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【小説】恋の幻想

笑って居れば状況が変わるって聞くことが有るけど、状況が違うから笑えるのか、笑っているから状況が良くなるのかは、誰にも解らない。

卵が先か鶏がなんて誰にも解らないんだから、何にも云わなけりゃいいのに、人に意見する人が多い。

まだ小学校の頃に「虐められるから笑ったりしない。」と先生に訴えた、先生に何かを言うのも勇気が言った。

「あなたが笑わないから虐められるのよ。」先生は嫌な顔で答えてきた、今なら先生が私を嫌っていたのが解る。

その頃は一生涯笑わないで生きて行くんだろうと思っていた、でも違ってたここで笑っている。

他愛無い会話が笑顔を作っているのだ、テレビや寄席ではこうはならなかったんじゃないかと思って二人を見る。

「どうしたの?」不思議そうに裕子さんが聞いてきて、私の顔を見つめている。

「私笑ってますよね、ちゃんと笑ってますよね。」確認する、自分では笑ってると思っていても、他人にはそう見えないかも知れない。

「ちゃんと笑ってるよ、会ってから初めての笑顔だね。」良平さんもまじまじと顔を見てくる。

「どんなときにも笑顔って出来るって聞いてたけど、本当だったんですね。」笑顔に涙が溢れてきた。

「急に泣かないで、何かあったっけ。」とおろおろする裕子さん。

「人間嬉しすぎると、涙が出るんだよな、俺解るわ。」と良平さんは納得顔をしている。

「ずっと、泣くのも笑うのもしない様にしてきたんで、自分が笑っているのかも解らなかったんです。」と言って頬に伝う涙を手のひらで拭った。

母が死んでから感情を表に出さない様にしてきた、笑っても泣いても怒っても、叱られてしまう。

なるべく感情を出さない様にしていると、自分の感情が何処に行ったか解らなくなる。

失った感情を取り戻すのは難しかった、感情と云う感情が全て私に何も言わずに引っ越しでもしたようだった。

引っ越し先も解らずに、何も感じない様に、何も考えない様にしなければ、生きて行くのが辛かったからかもしれない。

「泣くのも笑うのもして無かったら辛かっただろ、そんなの苦しすぎるもんな。」良平さんが何も知らないのに解ってくれる。

私は笑い顔を涙で泣き顔にしながら、大きな声で泣き出した、我ながら子供みたいだと思っていたが止まらなかった。

「どうしたの?」裕子さんは背中を擦ってくれる。

私が引っ越して何処かに行ったと思っていた感情たちは、私の頭の中の奥深くに隠れていて、良平さんの言葉でゆっくりと顔を出してきたのだ。

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