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時計の契約:第3章11時

11時:鏡の向こうの真実

死ぬとはどいうことなんだ。”死”という単語に驚きと恐怖が俺を包み込む。俺ははるという名前で”そら”の世界と入れ変わっていて・・・。頭の中でピースとピースをあてはめるが、訳が分からない。今起きていることすら、受け入れられないと言うのに。
「兄さん!!」時翔ときとの声でハッとした。彼が俺を見つめる目に、驚きと悲しみが入り混じっていた。眉間をよせ、唇はわずかに開いていた。その表情からは時翔の心に激しい衝撃が走り、恐怖と不安が広がっていることが伝わってくる。時翔の目は俺を見つめる間、揺れ動き続ける瞳をただ見返すことしかできなかった。

そういえば母さんと話したことを思い出した。昨日の夜ご飯は確かにカレーを食べた記憶があるけどお寿司だと言われた事、時翔を怒らせても可愛いって思ったり、自分を”はる”って呼んだりしたことを。このことが俺を混乱させ、時翔との間に大きくて見えない溝を感じさせた。頭には到底完成するはずもないような不可解なパズルのピースが散在するようだった。俺はこの世界には存在しない存在なのか・・・。
 
頭の中でフラッシュバックする記憶、その中に家族が事故にあい、慰めるじいちゃんの姿。俺だけが助かったことへの喪失感、そして家族への憧れ・・・。この記憶は一体・・・。誰かの記憶が交錯するようだ、この世界は俺が憧れていた世界じゃなかっただろうか。だんだんとピースがそろってくる。父さん、母さん、時翔がいる世界に憧れていたんだった。時翔への思いが心を駆け巡る。憧れた兄弟の姿が、愛おしさと同時に胸を締め付ける。そして不安な気持ちも同時に襲ってきた。俺がおかしなことを言うから、すごく不安で時翔が俺に質問してきたんだ。もしかしたら悪魔が俺に化けているかもしれないとか考えていたのかもしれない。そう思うと胸の奥が痛くなった。記憶が混在しているのを感じた。

俺は静かに息を整え、冷静に白い悪魔に聞いた。
「死ぬってどいういうこと?」白い悪魔は泣きそうな顔で答える。
「は、るの、、、命は、、、喰わ、れてる、、んよ。本が、、すこ、しずつ、、、世界が、、違う、から、、、」俺の心は凍り付くような恐怖に包まれた。鼓動が響き渡り、息が詰まるように感じられた。この本が、命を喰っているんだ、だから体が重くて痛かったんだ。また俺の体が急に重く感じられた、このことかと命の危険を感じた。
 
痛む体をいたわるように、一呼吸置き、白い悪魔に質問した。
「どうしたら元の世界に帰れる?」それがどういう意味を示すかも理解している。時翔が俺の腕を優しく掴む。
「む、こう、、の世界、とつな、、、がるんよ、、本を、、開いて、、、」時計が表紙に描かれている。夢で見たまんまの本だった。俺の心は葛藤していたが、それを振り切るように力を込めてページを開く。体力のせいなのか、本のせいなのかとても重く感じた。
本の中は鏡になっていて、時翔も覗くが鏡には時翔しか映らなかった。「元の世界に帰る」この言葉の重みに複雑な感情が入り乱れた。


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