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小学生のオーバーハンドパスは「持つ」のを大目に見るべきなのか?(4/4) 「小学生のパス練習で大切なこと」

小学生のオーバーハンドパスは「持つ」のを大目に見るべきなのか?(1/4)現状と「持たせるところから始める」指導の意味
(2/4)「持たせなくても大丈夫」
(3/4)「どのような指導が可能なのか?」 からの続きです。
今回は、具体的な練習方法や「小学生のパス練習が成立するために大切なこと」等について説明していきたいと思います。

身につけるべき感覚

まず、練習を組み立てる上で「どんな感覚を身につけてもらうか?」を考えていきたいと思います。問題は「やっている練習が、その感覚をつかむための試行錯誤になっているか?」ということです。試行錯誤が成立していれば確実に上手くなっていきますし、自分で試行錯誤できるのはそれだけで楽しいものです。試行錯誤が成立していない原因はいろいろなので、それを観察して環境を整えるのが指導者の最大の役目です。まずは、「何をやらせるべきか?」よりも、観察して「今ここで、どんな感覚をつかめそうか?」を考えられるようになりたいですね。そのために「身につけるべき感覚」を整理していきましょう。

ボールとの接点を見つける

「接点を見つける」とはボールの動きを見て、その軌道とタイミングに自分の体の特定の部分を合わせるということです。

実はこれが一番難しいので、初心者には「飛んでくるボールを見えるところでとらえる」だけの練習として「キャッチする練習」が有効かもしれません。ただし、それが「おでこの前」である必要はなく、「自分の思ったところ」で十分ですし、「オーバーパスに似せてそこから投げる」のはしない方がいいでしょう。「それがオーバーハンドパスの感覚だ」という間違った学習になるのは避けたいですね。「投げてもらったボールを取る遊び」で十分です。

「投げる」場合は、「下から」だったり、バスケットボールのチェストパスのように「胸から」の方が無理がなくスムーズにできますし、片手に持ち替えて投げてもいいですね。「オーバーパスに似せてそこから投げる」のはお薦めできません。

手がバネになる

オーバーハンドパスのハンドリングについて(1/4)で説明したように、適切な形で、適当な硬さで、固めることで手が適切なバネになります。手をボールになじませ適切な形になるように「床に向かって両手でボールをつく」のがまず必要かもしれません。

「手がバネになる」ということは、「手を適度な強さで固めて、何もしない」ということです。ボールが手に入って出ていくときの手の動きは受動的に起きるものなので、やり方を意識して能動的にやろうとしても上手くいかず、試行錯誤で「そうなる」感覚をつかみ磨いていくしかないのです。そして、その試行錯誤が上手く成立するには、今回のシリーズ2/4で説明した通り「位置や姿勢が安定した状況」でやるのが一番です。

ボールに効率的に力が伝わる

「コーチングバレーボール」(日本バレーボール協会編)では「セットの動作原理」として
(1)手をバネにする
(2)床反力を利用してボールを飛ばす
が書かれています(p143)。
動画【フォーラム】セットのバイオメカニクス(前編)でも
 要素①手の”ばね”を活かす「筋腱複合体」
 要素②手の“ばね”を“力”で活かす「身体の力線」
と説明されています。
床反力(床を押して床から返ってくる力)を感じる、床から手までの力線(ボールに力が伝わるライン)を感じることが重要だということですね。

「ボールに力が伝わるラインの感覚」をつかむために、「突きトス」という練習方法があります。これは【手を固め、肘、膝をあえて「使わない」で手から足までを1本の棒のようにし、足首の力で床を蹴る】というもので、姿勢が安定して手から足までの間に何も起こらない方が「力が伝わる感覚」をつかみやすいわけですね。肘や膝を使うのは、この感覚をつかんでから取り組んだ方がずっと簡単に上手くいきます。

また、ハンドリングの動作原理は「適度に固めて、何もしない」ということですから、それによって「手がバネになる」という感覚をつかむには、「身体の力線」を感じることに徹した方が都合がいいわけですね。「何もしない」ことを身につけるにはそれ(ハンドリング以外のことに徹する)が一番だと思います。

