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放置竹林と向き合ってみたら

放置竹林って知ってますか?

恥ずかしながら、私は最近まで全く知りませんでした。

神戸は山が多いので、高速道路なんかを車で走っていると道路の横に生えた、うっそうとした竹藪に遭遇することが多々あります。
私は子供のころから特になにも思わず、『わー、竹めっちゃ生えとう』とそれを見ていました。
私にとって、それが当たり前の姿だったからです。

SAHARAは鳥取に畑を持っているのですが、その敷地内にも元から竹藪があったそうです。
もしかしたらたけのこがたくさん採れるのでは…と整備に踏み出したら、これが意外と難しい。
伐採する手段、人手、伐採した後の処理など、結構な労力とお金が必要なのです。
そして、調べていくうちに、これが放置竹林という大きな問題であることを知りました。

私が見ていた高速道路の横に生えた竹藪は、何年も前から放置されていた竹林だったのです。

SAHARAの敷地内にある放置竹林


竹林が放置されるとどのようなことが起きるでしょうか?

まずは、他の植物の生息地が奪われていきます。

「竹は1日に1メートル伸びることがある」と言われるくらい、竹は植物の中でも成長が最も早い部類に入ります。
土から顔を出し約3ヶ月ですくすくと若竹になると、その高さはすでに約10〜20メートル。
5年程度で成長は止まりますが、それまでの間に根を広げて子孫を増やし、立派な竹藪を作り上げます。

これを知ったときに、私はハッとしました。
『どうぶつの森』でもそうだったな、と思ったからです。(『どうぶつの森』はニンテンドーの大人気ゲームで、簡単に説明すると、小さな村に引っ越して自由気ままに暮らせるゲームです)

ゲーム内では樹木や花を植えることができて、竹も植えることができます。
しかし、竹は一度植えると、どうにかして止めるまでポンポンと勝手に増殖し日々陣地を広げてくるのです。その浸食の早さたるや…。
『どうぶつの森』をプレイしたことがある人なら、竹の生命力の強さをよりわかっていただけると思います。(ちなみに最新作では勝手に増殖しないそう)

困ったことに、生い茂った竹は日光を遮断してしまいます。
竹の足元に生えていた背の低い植物は日の光を浴びられず、うまく成長できないまま枯れてしまうのです。

そして、それは小さな植物だけにはとどまりません。

日本の国土は約67%が森林で、竹林の面積は2012年には約16万ha。全森林の0.6%となっています。

『ふーん、そんなに多くないじゃん』

調べた当初、私はそう思いました。
けれど、これは純粋な竹林だけの数字で、竹林と竹が25%以上侵入している森林を合わせた面積だと、全国で約42万haまで増えるそうです。
そして、竹は現在も決して無視できないスピードで森林を浸食しています。

『どうぶつの森』で植え付けられた記憶が呼び起こされます。
これは『ふーん』なんて、言ってられないかもしれない…と思いました。

小さな植物だけではなく、森林の生息地も脅かされているのです。


また、放置された竹林は、重要な炭素吸収源としての役割を果たせなくなります。

樹木と同様、竹は大気中の二酸化炭素を吸収する能力があります。
しかし、竹林が適切に伐採管理をされていなければ、炭素隔離の効果(二酸化炭素を大気中へ排出することを抑制する効果)は著しく低下することがわかっています。
放置竹林は、地球温暖化防止としての機能の低下に繋がっているのです。

(*樹木も含め植物は、光合成により二酸化炭素を吸収し酸素を放出する一方で、私たち人間と同じように生きていくための呼吸もしていているので、酸素を吸収し二酸化炭素を放出しています。ただし、光合成により吸収する二酸化炭素量は呼吸から出る二酸化炭素量よりも多いので、差し引きすると樹木は二酸化炭素を吸収していることになります。成長期の若い森林では、樹木は二酸化炭素を旺盛に吸収して成長します。これに対して、成熟した森林になると、吸収量と呼吸量の差が次第に小さくなり、差し引きの吸収能力は低下していきます。)引用元:林野庁


さらに、竹林が放置されると、土砂災害が起こる危険性も高まると言われています。

竹は地中に根をはる地下茎(地中にある植物の茎。根のように養分を蓄えたり繁殖の役をしたりするものが多い)で繋がっています。
竹の根は通常の木とは違い、下ではなく横に根を伸ばしていくと言う特徴があります。

