2024/7月第三週のゾンビ論文 マルサスのゾンビ

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱う論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。ただし、「-narrative」で排除される論文の中にはねらいの論文が含まれている可能性もあるため、条件3も設定してある。

今回、7/15~7/21の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」三件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」十件(条件1との重複を含めれば13件)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」三件(関連性の低い結果も数えれば、40件)

検索条件1は情報科学、観光学、書評が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

型の調整

一件目。

アラート日付:7月18日
原題:Type Tailoring
掲載:?
著者:Ashton Wiersdorfを筆頭著者として、四名
ジャンル:情報科学

アブストラクトを読んでも何を言っているのかまるで理解できないが、プログラミングで使われる型が関連しているらしい。で、その調査?になぜだかGPTが出てきて、何かのベンチマークをするのだとか。

ベンチマークの中にzombieが現れる。これまでの記事でも何度もベンチマークに出てきたzombie。その正体は、GTPのベンチマーク用に、niversity of Marylandで准教授を務めるDavid Van Horn氏が作ったゲームのプログラム本体であった。ゲーム内容はゾンビを避けるというものである。

素人なりに想像すると、日々進化するGTPの変更あるいは改善点を知るためには同じプログラムを使って、実行速度やメンテのしやすさを測る必要がある。そのために作られた簡易なプログラムがzombieなのだろう。簡易と思ったのは素人ゆえだが、ゾンビを避けるだけのゲームが複雑なプログラムで作られているとは思えない。

以前からベンチマークに出てくるzombieが不思議でならなかった。具体的に何をしているのかはまだわからないものの、少しだけ謎が解けてすっきりした。

ジャンルは情報科学。


観光の種類: ダークツーリズム

二件目。

アラート日付:7月19日
原題:THE TYPES OF TOURISM: DARK TOURISM
掲載:Web of Semantics : Journal of Interdisciplinary Science
著者:Abdurasulov Shavkiddin
ジャンル:観光学

ダークツーリズムという、死や悲劇をテーマとして観光が存在するらしい。そう聞いて「推しが死んだ聖地を巡礼するやつでしょ?w」と思ったが、主な名所がアウシュビッツ、チェルノブイリ、グラウンドゼロなどらしく、軽く考えたことを反省した。いや、そういう場の観光も重要だと思いますけどね。悲劇をテーマにした博物館も珍しくないだろうし。

墓地やゾンビをテーマにしたダークツーリズムも存在するとのこと。

ジャンルはそのまま、観光学。


ジャスティン・トーマス・マクダニエル著『気まぐれな気晴らし:装飾、感情、ゾンビ、そしてタイにおける仏教の研究』(書評)

三件目。

アラート日付:7月21日
原題:Wayward Distractions: Ornament, Emotion, Zombies and the Study of Buddhism in Thailand by Justin Thomas McDaniel (review)
掲載:Sojourn: Journal of Social Issues in Southeast Asia
著者:Erik W. Davis
ジャンル:書評

タイトルの通り、Justin Thomas McDanielによる『Ornament, Emotion, Zombies and the Study of Buddhism in Thailand』の書評。マクダニエル氏は仏教とタイの研究者らしい。ゾンビが出てくる理由は、第九章に『Encountering Corpses: Notes on Zombies and the Living Dead in Buddhist Southeast Asia』(死体との遭遇: 仏教系東南アジアにおけるゾンビと生ける死者についてのメモ)という題の内容を扱うため。

ゾンビはブードゥー教に出てくる「生ける死者」である。しかし今ではゾンビは白人文化における超人気キャラクターであり、文化になじみ切ってしまったがために様々な場面で比喩としても活用される。それは私の記事で何度も取り上げてきた通りである。さらに、たとえばキョンシーを説明する際など、まったく異なる文化の「生ける死者」を指すときさえも彼らはゾンビという単語を使う。

ブードゥー教はハイチの宗教とよく言われるが、元はアフリカから連れてこられた奴隷が持ち込んだ宗教である。白人はアフリカ人から故郷を奪い、彼らの宗教からシンボルをひとつ簒奪した。そして、次はその奪ったシンボルを世界各国の文化に押し付けようとしているように、私には見える。

ただ、私だってそういったゾンビを楽しんで記事を作っている。

論文の内容と関係ない話をしてしまった。とりあえず、ジャンルは書評。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。