初心者の練習が練習として成立しない最大の理由

練習が練習として成立するというのは、オーバーハンドパスならオーバーハンドパスに必要な要素をつかむための「試行錯誤」になっているということです。それには「こうしたら、こうなった」つまり「ボールをどこで捉えたら、どこに飛んだか」を感じられる余裕が必要で、相手からいつも同じ軌道で取りやすいボールが飛んでこなければなりません。しかし、初心者同士でパス練習をするとそれはあり得ず、「持って投げるをやらせないと練習にならない」ということになっているのかもしれませんね。

2人でパス練習をやる場合は、1人が投げて「相手の試行錯誤になるような球出しをする」必要があります。このとき、オーバーパスのフォームをまねて投げるのではなく、両手で下から丁寧に投げるようにしてください。球出し役をすることは「どんなボールがオーバーハンドでプレーしやすいか?」を考えて試行錯誤することになるので、このイメージトレーニングはとても重要です。

そして、お互いにパスが安定してきたら、2人が連続で1回ずつパス(計2回:1往復)して3回目でキャッチする、それが安定してきたら2回ずつパス(計4回:2往復)して5回目でキャッチする、というように少しずつ増やしていきます。さらに続けられるようになっても「乱れて難しいボールになったら、キャッチして止める」のを原則としましょう。

パスができるより先に「遊べる」ことを優先する

バレーボールのラリーができるためには、パスをつなげられるようにならなければなりません。さらに「スパイク」をしたいと思ったら打ちやすいトスが上がらなければなりませんし、レシーバーから飛んできたボールをスパイカーの方に上げるには「方向転換」ができなければなりません。

その程度のことができるようにならないと、なかなかゲームにはならず、やっていても楽しくないかもしれません。バレーボーラーのための学びのプラットフォーム構築のために:その23で説明したように、「バレーボールは遊べるようになるまでの道のりが長く険しい」というのは、バレーボーラーにとってつらいことですし、プレイヤーを増やす上でもとても不利だと思います。

「今できる技術」を使って遊ぶ(ゲームをする)ことがとても重要です。そして、そのときの状況で「どんな感覚をつかめば、もっとゲームが楽しくなるか?」をピックアップして練習してもらえれば、基本技術の練習もイメージを持って取り組み、楽しむことができるでしょう。
指導者が動作原理を分かっていれば、やらせながら「今どんな感覚をつかめそうか」を考えられるので、ちゃんと技術を進化せさせていくことができます。

たとえば、【バレーボーラーのための学びのプラットフォーム構築のために:その3「バレーボール指導の現場に必要なものは?」】で紹介した「スパイクから始めてゲームを発展させる」やり方(Smashbalを参考に、「遊べる」「やりたいこと(第1はスパイクでしょう)ができる」のを優先し、難しすぎるところは「持って投げる」をやれば、どんなレベルでも十分に遊べるでしょう。

「ここは持っても良い」をルールにすれば、「キャッチバレー」も十分にバレーボールです。特に2本目(セット)は「味方のパスを受けて、スパイクしやすいボールを上げる」という大変難しいプレーなので、そこだけ持っても良いことにするだけでバレーボールらしいゲームを楽しめるようになることは多いでしょう。問題なのは「持って投げる」を「これがオーバーハンドパスだ」と言ってやらせることです。オーバーハンドパスにおいて「持つ:キャッチ」は反則です。

小学生に持たせたくなるのは、何が何でもそこで勝とうとするからかもしれません。もちろん「スポーツ」ですから、今そこで勝とうとすることは大原則で大切にすべきです。しかし、「ずるいプレーとしての反則なんだ!」ということを、今のチームで勝つためにやらされるとしたら、初めてのスポーツでそれを体験してしまうというのは、とても恐ろしいことではないでしょうか?あなたは小学生に、スポーツとはどういうものだと思ってもらいたいでしょうか?

バレーボールに関する記事を執筆しています。バレーボーラーにとって有益な情報を提供することをコンセプトにしています。