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ゾンビ論文の総括(2024年07月)


概要

2024年07月にGoogleスカラーのアラートに次の検索条件を設定して、ゾンビ論文の収集を行った。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"

単語の前にハイフンをつけると、その単語を含まない論文を探す検索条件となる。「zombie」でゾンビ論文を探し、「-〇〇」で不要なゾンビを検索結果から排除するというわけだ。各キーワードで排除したゾンビは次の通り。

7月中にメインの検索条件に引っかかったゾンビ論文は七本であり、私が探している「本物のゾンビを扱った(と仮定しても矛盾しない)論文」は見つからなかった。

また、8月は次の検索条件で論文を確認していく。ただし、検索条件1をメインの検索条件とする。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」(取りこぼし確認用)

以下、7月の調査の詳細を記載する。



集計結果

まず、集計結果を示す。

2024年07月のゾンビ論文集計結果。最上行の日付はアラートメールが送られてきた日付。
ジャンルごとに集計結果が多い順にソート済

合計で七件のヒット。平均0.3件/日。前回の12件と比べて若干少ない。ここ数か月はおおむね10件程度で推移しているため、同等と言ってもよいかもしれない。

ジャンルごとのヒット数でいえば、情報科学の二件が最大。ほかは一件ずつであるから、誤差と言っても良いだろう。…という結論をこれまでも出してきたが、二件も誤差レベルのヒット数と呼ぶことにしよう。そして今後誤差にはいちいち言及しない。するにしても月ごとではなく、半年に一度くらいの頻度にしよう。これでひとつ面倒ごとが減る。

次に、検索条件2のヒット数は次の通り。


2024年07月の検索条件2の集計結果。

取りこぼし確認用である検索条件2に引っ掛かったのは27件。検索条件1の七件と合わせても34件。

最も多かったのは情報科学の五件。次点で比較文化学が四件、評論が三件と続く。後者の二つはどちらも「-narrative」で排除するつもりだったが、うまくいっていない。

最後に、検索条件3。太字で示しているのは、「-narrative」で排除する想定だったジャンルだ。

2024年07月の検索条件3の集計結果。

合計で13件。「関連性の高い結果」にしぼったおかげでこれまでの100件超という調査結果から大きく減らすことができた。ただし、この削減は特段意味のあるものではなく、むしろGoogleアラートのアルゴリズムが勝手に付与した「関連性の高さ」とやらに依存している点では確からしさが減っている。しかし、検索条件1や2を、これまで関連性の高い結果に絞って検証してきたため、前提を合わせることには意義があるはずだった。その意義がどれほどあるか、後ほど検証する。

全体の傾向を見ておく。「narrative」に引っ掛かった13件のうち、一件のみが想定しないジャンルのゾンビ論文であった。それはゲームデザイン学だったが、ゲームのシナリオやシステムを人種に絡めて批評する研究だったのだろう。また、想定したジャンルの中では、評論と社会学が四件で最も多かった。



7月の検証結果

7月の検証課題は次の三点だった。ひとつずつ、確認する。

  • 検索条件1で、情報科学系のゾンビ論文を排除できるか

  • 検索条件2で、小説や映画など、フィクション作品を論じたゾンビ論文(評論・書評・文化人類学等々)を完全排除できるか

  • 検索条件3の関連性の高い結果のみカウントし、検索条件2の「-narrative」が本物のゾンビ論文を排除していないか確認する


検索条件1で、情報科学系のゾンビ論文を排除できるか

検索条件1は次の通り。5月に追加した検索条件である「-AI」により、情報科学系のゾンビ論文の排除がすることを目的としていた。特に、もちろん、AI関連の論文を。

「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

検索条件2の結果と比較すれば、どの検索条件で論文が排除されたかがわかる。条件1に入っていて、条件2に入っていない検索条件で論文内を検索すればよい。

「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

「-AI」で排除できたのは次の七件。うち四件が情報科学の論文だった。ただし、「-AI」単体で排除できた論文は二件みだった。

  1. 反復規模枝刈りで宝くじに 2 回当選(7/12、情報科学)

  2. ゾンビや他のストーリーに到達しようとするとき(7/16、評論)

  3. プラヤグラージ農業気候条件下におけるさまざまなアデニウムハイブリッド(アデニウムアラビカム)の種子発芽と苗の成長の評価(7/16、植物学)

  4. 一般的な人工知能と意識の関係について(7/16、哲学)

  5. オデッセイ: オープンワールドのスキルでエージェントを強化(7/26、情報科学)

