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【小説】恋の幻想

人間は泣くと嫌な時間を忘れる、って言っていたのは誰だったんだろう、そう考えながら、溢れてきた感情を受け止める。

「大丈夫?なんだか混乱しているみたいだけど。」と裕子さんが聞いてくれる。

今は一挙に感情が溢れていて、正確に言葉にするのが困難で、頭を振って意志を伝えた。

「今は考えを纏めて居るんだよな、今迄自分の意志で選んだものなんか無かったんだろう?」と良平さんが聞いてくれる。

これに頷いて、私はちょっと考え込んでしまった、親や兄から離れたいって気持ちと一緒に何処かに行こうという話で、駅で待っていたけど、そこに自分が有ったのかどうか。

「きっと、誰かに一緒に行こうと言われたら、その言葉に従ってしまったんでしょ、あるよそんな事。」と裕子さんが言ってくれる。

「私、自分では考えてなかった、家から出たいって考えていただけで。」そう言った。

あの家は親の家だったけれど、決して私の家では無かった、父親も母になるといった女も私を認めていたわけでは無かったのだ。

何も嫌だと言えなかった場所、兄が身体に触れたり、夜にベットに入ってきても何も考えなかった。

ファザーファッカーって小説が有ったけど、それを言うならブラザーファッカーだったのかも知れない。

何もしなかった訳では無い、兄が触れるのを訴えると、母の顔をした女はこういった。

「お前が誘惑するからだ、女を感じさせる服なんて来ているから。」まだ中学生の私に憎々しげに言葉を打ち込む。

男に生まれたかった、それとも強い力が欲しかった、今考えると中学生にそんな力がある訳はない。

私はあそこに居る為に娼婦に為っていたんだ、そう考えると自分の体が醜い物に思えてくる。

「どうした、家に帰りたくないのなら、住む所と仕事を探さないとね。」と良平さんが私をハッとさせる。

「そうだね、さっきも言ったみたいに私住み込みで働けるところ知ってるんだよ。」と裕子さんが聞いてくれる。

「私みたいなのが急に行って働かせてくれるんですか?学校もちゃんと出ていないのに。」と答える。

「高校はもう直ぐ卒業なんでしょ、それからちゃんと働くって話にすればいいし、今のところはアルバイトって事で良いじゃない。」と続ける。

「そんな都合のいい場所が在るんですか?」と聞くと。

「私の親戚が旅館をしていてね、お客さんも多くないけど、従業員さんも少なすぎて、探しているんだよね、旅館なら泊る所もあるし、そこで働いてみたら、何処かで働くつもりだったんでしょ。」


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