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パスの「音」「質」「メカニズム」  ~持つことは必要なのか?~

始まりはこのツイートからでした。
2021の年の瀬に、オーバーハンドパスのハンドリングについて、元Vリーガーのセッターで現在指導者の方も交えて議論していました。
当時のツイートをリツイートしてくださった方がいて、残しておきたいと思いまとめてみました。
枝分かれがかなりあって、順序が逆転しているものがあるかも知れません。

minchi(以下M):音が鳴らない? 音,鳴ってますやん(-_-;) ちゃんとした「オーバーハンドパス」という力学現象が成立していれば,「適切な音が鳴る」だと思います

ぬのT(以下ぬ):「音」を意識してみることでパスの質が変わることはあり、いいきっかけをつかめる人もいるかもしれませんね。 でも「音がしない」ことが目標になってしまうと、迷路にはまり込むことになると思います。

ぬ:「音がするかしないか」はとても微妙な技術で、どのくらい「手がボールにフィットするか」によるわけで、長い時間をかけてつかんでいくしかないものだと考えています。 それよりも「持つか持たないか」の違いはとても重要で、「持たないでパスする」ことをつかまなければなりません。

ぬ:「体から離れたところでとらえるか、近くまで引きつけるか」と「持つか持たないか」とかも、まぎらわしいですが別のことです。

ぬ:肘を曲げて、かなりギリギリまで体に引きつけても、ボールに触る前に肘を伸ばし始めれば「持たないパス」になりますが、ボールに触ってからも肘を曲げてくると「持つ」になります「引きつけてからパスする」「触ってから引く=持つ、それからボールを送り出す(投げる)」かの違いです。

ぬ:「パス」では、ボールタッチよりも先に肘が伸び始めて、手はボールに向かって一方向に動いていくわけです。 それに対して「持って投げる」は、ボールに触ってから肘を曲げていくので、手は「一旦体の方向に動き、止まって反対の飛ばす方向に動く」という2段モーション(2way action)になります。

ぬ:これが、 「パス」と「持つ」とは全く違う動作 と考える理由です。 上手い人は確かに(審判に反則を取られないように)「微妙に持つ」ということができたりしますが、それは反則です。

ぬ:パスを覚えるのに、さらに上達するために「持つ」をしない方がいいと考えているのですが、それにはとても重要な理由があります。 「持つ=2way action」をやると、ボールを捉える位置と出す位置が違うことになり、そのために「どこでボールを捉えればどこに飛ぶか」が分からなくなるんですね。

ぬ:パスの上達のために、これは代表レベルでも当てはまると考えていますが、「どこでボールをとらえればどこに飛ぶか」の感覚をつかむことが最も重要なんですね。 「持つ」ことでその感覚がつかめなくなりますし、無理な位置のボールをハンドリングで何とかしようとしてイップスになる一流選手もいます

M:「オーバーハンドパス」という現象,むしろ,「音」である程度,分類できる?
音が鳴らない → 「ポン!!っていう気持ちいい音が鳴る」だと思うんですよね
10年以上,持つ学生を観察してるのですが,「持つ」から抜けられないのって,完全な「イップス」だと思ってます.


TETSU/てつ(Teppei Sugiya(以下T):こんにちは ツーウェイアクション および 時間稼ぎの持つパス を容認している間は 日本のバレーの技術指導において キャッチ癖の残るパス力のなさの問題を生んでいると思いますがいかがでしょうか?

北沢 浩(以下K):「身体の使い方(下半身と上半身の連動)」を習得した上のオプションとしての使用するなら問題ないと思いますが、そうでない場合は可能な限りは、まずは上記を習得していただきたいと考えます。
ポジションにより求められる要素が変わりますが、セッターの優先度は特に高いと思います

T:持つことは反則になるのではないでしょうか?

K:反則にならないギリギリのラインで持つ、ということですね。 現役時代に、状況に応じて持つ事をしていましたが、ホールディングを取られた事は1度も無かったです。

ぬ:「返球の質」「持つ」ことにどんな関係があるのでしょうか?
私には分からないのですが、「音のしないパス」=「球質の良いパス」という前提があるのではないでしょうか?
そして「それを実現するには微妙に持つべきである」と思っている人が多いのではないでしょうか?