LGBTQ+の性行為の再犯罪化:がん治療と研究への影響

アラート日付:7月15日
原題:Recriminalizing LGBTQ + Sexual Practices: Impacts on Cancer Care and Research
掲載:Gender Issues
著者:Viktor Clarkを筆頭著者として、七名
ジャンル:ジェンダー学

「-gender」および「-network」で排除。性的少数者が医療へアクセスしづらく、その理由にゾンビ法を挙げる。もちろん、ゾンビ法という法律があるわけではなく、時代遅れで悪質な法律を総じてそう呼んでいるのだ。


英国選挙の解剖:ファシズムに向かってよろめき進むゾンビ民主主義

アラート日付:7月16日
原題:UK Election Autopsy: Zombie Democracy Shambling Towards Fascism
掲載:Interregnum
著者:Dr. Sam Lawton
ジャンル:政治学

「-gender」で排除。ゾンビ民主主義なる概念が提唱されている。記事を読んだ感じ、選挙制度がよろしくないため、民主主義が死んでいる。死んでいるのに動いている(ように見える)点が、ゾンビ民主主義なのだろう。小選挙区制度がよろしくないらしい。


ゾンビや他のストーリーに到達しようとするとき

アラート日付:7月16日
原題:When Trying to Reach Zombies and Other Stories
掲載:Electronic Theses and Dissertations
著者:Caleb James Stewart
ジャンル:評論

「-drug」および「-AI」で排除。『When Trying to Reach Zombies and Other Stories』という中編小説集の評論。


プラヤグラージ農業気候条件下におけるさまざまなアデニウムハイブリッド(アデニウムアラビカム)の種子発芽と苗の成長の評価

アラート日付:7月16日
原題:Assessment of Seed Germination and Growth of Seedling in Different Adenium Hybrids (Adenium arabicum) under Prayagraj Agro-climatic Conditions
掲載:International Journal of Plant & Soil Science
著者:Revathi Nambiar と Urfi Fatmi
ジャンル:植物学

「-AI」で排除。植物の生育環境に関する論文。植物にWhite Zombieという種があるらしい。


一般的な人工知能と意識の関係について

アラート日付:7月16日
原題:On the Relationship Between General Artificial Intelligence and Consciousness
掲載:Felsefe Arkivi - Archives of Philosophy
著者:Ferhat Onur
ジャンル:哲学

「-philosophical」および「-AI」で排除。哲学的ゾンビに関する論文。


中空のAu/Agナノシェルを使用したナノ粒子ベースの投与光熱療法は、in vitroでトリプルネガティブ乳がん細胞に対する免疫原性とNK細胞の細胞毒性を増幅します

アラート日付:7月16日
原題:Nanoparticle-based dosed photothermal therapy with hollow Au/Ag nanoshells amplifies immunogenicity and NK cell cytotoxicity against triple negative breast cancer cells in vitro
掲載:Felsefe Arkivi - Archives of Philosophy
著者:Ferhat Onur
ジャンル:医学

排除キーワード不明。死んだ細胞を光らせるゾンビ試薬を使っている。


J: ブーイング - 正義のためのリーダーシップ!

アラート日付:7月17日
原題:J: Jeer-Leadership for Justice!
掲載:Neuro-Futurism and Re-Imagining Leadership
著者:Kai Syng Tan
ジャンル:比較文化学?

「-derug」で排除。よくわからないが、帝国主義ゾンビを打ち倒したいらしい。


マルチエージェントRL (MARL)

アラート日付:7月17日
原題:Multi-Agent RL (MARL)
掲載:Deep Reinforcement Learning with Python
著者:Nimish Sanghi
ジャンル:情報科学

「-network」で排除。RLHFなるシステム?かアルゴリズム?に関する論文。プログラム実行環境にKnights Archers Zombiesというものがあるらしい。


ゾンビは殺されず: ラップランドのマルサス的近視

アラート日付:7月19日
原題:Zombies un-slayed: Malthusian Myopia in Lapland
掲載:History of European Ideas
著者:Lasse Andersen
ジャンル:社会学

「-philosophical」で排除。マルサスの『人口論』を発展した『The Malthusian Population Theory』を読み解く。"Malthus's Zombie"(マルサスのゾンビ)という概念があるらしい。


アメリカン・サイコ・ユニバース:資本主義、血、そして続編

アラート日付:7月20日
原題:American Psycho Universe: Capitalism, Blood, and Sequels
掲載:Analyzing Ideology and Narratology in Film Series, Sequels, and Trilogiesという本
著者:Víctor Hernández-Santaolalla と Jorge David Fernández Gómez
ジャンル:評論(マルクス主義批評?)

