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【吉本ばなな】『アムリタ』読書ノート

空前の吉本ばななブームが、私に到来している。

吉本ばななさんの本を初めて手に取ったのは、高校1年生の時。

名作「キッチン」を読んだ。

当時の私の感想は


「大人っぽくてよくわかんない・・・」


というものだった。

時を経てアラサーになった私は「キッチン」を再読した。

感想は

「めっちゃ、わかる・・・!!」

見事、吉本ばなな作品にハマってしまった。

今回読んだのは「アムリタ」

「キッチン」にも通ずる、吉本ばななさんの世界観を紹介します。

あらすじ

アムリタ(上)
妹の死。頭を打ち、失った私の記憶。弟に訪れる不思議なきざし。そして妹の恋人との恋──。流されそうになる出来事の中で、かつての自分を取り戻せないまま高知に旅をし、さらにはサイパンへ。旅の時間を過ごしながら「半分死んでいる」私はすべてをみつめ、全身で生きることを、幸福を、感じとっていく。懐かしく、いとおしい金色の物語。吉本ばななの記念碑的長編。
 
アムリタ(下)
サイパンの心地よい生活、そして霊的な体験。親しんだバイトとの別れ。新しいバイトの始まり。記憶は戻り、恋人は帰国し、弟は家を出る。そして新たな友人たちとの出会い──。生と死、出会いと別れ、幸福と孤独、その両極とその間で揺れ動く人々を、日々の瞬間瞬間にみつけるきらめきを、美しさを、力強く繊細に描き出した、懐かしく、いとおしい金色の物語。定本決定版。
(「BOOK」データベースより)


感想

生きていると、「とんでもない出来事」に遭遇する。

主人公の朔美はまさに、その渦中にいるのだ。

しかも1つや2つではない。


・妹・真由の死

・頭を打って手術

・記憶喪失に

・弟・由男が超能力を持ち不登校に

・真由の恋人であった竜一郎と関係を持つ


これ以上はネタバレになるので書かないが、これ以降も衝撃的な出来事の連続である。

文章だけを見ると、暗く辛い物語のように感じる。

しかし、この作品には陰鬱さというものが全くない。

それどころか、澄み切った物語だ。

美しくて柔らかくて、どこかホッとする空気が流れている。


前提として、真由の死に対する深い悲しみがある。

その上で、ご飯を用意して、食べて、夜は眠る。

その間に仕事をし、友達や恋人と会う。

ときに旅行に行き、非日常を楽しむ。

そうしてまた平凡な日常に戻ってゆく。


その間も悲しみが無くなることはない。

だが絶望に打ちひしがれてその場に留まり続ける、ということもないのだ。


私は「苦しみや悲しみを抱えつつも、平凡な生活を営み続ける」という作風に強く共感した。

希望を、感じた。

「人間は、毎日ご飯を食べて、うんこやおしっこをして、毛が伸びて、ほんとは絶対にとどまれなくて、今にしかいられない作りになっているのに、どうしてか昔のことをおぼえてたり、先のことを心配したりする」
アムリタ(上)p68

由男のこのセリフが印象的だ。

これと似た表現が「キッチン」にも登場する。


「虫ケラのように負けまくっても、ごはんを作って食べて眠る。愛する人はみんな死んでゆく。それでも生きてゆかなくてはいけない」
キッチンp113


朔美は生活の端々で、真由に想いを馳せる。

愛する人を失った深い悲しみが、ひしひしと感じられる。

だが、朔美自身には「死の香り」を感じない。

それはきっと、朔美に「生きてゆく」という確固とした意志があるからにちがいない。

「せっかく生まれてきたんだから。
いろんなことをしよう。おかしいことも、恐ろしいことも、ひとを殺すほどの憎しみも、いつか。」
アムリタ(下)p115


「やりたい」ことがあるということ。

それは今を、今日を、明日を生きてゆきたいということだ。


『愛情や希望は、特別な場所にではなく日常の暮らしの中にあるんだよ』

そんなことを、そっと朔美が囁いた気がした。


「アムリタ」はこんな人におすすめ

 

・お疲れモードの人

最近、なんだか疲れている…。

身体よりもメンタルがヤバいかも…。

そんなときこそ「アムリタ」を。

物語の穏やかな空気感に癒されること間違いなし!

 

・愛する人や身近な人を失った人

母が亡くなった。

祖父が亡くなった。

どうしようもない悲しみに襲われてしまう。

心の栄養剤に「アムリタ」はどうですか?

愛する人の死を受け入れるヒントが散りばめられています。


・生きていくってどういうこと?と思ったとき

「生きていく」って何だろう?

人間ならば一度は持つ疑問ですよね。

難しい言葉の羅列よりも「アムリタ」を。

読了後には「こういうことなんだな」とほっこり温かい気持ちになります。


おわりに

実はこの本を読む前に、大切な人から癌になったと告白された。

愛する人に死の影が揺らめいたとき、私は発狂しそうなほどの恐怖に襲われた。


「でも、もしも彼に何かあって、ここで初めて作り上げた幸せが壊れたら、私もはじめて不幸になるかもしれない。失うものができると、はじめて怖いものもできるんだね。でも、それが幸せなんだね」
アムリタ(下)P21

させ子の歌声なんて聴こえないはずだ。

でも、私には想像できる。

それは幼かったあの日、母が歌ってくれた子守唄と同じ音色なのだろう。


「アムリタ」


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