  6. データセンター内のゾンビサーバーの特定に関するガイダンス(7/26、情報科学)

  7. ワールドダイナミクスモデリングによるエージェント学習の強化(7/28、情報科学)

「-AI」のみで排除できたのは、『プラヤグラージ…』と『ワールドダイナミクスモデリングによる…』。それ以外は別の排除キーワードでも排除されており、上から順に「-network」、「-drug」、「-philosophical」、「-network」、「-network」だった。情報科学系はやはり「-network」で排除されているため、「-AI」は大して役に立っていない。

しかし全く役に立っていないわけではない。情報科学のゾンビ論文を一件排除しているし、「-network」では排除できなかった植物学の論文も排除できている。特に後者はAIの仕組みを扱う情報科学の論文ではなく、AIを使って研究を行うタイプの論文を引っ掛けているため、想定外のゾンビ論文の排除をしていることになる。

これを想定以上の働きと表現すればメリットのように聞こえるが、想定外の働きと表現すれば有用性は不明となる。ただ、5月時点で「あとふた月だけ追加で検証し、そこで「-AI」に効果がないとわかれば排除キーワードから外す」としていた。効果はあったと言えるため、「-AI」は検索条件1に残すこととする。ただし、今回生じた「想定外の働き」に関しては、今後監視することになるだろう。


検索条件2で、小説や映画など、フィクション作品を論じたゾンビ論文(評論・書評・文化人類学等々)を完全排除できるか

検索条件2を再掲する。

「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative

また、比較対象の検索条件3も示す。

「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"

要は、「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers」で引っ掛かる論文のうち、検索条件2では"narrative"を含む論文を排除し、検索条件3では"narrative"を含む論文をヒットさせる目論見だ。これにより、どういった論文が「-narrative」で排除されたのかを知ることができる。

さて、上述した表を参照してもらえればわかるが、「-narrative」で排除したかったジャンルは、比較文化学が五件、評論が三件、ジェンダー学に社会学、政治学が二件ずつ、フィクション、教育学が一件ずつ引っ掛かっていた。ということで、まずフィクション作品を論じたゾンビ論文の完全排除には失敗したと結論しなければならない。なんなら検索条件1でも書評が一件引っ掛かっていた。

一方で、検索条件3に引っ掛かった論文は以下の通り。評論と社会学が四件に、比較文化学が二件。文学、歴史学、ゲームデザイン学が一件ずつだった。

検索条件2に引っ掛かった評論の論文は五件。フィクションの分析を比較文化学に分別することも多いため(後述)、それらも含めると八件。一方で検索条件3に引っ掛かったのは六件。つまり「-narrative」を設定しておくと、評論系の論文を半分程度に減らすことができる。半分だけとも言えるが、評論系の論文は非常に多く、今回も「-narrative」を設定しておかなければ六件の論文が検索条件1に追加で引っ掛かっていたのだ。今回は七件だけだったからほぼ倍増。したがって、評論系のゾンビ論文の排除は完全とは呼べないもののうまくいったと評価すべきだろう


検索条件2と3を比較して、「-narrative」がねらいのゾンビ論文まで排除してしまわないか確認する

検索条件3の結果を再掲しておく。ねらいのゾンビ論文の排除はなかった。

  1. ハインラインの短編小説『All you Zombies』の本質的な要素を映画『プリデスティネーション』(2014)に適応させたもの。(7/6、評論)

  2. スマート フィクション: テクノロジーと想像力の融合(7/12、文学)

  3. 変わる(7/16、評論)

  4. ガンロア:銃器、民俗、コミュニティ(7/16、歴史学)

  5. ゲームのリミックス: ビデオゲームモッダーの実践に関する調査(7/17、ゲームデザイン学)

  6. アメリカの黙示録(7/22、社会学)

  7. (Be)/抑圧する側と抑圧される側の両方として所属する: 三人種間のWomxnの経験と「なりたい」という突然の願望を解き明かす(7/22、社会学)

  8. 避難民(7/23、社会学)

  9. 「混沌を外に、秩序を内に」:コルソン・ホワイトヘッドのゾーン・ワンにおけるグリッドと建築空間(7/24、評論)

  10. 死のニューヨークのウォーキング・デッド:ゾーン・ワンの家族と9/11の亡霊(7/26、評論)

  11. 地表下の迷宮(7/26、社会学)

  12. 怪物を守るために:現代のスラッシャー映画におけるクィアの不安定さと可能性(7/28、比較文化学)

