがコーチングには「大切な人をその人が望む場所に到達するための支援をする」という意味があります。こうして比較してみるとかなり違ったニュアンスがそこにはあることに気付かされます。そのため、本メソッドでは一貫してコーチングという言葉を使うことで目指す方向性をクリアにしたいと考えています。

セルフコーチングとは何か

ではコーチングという言葉の語源、定義について深掘りしたところで、次はセルフコーチングとは何かという点について考えていきたいと思います。「セルフ」には、例えば「セルフサービス」という言葉からも分かるように「自分自身で」という意味があります。つまりセルフコーチングとは何かを説明するならば「自分自身を自分自身が望む場所に到達するために支援をする」となります。

私たちが目指す理想のプレーヤー像は究極的にはコーチすら必要なく、自分自身が自分自身にコーチングを行い、自らの望む場所へ到達することができるプレーヤーとなります。

セルフコーチングができるプレーヤーを育成するために

それでは究極的にコーチの存在すら必要なく、自律的に自らの目指すべき方向に向かって成長していけるプレーヤーを育成するために私たちコーチには何ができるのでしょうか。

もちろんコーチとしてプレーヤーのためにできることややるべきことは本当にたくさんあると思いますが、セルフコーチングができるプレーヤーの育成に必要なコーチの行動を一つだけ挙げるとすれば、それは「問いかける」ことなのではないでしょうか。

もしもコーチが、プレーヤーに対していつでも上から「教えよう」という態度で関わるとすればプレーヤーの思考や行動はどのようになるでしょうか。おそらくそのプレーヤーは「教えてもらう」まで待つようになるでしょう。それはつまり何を意味するのか。それは、「教えてもらっていないからわからない。できない。」と思考し、自発的に行動することができないプレーヤーを育成するということと同義です。

しかし、もしもコーチがいつでも同じ目線で「問いかける」という行動をとることができればどうでしょうか。最初からベストな答えをプレーヤーが引き出すということはできないかもしれませんが、自分でまずは考え、ひとまずの仮説を立てて行動するようになるのではないでしょうか。そうしているうちに、次第に自分自身に問いかけ、仮説を立て、試行錯誤することが当たり前となっていくのではないでしょうか。

そして、究極的にはコーチから問いかけられるまでもなく、自分自身を俯瞰し、今その瞬間の自分に必要な問いとそれに対する仮説を立て、行動することができるようになっていくのだと思います。

セルフコーチングができるプレーヤーになれば、そのプレーヤーはどんな環境でも自律的に成長し続けることができるようになると思います。そして、それはバレーボールという範囲を超えて、日々の生活や仕事といった場面においても同じでしょう。

コーチは自分自身がそのプレーヤーに関わることができているときに、いつかそのプレーヤーと関わることができなくなる未来を想像し、そのプレーヤーがどんな環境であっても自律的に成長していくことができるように、今何をすべきかを考え続けなければなりません。これは決して簡単なことではありませんが、プレーヤーの豊かな人生を願うのであれば常に意識しておく必要があるでしょう。

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バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。