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大阪人の奥さんに冗談を言うと怒られます【エッセイ】

ぼくの奥さんは大阪人です。
生まれも育ちも大阪市内。東京に越してきたのは8年前のこと。
ぼく自身は北関東の生まれで、上京して大学に通い、そのまま都内で就職という人間です。

生まれと育ちが異なるので、結婚してからカルチャーギャップを感じることもしばしばです。
あるあるネタの鉄板は、やはり食べ物関連。
奥さんから受けた代表的なツッコミはこちら。

  • 味付けに醤油を使いすぎんねん。汁めっちゃ黒いやん。

  • 納豆は食いもんちゃう。無理やで。

  • うどん屋どこ? そば屋しかあらへん。

  • もんじゃ焼き? どうやって食べるん?

  • たこ焼き食べたい。銀だこはな、たこ焼きちゃうねん。

まあ、この辺りのギャップは結婚前から予想していましたから、別にどうってことはありません。かわいいものです。
やっぱり大阪人と結婚して一番大変なのはですね、〈笑い〉です。


松本人志が書いた『遺書』という本があります。

もう30年近く前の本ですね。自分が読んだのは中学生の時だものなぁ。

この本の中で、大阪人はボケとツッコミがないと笑いではないと思っている。ボケ逃げは許されないと書かれた部分があります。
興味深い話だけど、まっちゃんは少し大袈裟に書いているのだろうと、中学生のぼくは思っていました。
中年のぼくは、松本人志の言葉に静かに、深く、うなずくことができます。

関東人同士の会話に、大阪人がいうところの〈ツッコミは存在しません。
そりゃあ相手がボケれば「なんでだよ!」とか、気が乗れば「なんでやねん!」くらいは言います。形の上では〈ツッコミ〉になるでしょう。でもそれは本当に形だけで、別に無くてもいいんです。
「それって〇〇だよね(ボケ)」「アハハハ(周囲の笑い声)」
これで会話は何の問題もなく成立します。

でも大阪人は、〈ツッコミ〉というアタックありき。むしろツッコミアタックから逆算したボケトスを提供しないと許してくれないところがある。
ボケてる時点でこれはボケですという空気を出し、言い方にも抑揚をつけてきちんとしたトスを上げないといけない。
ぼくが驚いたのは、奥さんに昔の「関西電気保安協会」のCMを見せてもらった時です。
「妙にテンポがゆっくりだし、繰り返しが多くない?」と感想を言ったら、「それはな、テレビの前でみんなツッコミを入れられるようにやで。みんな見ながら家族でツッコんでんねん」とさらりと返されて目を剥きました。
テレビコマーシャルのような一方通行の媒体でも、そこを譲らないとは。

でも別に大阪エリアがそういうカルチャーでやっている分には、ぼくは何も言いません。楽しくていいと思います。
でも夫婦の会話に、その鉄の掟を持ってこられると、ちょっと大変です。

ぼくは、シュール、ナンセンス、ブラックジョーク、あるいは斜めの言語表現による笑いが好きなので、口に出す冗談もその手のものが多いのですが、こういうのって〈ツッコミ〉とは相性が悪いです。
言った後のじわじわとした余韻がキモなので、下手に〈ツッコミ〉によってほじくり返されると台無しになってしまうと恐れています。
はい、いまボケてますよ〜という雰囲気はおくびにも出さず、真顔で淡々と冗談を言いたいのです。
それが奥さんに「分かりにくい」と怒られます。結構、怒られるのです。「そんな真顔でボケられて、その後、私はどういう返しをしたらええの?」と言われます。う〜ん。そのまま笑えばいいだけだと思うんだけどなぁ。ダメなんでしょうか。
何を面白いと思うかの感覚は近いのですが(そうじゃないと結婚できません)、どうにもこのアプローチの違いは未だに解決できていません。
なので、真顔で淡々と冗談を言うことは止めました。
一抹の悔しさは残りますが、夫婦円満のための苦渋の選択です。ぼくも大人になりました。

47都道府県から一人ずつ選んで、同じ部屋に入れて3日経つと全員大阪弁をしゃべっているという話があります。
〈笑い〉に関してもそれと同じことが起こるような気がします。大阪文化圏の圧倒的な押しの強さたるや恐るべしです。
ぼくは徐々に大阪の笑いに取り込まれていくのかも知れません。
なんとか関東人の矜持きょうじを保って、日々を過ごしていきたいと思う今日この頃です。
知らんけど。


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