  13. アメリカ(とアメリカン映画)を再び偉大に:トランプ時代の映画の多様性における郷愁のレトリック(7/29、比較文化学)

前段の検証と合わせると、「-narrative」は、完全とは呼べないまでも評論系の排除に効果的で、ねらいの論文を排除することもなかった、ということになる。したがって、「-narrative」は今後も使用することとする。安心のために検索条件3がねらいのゾンビ論文を排除していないか監視は続ける。ただし、記事にはしない。


追加の検証:「-narrative」で排除されなかった評論系の論文は何だったのか

今回、「-narrative」で評論系の論文は半分しか排除できなかった。ではどういった論文が「-narrative」をすり抜けたのか。評論系の論文はおおむね評論と比較文化学に分別していたため、それぞれを比較する。

まず、検索条件2の比較文化学。

  1. 軌道に戻す(7/3)

  2. 「そしてあなたは、自分がとても賢くて、階級がなく、自由だと思っています」 : テレビとイギリス映​​画における労働者階級 (1959-2021)(7/8)

  3. ワシントン合意から商品合意へ:アルゼンチン文学におけるフェミニスト・エコゴシックと反抽出主義(7/11)

  4. J: ブーイング - 正義のためのリーダーシップ!(7/17)

一応、私の独断と偏見ではあるが、「何かを通して異なる文化を比較分析するもの」を比較文化学と判定するようにしている。「何かを通して」というのは、たとえば小説や映画といったフィクション。だから評論とどちらにしようか悩むことも多く、上記の四件も『J: ブーイング…』以外のすべてが映画や小説の評論でもあり、それらを通した文化比較でもある。

一件だけ残った『J: ブーイング…』だが、中身がわからなので分析のしょうがない。しょうがないので、解析の対象外とする。アブストラクトを読む感じ、小説か映画を通した文化比較のような気もするが。

次に、評論の三件を以下に示す。

  1. サイモン・ベーコン編『信仰とゾンビ:世界の終わりとその先についての批評的エッセイ』(書評)(7/11)

  2. ゾンビや他のストーリーに到達しようとするとき(7/16)

  3. アメリカン・サイコ・ユニバース:資本主義、血、そして続編(7/20)

さて、比較文化学の三件に評論の三件、合計六件の論文は「-narrative」で排除されていたことから、ナラティブ(=物語性)を含まない文化分析であると考えられる。

では逆にナラティブを含む文化分析とは何だろうか。すぐに思いつくのは民族ナラティブだ。特に奴隷にされたことで歴史を紡ぐことができなかった黒人の民族ナラティブの分析。私の経験的にも、そういったゾンビ論文は多かったように思う。

それでは、上記六件の論文は民族ナラティブに該当しないのか。答えはイエス。断言しても良い。六件は民族の文化を語るものではない。ならば何の文化を語るものか。私なりの考えを以下にまとめる。

  1. 軌道に戻すアメリカの過去と未来の映画を比較

  2. 「そしてあなたは、自分がとても賢くて、階級がなく、自由だと思っています」 : テレビとイギリス映​​画における労働者階級 (1959-2021)イギリスの労働者階級とそれ以外を比較

  3. ワシントン合意から商品合意へ:アルゼンチン文学におけるフェミニスト・エコゴシックと反抽出主義アルゼンチン文学におけるフェミニスト・エコゴシックと反抽出主義とそれ以外を比較

  4. サイモン・ベーコン編『信仰とゾンビ:世界の終わりとその先についての批評的エッセイ』(書評)20世紀後半以降のゾンビと信仰

  5. ゾンビや他のストーリーに到達しようとするときキリスト教

  6. アメリカン・サイコ・ユニバース:資本主義、血、そして続編アメリカ映画で描かれた資本主義批判

民族ナラティブは「人間」に紐づくものであるから、文化の性格が人間から離れたものは「-narrative」に引っ掛かりづらいはずだ。上記六件でいえば1と6が該当しそうだ。これらが「-narrative」で排除されないのは納得がいく。

逆に1と6以外は人間を相手にした文化を対象にしており、具体的には労働者、フェミニスト、キリスト教徒である。なるほど確かに、こういった人間にはnarrativeは使わなそうだ。労働者はわからないが、フェミニストにはhistoryやpatriarchy、キリスト教徒にはfaithが使われるのだろう。ただ、キリスト教保守を批判するときに限りnarrativeが使われる印象がある。

