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詩『時計を止めて……』

作:悠冴紀

音もなく降りしきる霧雨に 大気が霞み
近くにあるものさえ 遠く感じる
世界があなたを 失ったからだろうか

あなたを想う人の数だけ
止まってしまった時計がある

あなたが旅立ったあとも
時間は無慈悲に流れ続け
何事もなかったかのように
多くの人々を押し流していく

けれど あなたを愛した人たちは
彼等の中の時間を止める
あなたをこれからも想い続けるため
その余韻を少しでも長く続かせるため
あえて少しの間 歩くのをやめる

あなたの歩んだ大地で その足跡をたどり
あなたの見つめた彼方に その残像を追う
蜃気楼のような透過性で浮かび上がる あなたのすべてを
振り返らずにはいられない

あなたと触れ合った人たちが 今
閉ざした瞼の裏側で
あなたの輪郭をなぞっている

いつかは再び歩き出さねばならない現実を前に
私たちは
それでもやがて
一つの道を見いだすだろう

周囲の時間枠に囚われない別なところに
あなたのためだけのスペースを作り
あなたと共に在り続ける道を
──

朽ちることのない内なる場所で
いつまでも あなたを想い続ける
時計の針をあえて止めて
いつまでも
いつまでも
残し続ける

あなたが奏でた 恍惚とした命の調べが
いつまでもずっと 消えないように ──

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※2014年8月(37歳当時)の作品。

この作品は、乳癌で亡くなった知人のために書いた一作です。

注)この作品を一部でも引用・転載する場合は、「詩『時計を止めて……』悠冴紀作より」と明記するか、リンクを貼るなどして、作者が私であることがわかるようにしてください。自分の作品であるかのように公開するのは、著作権の侵害に当たります。

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