横に伸びる竹の地下茎

若く瑞々しい竹の根はハンモックのように広がりしっかりと土壌を支え、地滑りや水害から私たちを守ってくれます。
しかし、成長を終え枯れてしまった竹の根は弱く、若い竹と同じだけの防災力を得ることはできません。

放置された竹林を見ると、緑色をした竹の中に薄茶色の竹が生えているのがわかると思います。
そういった古い竹や枯竹が多ければ多いほど、根の力は弱まり山崩れや地滑りのリスクは高まるのです。

このように、放置竹林は様々な問題を引き起こす危険性をはらんでおり、早急な対策が必要とされています。


では、なぜ放置竹林は増えるのでしょうか?

放置竹林増加の原因のひとつに、竹需要の低下があります。

カゴやざる類、扇子に食器、照明器具など、古くから竹は様々な用途で日常的に使用されています。
竹は強い。けれど、基本的には消耗品なので、一定の需要が常にあり、増えすぎることなく適切な環境で消費されていました。
しかし、石油製品による代替品が登場したことにより、竹製品の需要は次第に減少していきます。

同じく、竹からなる筍も、昔は近所で採れたものを食べていました。
しかし、海外から輸入した安価な物が出回るようになると、必然と国産の筍の価格も下がり、儲けの出ない商売から人々は手を引かざるを得ません。

そうして需要と供給のバランスをうまく取っていたものが崩壊し、竹ばかりが増えてしまうようになったのです。


そんな中、2022年4月1日に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(プラスチック新法)が施行されました。

基盤となる考え方は「3R+Renewable」。

・Reduce(リデュース/発生抑制)
・Reuse (リユース /再利用)
・Recycle(リサイクル/再資源化)

と言う以前からあった3Rの考え方に、

・Renewable(リニューアブル/再生可能資源の活用)

と言う考え方が加わっています。

リサイクル不可能なプラスチック使用製品を製造するのではなく、天然資源を使用し、リサイクルによって再び資源として利用しようという考え方です。

日本ではプラスチックごみの約9割はリサイクルできますが、そのうち7割は焼却して熱を回収するサーマルリサイクルと言うものだそうで、原料として再利用しているわけではありません。

廃棄されたプラスチックゴミを処理する際は、もちろん大量の二酸化炭素が排出されます。
また、海洋に流出してしまうマイクロプラスチックの問題もあり、世界で2030年までに達成すべき持続可能な開発目標、SDGsのうちのひとつとして脱プラスチックに取り組んでいます。

そして、そのプラスチックの代替素材として注目されたのが竹でした。

竹は廃棄物が一切出ない素材であり、ほとんどの場合、伐採後再度植え替えをせずとも成長する『再生可能資源』です。
通常の木材と比較して、強度・弾力性が共に高く、衝撃吸収性にも優れています。
また、発火点も高く、建材として使用した場合も燃えにくいそうです。

プラスチック代替素材として竹の需要が増えれば、竹林の整備・管理が促進され放置竹林の減少に繋がる可能性があります。
竹の有効活用による収益が生まれれば、竹林管理の担い手育成や、放置竹林の整備事業への投資がさらに促進されるかもしれません。
そしてなんと言っても、プラスチック代替素材としての竹の利用は、環境問題への貢献に繋がり社会的な価値を生み出すことができます。

竹は『脱プラスチック』への大きな一歩になりえる可能性を秘めています。
そしてその可能性は、竹産業の再起にも繋がるかもしれません。

竹でできたカトラリー


放置竹林がもたらす問題について知り、自分にできることは何だろうかと考えてみました。

そして、行きついたのは、『竹を消費する』ということです。

現在、無印良品、IKEA、ダイソーをはじめ、たくさんの企業が竹を使った製品の取扱いを進めています。
手に取った商品が、実は竹でできた製品だったということもあるかもしれません。

ダイソーの竹パルプ100%のティッシュ(SAHARA社内で使用中)


消耗品、家具、雑貨、衣類。
日常のあらゆる場面で昔から竹は、私たちの生活を豊かにしてくれていました。
今一度生活の中に竹を取り入れることは、それほど難しくはないはずです。

竹の魅力を知った今、私は竹を選ばずにはいられません。

このnoteを読んでくださった方が、いつか放置竹林を見かけたときや竹製品に巡り合ったとき、『あっ』と思い出して、竹を選ぶきっかけになれば嬉しいです。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

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