「-philosophical」および「-network」で排除。ホラー映画を資本主義批判の観点から読み解く。



検索条件3「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」

検索条件2の「-narrative」がねらいの論文まで排除していないか調べる。

「関連性の高い検索結果」に限れば、三件のゾンビ論文が見つかった。「関連性の低い結果」も含めると、以下の内訳で合計60件だった。

  • 7/15:七件

  • 7/16:九件(二件)

  • 7/17:十件(一件)

  • 7/18:六件

  • 7/19:十件

  • 7/20:八件

  • 7/21:十件

以下、「関連性の高い」ゾンビ論文を紹介する。

変わる

アラート日付:7月16日
原題:Changes
掲載:Horrors of a Voice (object a)
著者:Tristam Adams
ジャンル:評論

ホラー系MVを読み解く。挙げられているのは、マイケル・ジャクソンの『スリラー』と『ブラック・オア・ホワイト』。


ガンロア:銃器、民俗、コミュニティ

アラート日付:7月16日
原題:Gunlore: Firearms, Folkways, and Communities
掲載:このタイトルの本がある
著者:Robert Glenn Howard と Eric A. Eliason
ジャンル:歴史学

銃の歴史をひも解き、銃の伝承を紹介するため、Gun Lore。銃とゾンビ映画の関係性を語るのだろうか。


ゲームのリミックス: ビデオゲームモッダーの実践に関する調査

アラート日付:7月17日
原題:Remixing Games: A Survey of Video Game Modders' Practices
掲載:?(修士論文らしいが…)
著者:Daniel Johannes Rosnes
ジャンル:ゲームデザイン学

ゲームを改造する文化?に関する論文。



最後に

検索条件1は情報科学、観光学、書評が一件ずつだった。

興味を引いたのは、マルサスのゾンビくらいか。調べたところ、マルサスの学説が時代遅れにも関わらず何度も復活する様をゾンビに喩えているようだ。

No matter how many times a Julian Simon, Michael Kremer, or Steve Landsburg kills the Malthusian view that population growth reduces per-capita well-being, it comes back from the dead.
(ジュリアン・サイモン、マイケル・クレマー、スティーブ・ランズバーグが、人口増加が一人当たりの幸福を低下させるというマルサスの見解を 何度否定しても、その見解は復活する。)

The latest sighting of the Malthusian Zombie is in Greg Clark’s A Farewell to Alms. At least these days, however, the zombie only has to show himself for zombie-slayers to emerge. Reviewer David Warsh directs us to an interesting article asking “Is Anywhere Stuck in a Malthusian Trap?” Punchline: Even in modern Africa, the Malthusian story doesn’t work.
(マルサスのゾンビの最新の目撃例は、グレッグ・クラークの『施しへの別れ』である。しかし、少なくとも最近では、ゾンビが姿を現すだけでゾンビスレイヤーが出現する。 評論家のデイビッド・ウォーシュは、「マルサスの罠に陥っている場所はどこか?」という興味深い記事を紹介している 。オチ:現代のアフリカでさえ、マルサスの物語は通用しない。)

Economic Growth掲載
Bryan Caplan記
『The Malthusian Zombie』より

ところで、はじめ「マルサスのゾンビ」という文字列を見たとき、「マルクスのゾンビ」の書き間違いかと思った。字面があまりにも似すぎているからだ。しかし、「マルサスのゾンビ」はマルサスの理論を棄却するための概念である一方、「マルクスのゾンビ」はマルクスの理論を補強するための概念である。と言っても、マルクスは著作の中でゾンビという語を使っておらず、後世のフォロワー(マルキストと言う)が勝手に言っているだけである。幽霊と言う語なら使っているらしいので、連想できなくはないが。

しかし、マルクスの理論である社会主義あるいは共産主義は今日の社会で肯定的に受け入れられていない。むしろマルサスのように否定的に言及されることが多い。だからマルクスもマルサス同様にゾンビ扱いされて否定されてもよさそうだが。

今回はねらいの論文がなかった。


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