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オーバーハンドパスのハンドリングについて(3/3)-「トスを溜める」の中身-

オーバーハンドパスのハンドリングについて(1/3)-「持つ」=「接触時間が長い」ではない- 
オーバーハンドパスのハンドリングについて(2/3)-「キャッチ」の判定基準- の続きです。
※2022.9.19 「手のバネを柔らかくする」という表現を「手のバネの硬さを下げる」に修正しました。

「トスを溜める」には3つの方法がある

「トス(セット)を溜める」というのはセッターの重要な能力と考えられていて、そのことが「持てるセッターの方が上手い」になっているのではないか?と思われます(パスの「音」「質」「メカニズム」~持つことは必要なのか?~参照)。しかし、この「トスを溜める」ということにはさまざまな現象が混在していて、その中身を考えることが必要です。

「トスを溜める」とは「セットされたボールが出るタイミングを遅らせる」ことと考えられ、それには、ボールに「接触し始めるタイミングを遅らせる」「接触時間を長くする」の2つの方法があり、さらに、「接触時間を長くする」には、「手のバネの硬さを下げる」のと「持って投げる」の2つの方法があります。つまり、全部で3つの方法があることになります。

①ボールタッチのタイミングを遅らせる

タッチまでに時間を稼ぎ、そこからはやることは同じ、つまり、肘が伸びていくだけであれば「2 way action」にはならないので、キャッチの反則にはなりません。

ボールタッチまでの時間を稼ぐには、
・肘を深く曲げて顔や胸に近いところでボールタッチする
・下肢を深く曲げて姿勢を低くし、より床に近いところでボールタッチする
等の方法があります。

②手のバネの硬さを下げる

(1/3)-「持つ」=「接触時間が長い」ではない- に書いたように、筋腱複合体の力を弱めて手のバネの硬さを下げるとボールの接触時間が長くなりますが、肘の動きは「2 way action」にはなりません。

ハンドリングの原理は「手がバネになってボールを跳ね返す」ことなので、手のバネの硬さを下げる(手を固める筋肉の力を弱める)と接触時間が長くなるわけですが、動きの原理としては何も変わらないので、反則ではありません。

実際に計測しているわけではありませんが、「手のバネの硬さを下げた(持っていない)パス」の方が「持って投げる(キャッチの反則)を速くする」よりも接触時間が長くなりうると考えています。もちろん、持った方が接触時間は遙かに長くすることができます。

③持って投げる(キャッチの反則)

ボールを持てば、確実に接触時間が長くなり、ボールが出るタイミングを遅らせることができます。

「溜める」ことのメリット

上記3つのいずれの方法でも、アタッカーのジャンプがわずかに遅れた場合には、ボールが出るタイミングを遅らせることによって、間に合わせることができます。それによって、攻撃の選択肢を確保し、相手のブロックに負荷をかけることになります。

バレーボール研究第21巻第1号一般演題第8題「バレーボールにおけるキャッチの判断要素に関する研究 ~ボールと手の接触時間からの検討~」に【審判の「キャッチ」判定が分かれるのは、接触時間が0.09 秒から 0.21 秒】というデータがあります。

この中には「②接触時間の長いパス」と「③持って投げる」が含まれていると考えられますが、「接触時間の長いセット」で遅らせることができるのは0.21秒まで、つまり、稼げる時間は[0.21-0.09]で最大で0.1秒あまりと考えられます。

この時間では、たとえば「速いラリー後の1stボールにおいて味方が助走の体勢を整える」ことは難しいでしょう。1stボールにおいて時間を稼ぐ可能性があるとしたら、「高い位置でパスするか、できるだけ低い位置でアンダーパスするか」ではないでしょうか?つまり、「①ボールタッチのタイミングを遅らせる」しかないということですね。

「持って投げる」(反則)のメリット(不当な利益)

①ボールがどこに上がるか(セットされるか)の予測を外す

ボールをどこに飛ばすかは「どこでとらえるか」でコントロールするのが合理的で正確であるということを、セットするときは「ボールの下に入り、上げる方向に正対」すべきなのか?(後) -セットアップの基本を考える-(2/5) で説明しています。

ボールに触る直前まであらゆる方向にボールをセットできる可能性を残しながら、ボールに触るときにはセットしたいところに飛ばせる位置でとらえるのが理想ですが、「ボールを持てばとらえた位置と違う方向にセットできてしまう」ことになります。前にしか飛ばせない位置でとらえながら後ろに飛ばすなんていうことができてしまうわけですね。

②ブロックの予備動作のタイミングを外す

リードブロックでは、セットされたボールを見てどこに上がるかを判断し、素早く反応して動くことが求められます。素早く反応して動くためには、「判断した瞬間に動き出せるように、予備動作(スプリットステップ)を行う」必要があり、ちょうどセッターがボールに触る瞬間に体が浮いているようにタイミングを合わせます

このタイミングを外されると、素早く反応して動くのがとても難しくなるわけです。ボールタッチのタイミングを遅らせたり、柔らかいハンドリングを使うことでも、ブロックに負荷はかかるかもしれませんが、「持つ」ほどタイミングを外されることはありません。

以上、「持つ」ことは「溜める」ということよりも明らかに「反則によって不当な利益を得る」動作であると言えます。これらの違いを認識することも、オーバーパスを正しく理解し扱うためには必要だと考えられます。

特に初心者がハンドリングにどのように取り組んでいけばいいか、についても書く予定でしたが、別のシリーズにしたいと思います。

※【「手のバネを柔らかくする」っていうのも、捉えられ方によっては、能動的な要素が強まってキャッチ沼にハマリそうな懸念が】というコメントをいただきました。
「バネを柔らかく」は物理学的な違い(と生理学的な違い「筋肉の収縮力を弱く」)を表しただけなんですが、「手を柔らかく」と捉えると「優しく」みたいな感覚的なものになり、その感覚を能動的に実行しようとしてキャッチになるというのはとてもありそうです。
よって、「手のバネを柔らかくする」→「手のバネの硬さを下げる」に修正しました。(2022.9.19加筆)


バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。