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【小説】恋の幻想

「あのなあ裕子お前が言うなよな、責任って取って無いだろ。」こちらは大変だったのだから裕子に言っておく。

結婚をするつもりで招待状も出して、式の手筈を整えた上での破棄だったのだから、無責任極まりないと、その時期は考えていた。

彼女の親も俺も手分けして結婚式を止める手配をした、そこに裕子は居なかった、好きな人が出来たとその頃は言っていた。

「責任は取ってないけど、覚悟は有ったのよ、私としてはね。」いつもの呑気な言葉が飛び出す。

この人はいつもそうだ、自分の気持ちが有るのなら、何でも許されると思っている、彼女がここに来るのを認めている自分も、どうかしているのかも知れないが。

「婚約を知らせていた人に断りを入れるのは、俺の仕事だったんだよ、大変さ知らないだろ。」自分が説明したら良かったんだ、昔の怒りが込上げてくる。

「言いにくかったんだよね、良平は婚約破棄されたって言えるけど、私は何故なのって聞かれたら、言いにくいからね。」とひょうひょうとした語り。

この語りが裕子そのもので、それが良くて結婚しようとして、それが嫌で来ないで欲しいとも思う。

相反する気持ちが自分の中に有って、愛とか恋とかとは違う兄妹みたいな感情が湧いていて、裕子を否定できない。

「私も聞きたいです、何故婚約破棄しちゃったんですか、又ここに来るのに。」忍が様子を見て話しだす。

忍は裕子と話をしていい人だって気持ちになっているから、解らないのだろう、人間のいい部分は、すなわち一番問題になる部分なんだって。

俺たち二人の会話を聞いて、婚約破棄は何故だったんだろうと考えたんだな。

知り合い全部に納得してもらって、婚約破棄したんだと思っているんだろう、そんな簡単な話じゃない。

周りは誰も納得していないし、裕子は許されたわけでもない、それが裕子には解って無いらしい。

「そうね、きっと解って貰えないと思う、だって嫌になったんじゃないんだもん、ここに居ると上手く息が出来るけど、人間深呼吸ばっかりしてるわけじゃ無いでしょ。」ヤッパリ解らない言い方をしている。

「田舎に行くと空気が綺麗だけど不便だって話ですか、何か違ってるような気がするんですけど。」忍も不思議そうだ。

「要するに苦しくても刺激的な都会が良いって事なんだろ、婚約破棄してから付き合った男も沢山いたし、何で此処に来るのか、俺には解らないよ。」これから忍が大事になった時に、裕子が当然の如くにここに来るのは、避けたかった。

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