次に、検索条件3の評論と比較文化学の論文を検証する。前段の分析と同様に、分析の対象を()内に示した。前段の仮説が正しければ、narrativeという単語を使っていれば「人間」に紐づいた文化分析が語られているはず。と、考え始めると分析がそちらに引っ張られてしまうものだが…。

  1. ハインラインの短編小説『All you Zombies』の本質的な要素を映画『プリデスティネーション』(2014)に適応させたもの。タイムトラベルを扱ったSF小説

  2. 変わるホラー系MVの分析

  3. 「混沌を外に、秩序を内に」:コルソン・ホワイトヘッドのゾーン・ワンにおけるグリッドと建築空間ゾンビアポカリプスが到来したアメリカを描いた小説

  4. 死のニューヨークのウォーキング・デッド:ゾーン・ワンの家族と9/11の亡霊ゾンビアポカリプスが到来したアメリカを描いた小説

  5. 怪物を守るために:現代のスラッシャー映画におけるクィアの不安定さと可能性クィア的観点からのスラッシャー映画読解

  6. アメリカ(とアメリカン映画)を再び偉大に:トランプ時代の映画の多様性における郷愁のレトリックアメリカ映画の変遷分析

この六件は果たして「人間」に紐づいているのだろうか。『変わる』だけは違うような気もするが、他の五件はアメリカの小説か映画を分析したものであり、アメリカ社会のナラティブ、あるいはアメリカ人がそれらの作品をどう受け止めたかor受け止めるべきかといった民族ナラティブを分析したものなのだろうか。

タイトルとアブストラクトだけ読んでの結論だが、「人間」に紐づいていると言っても良いと思う。『変わる』以外の五件は、映画や小説を通してアメリカ人が紡いできたナラティブを分析しているのだ。わかりやすいのは、4『死のニューヨーク…』で9.11を扱っている点、5『怪物を守るために…』でクィアを扱っている点、6『アメリカ(とアメリカン映画)を再び偉大に…』で"Make America Great Again"を扱っている点だろう。これらがアメリカ人の民族ナラティブでなくて何なのか。あるいは、歴史的文脈と呼んでも良いかもしれない。

ということで、いったん「-narrative」で排除される論文は民族ナラティブを扱った論文に限られると結論しておきたい。一方で排除されない論文は、文化的事象か、民族によらない、あらゆる文化に普遍的な人間の集まりなどである。「文化的事象」というのは抽象的すぎるが、それ以上どう表現すればよいかわからない。


7月の新しい学術ゾンビ

7月も新しい学術ゾンビをいくつか得ることができた。私が過去の記事で触れた場合はリンクを貼っておいたので、意味を知りたければ飛んでいただきたい。

  1. "Statutory Zombie", 法定ゾンビ(7/1、法学)、一件

  2. "zombie", ゾンビ(ノード)(7/12、情報科学)、?

  3. "Zombie", ゾンビ(プログラム)(7/18、情報科学)、?

  4. "zombie democracy", ゾンビ民主主義(7/16、政治学)、91件

  5. "Malthus's Zombie", マルサスのゾンビ(7/19、社会学)、五件

  6. "zombie organizations", ゾンビ組織(7/28、国際政治学)、52件

  7. "zombie servers", ゾンビサーバ(7/26、情報科学)、107件

2024/08/14時点で、これらのゾンビワードがどの程度使われているか、つまり各論文の執筆者が適当に作った造語でないかを確認し、各項目の末尾にヒットした件数を記載した。

法定ゾンビのみ間違いなく造語。ほかにも『マルサスのゾンビ』も件数が少ないが、「"Malthus Zombie"」で五件、「"Malthusian Zombie"」で六件がヒットしたため、表記ゆれを合計すれば16件とまあまあ。決して多いとはいえないが、概念が面白いので学術的ゾンビ辞典に収録しておきたい。

また、ゾンビ(ノード)とゾンビ(プログラム)はそれぞれ情報科学の専門用語であるが、論文中では単に「zombie」としか書かれていないため、ほかと比べて検索結果を抽出することが難しい。ゆえに「?」としている。情報科学にはとにかくゾンビが多いので、得られた結果はすべてゾンビ辞典に収録している。

ということで、法定ゾンビを除いた六件を学術的ゾンビ辞典に収録しておく。



8月の検証

8月は次の3つの検索条件で調査を行う。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

この2条件で、本物のゾンビ(を扱っていると仮定しても矛盾しない)論文を探す。

以上。


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