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【創作大賞2024-応募作品】『アブソリュート サンクチュアリー』〈Sleeping Beauty -眠り姫- 編〉Ep7 潜入_後編

 ドロンとは、数時間ではあるが完全に翔琉の神気(青白い神属性の方)を隠蔽し、身体を人属性の気のみで覆ってしまう事である。精神感応レベルはそのままに、一級のかなりの上位神でもない限り神に席を置く者と認識出来ない。

 つまり人に化けるようなものだ。
 ただ、最大のデメリットは、防御、あるいは戦闘態勢を取った途端に解放される神気の圧が通常よりかなり高くなり、少なからず人世界に影響が出てしまう点だった。

 千二百年前は、解放した神気の圧が高すぎてASを展開する間もなく――神堕ちした神と山一帯を吹き飛ばしている。
 被害は、関係ないのも含めたその一族二百人以上と、山の周囲に暮らす村々の人世界の人々を、一瞬で消し去ってしまった。 

 当然ペナルティを他の神属から要求されたが、神堕ちした当事者が悪辣で、こちらの被害も過大だったため、翔琉はペナルティを拒否していた。

 そんな高リスクは負わず、簡単に人間に化けられないのかと思われるだろうが、それが出来ないポンコツ特級神という、オプション落ちを起こしているせいだった。

 おれは、作戦の詳細と千二百年前の顛末を九郎に説明した。聞いている九郎は呆れ顔だったが、その場にいなかった事が残念そうに見えた。

「山一つ吹っ飛ばしたのかよ、確かにとんでもないな。神気解放で社殿の一部でも破壊したらニュース沙汰じゃ済まないぞ、それに、ルーエ様にはどう説明するつもりだ?」
 やれやれと中天の月を仰いでいる。

「千二百年前より場数も踏んでるし攻撃されたらされたで、解放神気の圧を利用して山ごとASの即時展開を仕掛ける。これなら人世界に与える影響は、せいぜい軽い揺れ程度に抑えられるはず……やれるよ」
 三者三様にニヤリと笑い合う。

「そう来なくっちゃね、神気解放が山攻めの合図――張り切って暴れちゃうから」
 シェリルが金目に輝きを湛えて伸びをした。
「おれはルーエに作戦を伝えてから寝るよ、じゃあ、お休み」
 立ち上がり、ログハウスに向かいながら気分が高揚する自分に苦笑いしてしまう。
 全く、こういうのが根っから好きなのだ。

 二日後朝早く、おれは電車を乗り継ぎ(切符はちゃんと買いました)東京から西の方にある〈竹のお山〉(竹がめっちゃ生えてる山だから名前がついたと説もある)近くまでやって来た。 

 念には念を入れて、想定される相手の圏外より遠くから人として移動し、今、山の登り口、参道の入口の前に立っている。ちょっとした勾配の石段が「準備は大丈夫か?」と言っているみたいに長々と伸びていた。

 まだ寒い時期だったからダウンジャケットを着て来たのは正解だったようだ。人に紛れるのに季節感は大切だとシェリルにキツク言われている。いつのスリムパンツとトレッキングシューズ、革製のヒップバックを下げ首には皮紐の先に小ぶりなクリスタルが輝いている。 

 このクリスタルは、先日ルーエのところに預けていたのを受け取って来た物で、中に九郎とシェリルが入っている。

 クリスタルの中にいる限り、外に気配を察知されることは無いが、中からコンタクトする事も出来ない。外をモニターするのみだから、神気解放で出られるまで二人は物見遊山を決め込むしかない。

 参道の始まる所から結界の無い事が感じ取れる。
 結構急な山道の石段を延々三十分位行くわけだが、平日にしては人が多く「こんにちは」とか「お疲れさまです」とか、行き交う人同士で声を掛けあう様は何とも心地いい。

 標高が上がるにつれ空気が重くなっていく事だけが、とても異質な感じを与えるのだ。

 人状態では流石に息が上がってきて、やっと頂上の鳥居前まで辿り着いた。鳥居前から眼下を見下ろすと、海底が深海レベルの深い蒼を湛えた大きな湾が広がっていた。

 深呼吸と背伸びを一つして、他の参拝者に混じって鳥居の中に入って行った。

-つづく-


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