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睡眠と妊活・不妊治療

妊活・不妊治療では病院・クリニックの治療以外でも「日常」をどう過ごすかが重要です。


睡眠が妊活・不妊治療にあたえる影響

睡眠障害は高血圧、2型糖尿病、慢性腎臓病、心血管疾患、および脳卒中のリスクなど、様々な病気のリスクになることが現在までの研究により明らかになっていますが、この研究では睡眠障害が不妊のリスクになる可能性を報告しています。

20歳~45歳の50,154人の女性を対象に調べたところ、睡眠障害のないグループに比べ睡眠障害があるグループでは、不妊のリスクが3.718倍高いことがわかりました。

その影響は26歳~30歳で最も大きく、そのリスクは5.146倍で、次に31歳~35歳で3.356倍でした。

驚くべき数字です。

他にも、体外受精のキャンセルと睡眠の関係を調べた報告があります。

この報告では、2015年〜2017年のIVFを受けた48人の女性(平均年齢33歳)が対象で、睡眠の状態を体外受精の1〜2週間前に手首装着型のアクチグラフで評価しました。

体外受精が中止となったケースを調べたところ、睡眠時間が短い、夜間覚醒が多い、睡眠の質が低く、睡眠時刻が遅いということがわかりました。

睡眠時間が十分にとれていたり、睡眠時刻が遅くならない場合は、治療中止となるケースが少なかったとしています。

これらの結果は、年齢やAMH、シフト勤務の女性を除外しても結果は同様でした。


なぜ睡眠が妊活・不妊治療に影響を与えるのか

不妊治療を受けている女性の治療成績と睡眠の関連を調べた研究報告が増えています。

「睡眠」の不妊治療への影響については「メラトニン」というホルモンが重要な役割を担っているのではないかということがこれまでの研究からわかっています。

メラトニンは睡眠に関係するホルモンで、夜になると増えて睡眠に最適な状態に体を導きますが、実はこのホルモンは睡眠以外にも生殖関連細胞からも分泌されていることがわかってきました。

メラトニンは卵胞液中に存在していることが確かめられており、卵胞液中のメラトニン濃度が高いと、採卵数が増え、卵子の質が上がるという報告があります。

このことから卵胞液中のメラトニン濃度は体外受精などの治療成績や卵巣予備能を予測する指標になる可能性があるという研究結果も発表されています。

実際に受精率が悪い患者さんにメラトニンを服用してもらったところ受精率の改善が見られたとする報告もあります。

メラトニンには睡眠に関わる作用以外に強い「抗酸化作用」があることが分かっており、妊活関連細胞からの分泌はメラトニンの「抗酸化作用」を利用して卵を守っているのではないかと考えられています。

ヒトはなぜ眠るのか?

「大脳」は連続運転に最も弱い臓器です。その大脳をうまく管理するための自律機能が「睡眠」とされています。

ヒトは大脳が発達していることに特徴づけられます。その「大脳」の仕事は高度な情報処理と体の機能調節です。その機能を果たし私たちの高度な活動を支えるためには、連続運転にとても弱いという「脳」を管理する技術が必要です。

その管理技術が「睡眠」です。

「睡眠」により大脳を守り、修復して、私たちの「覚醒」を支えます。また、大脳以外にも、内臓、自律神経系、ホルモン系、免疫系などその日に生じた体内のあらゆる不具合をリセットし、翌日の活動に備えます。

大脳が発達し、その管理技術として「睡眠」を身につけたのは、ヒトや高等動物の「生存戦略」でもあります。

「睡眠」が必要不可欠であることは体験的によく理解されています。慢性的な睡眠不足がさまざまな不調をもたらすことは実証済みで「生存戦略」である「睡眠」が不十分であれば、当然「生殖機能」にも影響が及び、トラブルが生じるであろうことは容易に想像がつきます。良質の「睡眠」をとることができれば、それだけで妊活・不妊治療に役立つ可能性があるわけです。

「メラトニン」の増やし方

睡眠調節の部位は脳幹であり、概日リズム機構(約 1 日周期の眠気リズムを発信する)とホメオスタシス機構(睡眠の過不足から眠りの質と量を決定する)との協調で調節されますが、その中心的役割を担うのが「メラトニン」です。

妊活・不妊治療でも重要な役割をするとされる「メラトニン」はどのようにすれば増えるのでしょうか?

海外であればサプリメントで補う方法もありますが、日本ではメラトニンのサプリメントは販売されていません。

しかし、どうすれば分泌されやすいかは分かっています。

日中に光を浴びて、夜に浴びる光の量を減らすことが1つの方法です。

朝起きたら太陽の光を浴びて、寝る前には部屋を暗くしたり、スマホから距離を取ったり・・・。睡眠の妨げになる様なことを減らしていくことでメラトニンを増やしていくことができます。

現代社会の生活スタイルでは、難しいこともあるかもしれませんが、明るくなれば活動し、暗くなれば休むという、人間にとって当たり前の生活スタイルを意識して過ごすことが大切です。

現代社会は便利で快適な環境ではありますが、それは必ずしも良いことばかりではありません。

便利で快適な生活スタイルばかりを追求するのではなく「自然」と調和した生活も大切にすることで、妊活・不妊治療を成功に導く道筋を作り、ひいては「ヒト」としての生存戦略を達成することになるのだと思います。

「睡眠」は絶対に必要なものですが、おろそかにしがちです。妊活・不妊治療中の方だけでなく、私たちは「生存戦略」である睡眠を大切にしなければなりません。


「睡眠」に関してもう1つ、面白い研究報告があります。妊娠中の「お昼寝」の子どもへの影響を調べた報告です。

お昼寝の効果

10,111名を対象に、妊娠中の昼寝の低体重児へのリスクを調べました。

その結果、

1時間以下の昼寝で、17%
1時間以上の昼寝で、39%

低体重児のリスクが低下しました。

昼寝の頻度的には週に5〜7日(ほぼ毎日ですね)が効果的と分かりました。

これらの結果より、1日に1〜1時間半程度のお昼寝を、1週間のうち5〜7日行うと、低体重児のリスクがより低下することが示唆されました。

1時間以上の昼寝はもはや昼寝ではない様な気がしますが、1.5時間以上ではリスクの低下は見られませんでした。

低体重出生児の場合、大人になってから高血圧・心臓循環器系疾患、耐糖能異常・2型糖尿病、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、脂質異常症、精神発達異常、慢性閉塞性肺疾患等の成人病(生活習慣病)発症リスクの高いことが明らかとなっています。

妊娠中は睡眠不足になることが多いので、毎日の昼寝は良いかもしれません。

世の中は「睡眠不足」にあふれています。特に「日本人」の睡眠時間は先進国で最低レベル。寝不足による経済損失は18兆円に上るとも試算されています。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の割合は、男性が37・5%、女性は40・6%と報告があり、女性の睡眠不足が際立っています。

寝ましょう。妊活・不妊治療のためにも、健康のためにも寝ましょう。
生まれてくる子どものためにも、寝ましょう。

不妊、睡眠改善のご相談のご予約はこちらからお願いいたします。

タナココ

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