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時計の契約:第1章2時

2時:記憶の闇

どのくらいたったのだろうか。自分のベッドに横になっていた。やっと落ち着いてきた俺は、ベッドに座りなおし、ベッドボードに置いてある写真を手に取った。5歳の誕生日に皆で撮った写真だ。父さん、母さん、時翔ときと、そしてじいちゃん。この日の記憶だけ切り取られたようにすっぽりと抜けている。何度思い出そうとしても霧がかかったように思い出せない。ただあるのは、あの日じいちゃんが亡くなったという事実だけだった。もし、時翔の話が本当なら、フラッシュバックが現実だとすればもしかして悪魔がじいちゃんを?そんな馬鹿な話はないか。ゲームのようなファンタジーな話になってしまう。そんなわけがないんだ。写真のじいちゃんを指でなぞる。
「じいちゃん、あいたいよ」
 
何か思い出しそうな、ここまで何か出かかっている気持ちで写真を眺めていた。
確かじいちゃんがあの本を”時の本”と呼んでいた。その言葉が頭の中で反響する。俺の記憶のピースがゆっくりと繋がり始めた。表紙に時計が描かれた変わった本だった。あの時、どこからか声がして何かを囁かれた。そして俺はあの時の言葉を思い出す。確か・・・

「ル・ヴォレマ・ナア・ヴィラ」
 
部屋の温度が急に下がったように感じた。空気が震えているようだ。
突然目の前に本が落ちてきて、慌てて拾う!!本を中心に真っ黒く重たい空気が部屋中を渦巻いているのが見えた。何かの影が壁に映って揺れている。
「呼、んで、、くれた、、、ぁ?」そこに現れたのは真っ黒い悪魔だった。それはまるで俺の内なる深層から生まれ出たかのような悪魔の姿で、不気味な笑みを浮かべて笑っていた。これは知っている空気、見たことある顔、あの時の声。
そうか、この悪魔だ。
時翔が言っていたことが本当だったことも、あの日の出来事を全部思い出した。なんで俺は何も知らずにのうのうと生きていたんだ、自分が憎い。何も知らずに悲しんでいた自分に腹が立った。どうして今まで忘れていたんだろうか。自分への失望と、目の前の悪魔への憎悪が渦巻く。そして悪魔と目が合い、俺は悪魔に思いをぶつける。「お前がじいちゃんを、じいちゃんを!!」言葉にならない怒りが湧いてくる。胸が熱くなり、拳を握りしめた。体の内側から激しい怒りがこみあがる。
「そ、ー、、ぉ、、ら、ー、、ぁ、、、」低く途切れた声は不気味に鳴く。悪魔の声を聞いて全身に鳥肌が立つ。
「じいちゃんを返せ!お前を許さない!!」血の涙が出るんじゃないかと思うほど強く悪魔を睨みつけた。
俺の手は震え、目が怒りで燃えるようだった。憎悪の波が俺の全身を覆い、意識は曇り、理性が失われてくる。すると、大きく見開いた目で悪魔が近づいてきた。鋭い歯を見せ口角を上げて笑う。



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