時計の契約:第1章1時
1時:兄弟の記憶
「兄さん、5歳の誕生日のことを覚えてる?」急な質問に驚いた。あの日のことを家族は誰も話したがらないから。あの日は俺の誕生日を祝っていた。その最中にじいちゃんが心臓発作で亡くなった。あの日どうしてそうなったのかいつも思い出そうとするが、なぜかその記憶だけが切り取られたように思い出せなかった。
「全然思い出せないな」そう答えると、時翔はゲームの手を止めてこっちを向いて話しかけてきた。その眼差しは、俺の顔を捕らえ、俺の内に隠された何かを鋭く探しているかのように、じっと見つめてくる。
「僕もあまり覚えていなんだけどね、夢を見るんだ」
「どんな」俺はゲームに夢中で無関心な返事をした。
「兄さんの5歳の誕生日に本が光って、兄さんが消えたんだ」何を言い出すかと思えば、俺は鼻で笑って言った。
「何それ」一瞬、時が止まったのかと思うほどの間がゲームをする俺の手を止めた。俺は思わずつばを飲み込む。
「・・・そしたらさ、本から真っ黒い悪魔が出てきてじいちゃんと話をするんだ。それから悪魔はじいちゃんを食べるんだ。父さんも母さんも覚えてないっていうから、やっぱり夢なのかもしれないんだけどね」
そういうとなんでもなかったようにゲームを始めた。時翔の口から語られた内容は耳に残るほど不気味でどこか冷たく感じた。
夢の話なのかと言いかけた瞬間、突如断片的な記憶が俺の頭の中でフラッシュバックした。それはまるで死神のような真っ黒い悪魔が不気味な笑みを浮かべてこちらを見る姿だった。その姿が脳裏に焼きつくように、その影が恐怖と混乱を引き起こす。記憶の欠片が一瞬のうちに襲い掛かり、俺は体中が震えあがった。
「 」
なんなんだこの記憶は、呼吸が荒くなる。何か悪魔が言っているようだが全然聞こえない。体中から冷たい汗が流れて心臓が激しく鼓動するのを感じた。周りの景色がぼやけ、現実と夢の間で揺れ動くような感覚が押し寄せてくる。
時翔が心配してのぞき込んでくるが、俺の心は混乱の渦に巻き込まれ、現実と夢の狭間で揺れ動く感覚が、頭の中をぐるぐる回る。不安の波が押し寄せ、胸が苦しくなった。なんとか平静を装って、「俺、部屋戻るわ」そういって振り切るように自分の部屋に戻った。戻っても胸の高鳴りが止まず、息が詰まりそうな感覚が体中に広がった。さっきの記憶は何なんだ。やけにリアルで、あの不気味な笑みと声が頭に響いて離れなかった。
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