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身長70cmのアスリート、寝返りを打つ【エッセイ】

生後半年の娘が寝返りを打つようになりました。
ばんざい!

仰向けから横向きになることは、2週間くらい前からできていました。
でも横向きからうつ伏せになるのが、上手くいかなかった。

胴体はくるんと回転させられるのですが、手がどうしても体の下に残ってしまいます。
そこから手を引き抜くのが難しかったらしく、しばらくうなった後、力尽きてまた仰向けに戻るということを繰り返していました。
あれですね。逆上がりで蹴り上げた足が鉄棒を超えずに、そのまま落ちてきてしまう感じなんでしょうね。悔しかったなぁ、あれは。

赤ちゃんの成長は人それぞれ。頭では分かっていても、育児書に「寝返りは5か月くらいでできるようになります」と書かれていると、何だか焦ってしまいます。
ぼくも奥さんも娘の面倒を見ている時は、それとなく寝返りの練習をさせていました。
でも、何故だか分かりませんが、娘本人にも「あたしは絶対に寝返りすんねん。できんねん!」という強い意志があったようです。目が確かにそう言っていました。
朝から晩まで寝返りの自主トレをしていましたし、上手くいかないことに苛立っていたようで、コロンと仰向けに戻る度に「あ"ーーー」とハンマーを投げた後の室伏のような雄叫びを発していました。その姿は身長70cmのアスリートです。圧が、圧が凄い。
ずいぶんと勝ち気な少女に育っていくのだろうかと、父はちょっと腕を組んで考えてしまいました。

娘が寝返りをできたのは喜ばしいのですが、子育てはより大変になってきました。
今まではベッドに寝かせてさえいれば、ある程度目を離しても安心だったのですが、これからはそうはいきません。
娘は寝返りを打って、うつ伏せになることはできても、まだ仰向けに戻ることができないからです。
しばらくは頭を持ち上げて耐えていますが、1分もしないうちに力尽きて、ベッドに顔を埋めて突っ伏してしまいます。窒息の危険性がある状態です。急いで手を差し伸べ、仰向けに戻してやらねばなりません。
ぼくも奥さんも娘から目を離せない時間がぐんと増えました。

寝返りができたら、なかなか目を離せない。これもまた育児書のページをめくるまでもなく、頭では予想できていることでした。しかし実際の大変さというのは事前に分かるものではありません。

一度寝返りをマスターした娘は、楽しいことこの上ないらしく、ベッドにいる限り、取り憑かれたように寝返りをします。そして顔をベッドに埋めてバタバタともがく。ああ!危ない!と慌てて仰向けに戻すのですが、戻したそばからまたコロン。
きりがないので、応急処置として腰のあたりにタオルを噛ませて転がらないようにしました。
そして、ぼくは寝返り防止用のクッションをそっとポチりました。

娘が生まれてから、まさに1週間ごとに生活スタイルが変わっています。
子育てとは、「ぼくと奥さんを中心にした家族の輪に、娘が加わる」というイメージをしていたのですが、実際は「家族の真ん中にはひたすら成長を続ける娘がいて、ぼくと奥さんは娘が引き起こす大波のあおりを受け、溺れないように体勢を変えながらもがいている」というのが偽らざる実情です。
子どもの成長というのは、大人二人なんて軽く吹き飛ばすくらいのパワーがあります。

これって大変なんですけど、でも家族ってこういう〈変動〉のあったものだったなぁとも思います。
粘度のように可塑かそ的で、子どもの成長と変化に合わせて、ぐにゃぐにゃと変わっていく。ぼくの知る、かつてぼくが育った家族もそうでした。
一人暮らしだったり、奥さんと二人暮らし(+猫2匹)のときだって、色々ありましたけど、まあ大人同士ですからそんなにバタバタしません。生活自体は十分安定していました。
でも今は娘の寝返りひとつでこれです。
はいはいしたり、立ち上がって歩き出したりしたら、それこそ地殻変動ものなのでしょうね。

ぼくの記憶の中で、日時が特定できる一番最初の記憶は2才の誕生日です。
きっと娘も2才になるまでは何も覚えていないでしょう。こんなに大変なのに。
いまぼくはこうやって子育て記録を残していますが、これは自分のためでもあり、かつ奥さんや娘のための外部レコーダーのようなものです。
そういった意味で、ここには二重三重の時間が収められています。
ぼくはあまり写真を撮らない人間なので、その分を少しでも補えたらと思います。
でもいい加減な人間なので、ちゃんと続くかは保証できませんけど。

寝返りの次は、お座りができるかですね。
娘は足の力が強いらしく、いつも足を突っ張って座ろうとしないのですが、これから我が家のアスリートがどんな挑戦を見せてくれるか、それが楽しみです。

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