K:「音のしないパス」が出来ると上手く見えるため、それが目的となってしまう傾向があり、 結果、持つパスになるのだと考えます。
しかし、試合中に求められるのは、 「球質の良いパス」であり、 それに必要な要素は 「音のしないパス」ではないと考えます。

ぬ:ありがとうございます。 大切なのは「球質」であり、「音がするかしないか」はそれとは無関係ということでしょうか? それとも「音がしないパス」は「球質」に何かマイナスがありそうでしょうか?
それと、「バタついたラリーで時間を確保するために持つ」のはセッターにとって必要な技術なのでしょうか?

K:セッターに限らず1stボールも同様です 例えば、 ラリー中にMBの助走が遅れた場合、 セッターはMBの状態を見て待ちます。
その際に「少しだけ」ボールを持ち、時間を確保し、セット または、 速いラリー後の1stボールを「敢えて」少しだけ持ち、時間を確保する その僅かな時間で味方は体勢を整える。

ぬ:「反則」についてどういう立場を取るかは別にして、アタッカーのジャンプがわずかに遅れた場合は、セッターが持つことによって、間に合わせることができると思います。

ぬ:【審判の「キャッチ」判定が分かれるのは、接触時間が0.09 秒から 0.21 秒】というデータがあるので、持っても流される可能性があるのは0.21秒まで、「反則でないパスよりも稼げる時間(反則を取られないで稼げる時間)」は最大で0.1秒程度と考えられる(判定が分かれる時間帯[0.21-0.09=0.12]秒を反則を取られないで稼げる可能性のある時間と考えました)ので、「速いラリー後の1stボールにおいて味方が体勢を整える」のは難しいと思います。
1stボールにおいて時間を稼ぐ可能性があるとしたら、「高い位置でパスするか、できるだけ低い位置でアンダーパスするか」ではないでしょうか?

K:数字で出ると面白いですね、勉強になりました。 
確かに、0.1秒で何が出来るか?というと大した事は出来なさそうです。
その場合、 反則リスクを負ってまでの持つパスではなく、 高めに返球する方が効率良いですね。

ぬ:先ほどのデータですが、バレーボール研究第21巻第1号一般演題として掲載されています。8題目の「バレーボールにおけるキャッチの判断要素に関する研究 ~ボールと手の接触時間からの検討~」です。

ぬ:ちょっとニュアンスを変えて、私からも質問させていただきたいのですが、現実問題として、トップレベルで「持つ」ということがどの程度行われているのか、またほとんどのセッターとその指導者が「必要なスキル」ととらえているのか?知りたいと思いました。

K:トップレベルでは8~9割は扱えると思います (使用するかは別として) 。 「間を操れるセッター」であれば 教わらずとも自分で閃いて習得するのかな と考えられます。
必要かどうか?は、周りの方に聞いた事が無いので分かりかねますが、僕としてはリズムを指導する際に併せる事が多いです。

M:「(持って)間を操る」ということは,反則であるという自覚はあるんでしょうか?
サッカーでも審判の見えていないところで故意のファールがありますが,「『持つ』がどこまで許容されるかグレーゾーンで,それをギリギリまで利用するのもバレーというゲームのうちである」ということですか?

ぬ:これは「持つ」ということが十分に定義されていないということと、そのために判定基準が「接触時間」という「ゲーム中に使えないもの」でイメージされているのが問題だと思います。

M:では,ルールの問題ですね。
ここ10年くらいで,かなり,言葉をやり取りして「適切な言語化」に近づいてきてると個人的には感じてますかね。

ぬ:「接触時間」で定義することになると、「持つ」と「持たない」は程度問題つまり「どの程度まではセーフか」ということになるので、「審判がノーと言わなければ、正しい行為」なんですね。グレーゾーンはそもそも「反則」じゃない。

M:【グレーゾーンはそもそも「反則」じゃない。】 ということは,これは,バレーボールという競技の一部,南米とかでいうところの「マリーシア」に類する話になりますね.現在のところ...

T:で その0コンマ何秒の 「持つ」(ような感じ) をあえてすることによる 技術的なメリットは 果たして本当にあるのかどうか。
クイックの際の緊急対応的なタイミング合わせ処置はありそうな気がするもののそれ以外はやらせる必要性を感じませんが。

M:「持つ」しかできない選手も育ちますので,グレーゾーンの厳しめの審判の時は,対処できない. 持つ持たないの意味も分かってないので,何が悪いのかも理解できない... という不幸な事案が多発しますかね...

