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御祈祷は究極の瞑想。

先日、ある人から「御祈祷は絶対受けたほうがいい」と強くすすめられて、人生ではじめて神社での御祈祷を一人で受けてきた。これが、私にとってはかなり衝撃的な体験だった。

すすめてくれた人いわく「神社に行って御祈祷しないなんて、ライブ会場に行ってライブを見ずに帰るようなもの」だそうで、それぐらい「やらないともったいない」ということ。

私は神社にもパワースポットにもさほど興味がない。だから、最初は半信半疑だったし、実際に御祈祷を受けるまでは「ふーん」ぐらいにしか思っていなかった。でも、今は「やらないともったいない」に激しく同意する。

今まで、子どもの七五三など家族で御祈祷を受けたことはあったけれど、そのときとはまったく異なる体感があったのだ。

そもそも、自分のためだけに御祈祷してもらうということがはじめてだったし、「安産祈願」や「厄除け」など一般的に御祈祷を受けるしかるべき理由があるわけでもないのに、個人で御祈祷を申し込むというのはなかなか勇気がいる。「七五三でもないし、妊婦でも厄年でもない、まして会社を経営しているわけでもないただの一個人が、御祈祷してもらっていいのでしょうか?」という気持ちが拭えず、なんだか申し訳ないような気がしてそわそわした。

申し込むときに、「何の御祈祷ですか?」と聞かれたので、私は「心願成就」と「家内安全」と答えた。これを個人でわざわざ御祈祷してもらう人がはたしてどれぐらいいるのだろう? なにしろ初めてのことなので「いいのかなあ?」と、いちいち不安になる。

「準備ができましたので、こちらへどうぞ」

案内してくれた巫女さんは、初詣のときに神社で見る巫女さんの姿とは違っていた。「うわっ、なんか特別な格好してる!」と、無知な私はそれだけで驚く。巫女装束と頭飾りを身につけたその姿は神聖で美しく、場の空気を一瞬にして変える力があった。こちらも自然と背筋が伸びる。

おそらく、七五三のときも同じだったはずなのに、そのときはまったくそんなこと思わなかったというか、ほとんど記憶にない。子どもと一緒だと子どもにばかり気を取られて、他のことまで意識が向かないのだ。しかも、七五三のときは混み合っていたので何組か一緒に御祈祷してもらい、流れ作業のように終わった気がする。

だが、今回は違う。私が主役で、私のためだけの御祈祷の場なのだ。きらびやかな衣装をまとった巫女さんを見ながら「もしかして、私の御祈祷のためにその格好をしているのですか?」と心の中で問いかける。もちろん、そうに決まってる。なんて有り難いのだろう。

平日の昼間、しかも外は大雪。私以外に参拝者は誰もいない。

社殿に入ると、十人分ぐらいの椅子が並べられていたが、座るのは私だけ。もはや貸し切り状態だ。

「どうぞ、正面にお座りください」

真ん中に座って神様と向き合う。荘厳な雰囲気と静けさに包まれ、神経が研ぎ澄まされる。いつもはごちゃごちゃうるさい頭の中もシーンとする。社殿の中をこんなにゆっくりまじまじと見るのははじめてだ。宮司さんの姿も巫女さんの姿も、社殿の設えも装飾品も、普段目にすることのない特別なものばかり。すべてが整えられ、清められた神聖な空間。

今ここにいるのは、神様と宮司さんと巫女さんと私だけ。ここで、これから私のためだけの儀式が執り行われるのだ。

「なんて贅沢なんだろう!!!」

そのあまりに特別な非日常感にクラクラした。

宮司さんが太鼓を鳴らし御祈祷がはじまる。ドーンという音が全細胞に響き渡る。今ここにあるすべての意識が一点に集中する。

宮司さんが祝詞をあげてくださる声を、私は全身で聞く。声と言うより音だ。肚から出る言葉の音が、振動となって伝わってくる。私の名前と願いが読み上げられ、その言霊が社殿と私の体に響き渡る。

そして、巫女さんが舞を奉納する。その舞も素晴らしかった。空気を操るかのように指先まで「気」を集めて、祈りを描くように舞っていた。

私のためだけに、宮司さんと巫女さんがたっぷりと時間をかけて祈りを捧げてくれる。こんな贅沢な時間があるだろうか? 

その場にいる全員がただひたすら一つの祈りに集中する。私は儀式の一つひとつをじっくりと味わった。そこは意識の奥深くへとつながる空間であり、もはや異次元だった。こんなにも「祈り」の力を体感したのははじめてだった。

祈りとは、自分の願いと真剣に向き合うこと。祈りとは、瞑想だ。

それを自分一人でやるのではなく、宮司さんや巫女さんという第三者とともに行うことで、祈りの力がより強くなる。

人にすすめられて半信半疑で受けた体験だったけれど、御祈祷の醍醐味を味わうことができたと思う。人にすすめられたことを、素直にやってみるって大事だ。

まさに百聞は一見に如かず。セミナーを10回聞くより、1回の体感が人生を変えるのだ。


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