ぬ:技術的なメリットですが、ブロッカーからすると「ここで捉えたらこっちにしか上がらない」という判断が裏切られる、判断するタイミング、反応するタイミングをずらされるというのはとても困ります。

T:ということは、熟達したプレーヤーの高度なスキルとしてはあり。 ただ、それは判定のグレーゾーンの中でのスキルであり、キャッチをしていいとはならない。ですか?
ハンドリングは「手首がバネになる」 ということに対して こちらは、意図的にバネの収縮を制御する?

ぬ:問題は、持つことも持たないこともできるセッターは「持つときは意図的に持っている」つまり、やる方は違いが分かっていると思うんですよね。 「セッターには必要な技術だ」と講習会で言っていた指導者も「意図的に持つ」という話をしていたと思います。

ぬ:だから「持つ」を定義することも違いを言語化することも「判定基準」を確立することもできないけど、「時間」のように連続したものではなく、明確に「別物」だと、やる方は分かっているんだと思っています。

T:で オーバーハンドパスの動作原理として、その「意図的に持つ」は含まれるものになるのでしょうか?

T:まず 「持つ」という言葉が障害になっている気がします 次に 「別物」という認識があった方がいいのかなという気もします。

ぬ:「別物」ということを「動作原理」で説明してきたわけで、「もつ→投げるを早くしてもパスにはならない」とコーチングバレーボールに書いています。 しかし、それに従ってキャッチの判定をしようとはならないのが現状ですね。
JVAの教科書にもなっているのに、「2way actionで判定すればいいじゃないですか?」と言っても、審判の方からは反応をもらえないという状況だと感じています。

T:そこは理解していますが いわゆるグレーゾーンの中での 「持つような微調整」 は技術的にどう解釈すればよいのですか? 本来のオーバーハンドパスの動作原理と異なるも、特殊なものとしてあり得るというおさえになるとかですか?

ぬ:答えは「持つのは反則」一択です。 あってはならないものだと考えています。 違いが認識されるようになるまでは押し問答が続くんでしょうが、非常に理不尽な話だと思っています。

T:もう少しすっきりさせたいです 北沢さんのおっしゃるような特に上級者のそのような持つような微調整は、反則?それともグレーゾーンでなんともいえない?それともスキルとしてあり?
持ってタイミングを合わせる と言う以上持っているのではないでしょうか?

ぬ:「反則」だと思います。
ただ、もう一つ押さえておかなければならないことがあって、「別のもの」と定義し、「2way action はキャッチの反則を取る」と判定基準を示すことはできても、「2way action かどうか」は人の目で判別できない範囲が残ります
でも、定義や基準が曖昧なのとは決定的に意味が違いますし、現状よりはずっと適切な判定ができると思います。
反則は反則とし、それでも人間が判別できない部分をグレーゾーンと言いたいですね。 「ズルができる=グレーゾーン」というのは否定したいです。

K:持つトスを選手目線で語ると、 「数ある中の1つのスキル」 というイメージでしょうか。 それが反則であれば、以後使わなければ良い、という感覚です。 それにより勝敗が分かれる事も考えにくいので、他のスキル(ボールタッチを遅らせる等)で補填すれば問題ないと考えます。

ぬ:ありがとうございます。 とても納得です。 指導者目線では「持つことのリスクの重大さ」をなんとかしたいと思っていますが、それはまた別の話になりますね。

T:お二方にもう少し食らいつきます ごめんなさい。
北沢さんがおっしゃるようなテクニック的な要素は オーバーハンドパスの動作原理とは別のものである ということでいいでしょうか?

K:そうですね 持つトス、というのは、 セットにおける基本動作がある中での とある局面で使用される1つの動作となります。
そして、オーバーハンドパスのそれとは異なります


ぬ:オーバーパスの「持つ」についての話ですが、結構多くの方に興味を持っていただけたようで、トップレベルで競技・指導を経験されている方とやり取りできたことにとても感謝しております。ありがとうございました。

ぬ:オーバーパスのハンドリングはとても微妙な感覚で、上級者でないと分からない感覚というのもあると思います。 特に「溜める」「入れる」という言葉の意味は独特のものがあり(オーバーハンドパスのハンドリングについて(3/3)-「トスを溜める」の中身-参照)、人によってもその感覚は様々なんだろうと思います。 疑問なのは「微妙な感覚の領域だから判定できない」のか?ということです

ぬ:「持つようで持っていない」のであれば「持っていない」わけですから、反則ではありません。 でも、「入れる=持つ」ということだとすると、それは反則です。 「持つようで持っていない」とは実際に何をしているのか 「入れる」とはどういうことか そこを整理しないといけないのでは?と考えたのです。
そこが整理できないと「微妙な感覚の話だから反則ではなくて、『持つ』という感覚は大事だ、それに向けて初心者から経験させていかなくてはならない」ということになってしまうと思うのです。

ぬ:「初心者にはまず『持って投げる』から教える」ということになっている理由は、代表選手を育てているような指導者の方でも、つまりそのカテゴリーで優勝しているような指導者の方でも、世界を知っているような方でもそうしているからではないでしょうか?

ぬ:今回の議論で、個人的にはですが、微妙な感覚とは言え「持つ」は「持つ」だし、「入れる」には2通りあって、ということが分かったと思っています。
「入れる」の1つは「ボールタッチのタイミングを遅らせる」ということで、もう1つは「持つ」ということです。

ぬ:「ボールタッチのタイミングを遅らせる」のは反則ではありませんし、「持つ」のは反則です。 この違いを認識した上で話をしないと、全て「持つようで持ってない」とされてしまい、アンタッチャブルな世界になってしまうわけです。 ダメなものはダメですよね?
ここがグレーなままだと「審判に反則を取られるかどうか」になるのは必然です。
そして、審判の世界でもハンドリングについての議論はされてきているようですが、「持つ」の明確な定義も基準もないのが現状だと思います。

ぬ:現在「ハンドリング」について分かっていることは、「バレーボール学会第21回研究大会報告」の「フォーラム」における縄田氏の解説がベストだと思います。「シンポジウム」ではトップの指導者の考え方が分かり、貴重な資料だと思います。
動画でも解説されていますね。
【フォーラム】セットのバイオメカニクス(前編) (後編)

ぬ:これをもとに、JVAの教科書「コーチングバレーボール」にも「パスと『持つ→投げる』は別の動作である」と書かれています

「パス」のメカニズム
「持ちパス」のメカニズム

ぬ:コーチングバレーボールには1つ目の「パス」の図しか載せてありませんが、出版直後のバレー学会バレーボールミーティング@富山では「持ちパス」の図(2つ目)も紹介しています。

ぬ:違いはボールタッチ後の「肘の動き」にあり、 「パス」では「伸ばす」だけですが、 「持ちパス」には「曲げる」と「伸ばす」があり、これが「2 way action」の意味です。明確に「違う種類の動作」だということです。
「手首の動き」も「曲がる」と「伸びる」の2方向がありますが、これは「ボールの勢いで受動的に起きる」もので、力の使い方としては「伸ばそうとする」の1方向になります。

ぬ:前にも書きましたが、「持ちパス=キャッチの反則」をこの 2 way action で定義して判断するというのが一番合理的だと思いますが、審判界にそういう動きがあるとは聞いたことがありません。 もう1つの可能性は「チャレンジシステムを使って**秒以上の接触が確認されたらキャッチとする」ですね。
これが実現すれば、意図的に持つことができる選手も「大事な場面で持ってしまうことのないように練習する」しかなくなり「トップレベルでは使えない技術」というのが明確になるでしょう。
そうなれば、やがてはアンダーカテゴリーでも使われなっていくのではないでしょうか?
不合理ではありますが、一番現実的かも知れませんね。

今回一番協力していただいた北沢さんには、失礼なことをしてしまったかと思います。北沢さんの立場は、こちらのツイートにあるように、「それが反則であれば、以後使わなければ良い、それにより勝敗が分かれる事も考えにくいので、他のスキル(ボールタッチを遅らせる等)で補填すれば問題ない」だと思います。

この見解はとても重要なものだと思います。 「持つトス」は技術として「なければならないものではない」ということですね。 ありがとうございました。 失礼をお許しください。

K:こちらこそ、とても勉強になりました。 1つのスキルにおいて、ここまで考えられている事に驚きと感銘を受けました。 今後ともよろしくお願いいたします!

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