2024/7月第二週のゾンビ論文 アメリカで広がるゾンビ陰謀論

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。ただし、「-narrative」で排除される論文の中にはねらいの論文が含まれている可能性もあるため、条件3も設定してある。

今回、7/8~7/14の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」一件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」九件(条件1との重複を含めれば十件)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」一件(関連性の低い結果も数えれば、40件)

検索条件1は情報工学が一件だった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI」

ウイルスが広まる:10月4日の陰謀、「X」、そしてポスト真実

一件目。

アラート日付:7月10日
原題:The Virus Gone Viral: The October 4th Conspiracy, “X”, and Post-Truth
掲載:Crossings: An Undergraduate Arts Journal
著者:Devin Hobbs
ジャンル:情報工学

陰謀論がインターネット(特にTwitter?)でどのようにまことしやかに広まっているかを分析した論文。その陰謀論の例に、なんとゾンビが混じっている。

2023年の10月4日に、アメリカではすべての携帯電話に5Gで警報が送信されたそうだ。それが反ワクチンな人間によって陰謀論に書き換えられてしまった。具体的には、コロナのワクチンにより人間のmRNAが変質し、5G電波がmRNAを活性化することで人間をゾンビに変えてしまうということらしいのだ。

アメリカの陰謀論はすげえや…と思ったが、5G電波で脳みそがおかしくなる説は日本でも見る。ゾンビが連想されるかどうかだけで、あまり大差ないか。とはいえ、ゾンビになることを恐れるなら、謎の電波よりもキシラジンやといったゾンビドラッグによって起きている現実の被害を直視した方がよさそうだが…。

ジャンルは情報工学とした。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」

上記の条件でねらいのゾンビ論文を誤って排除していないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPC、哲学的ゾンビおよび評論系の論文は排除されるように設定してある。

適応型時間遅延が一人称視点シューティングゲームにおける体験の質に与える影響

アラート日付:7月8日
原題:Effects of Adaptive Time Delay on Quality of Experience in First Person Shooter Games
掲載:The Proceedings of FDG '24
著者:Samin Shahriar Tokeyを筆頭著者として、六名
ジャンル:ゲームデザイン学

「-gender」および「-network」で排除。中身は読めていないが、FPSゲームならゾンビを倒すゲームを例に挙げているのだろう。


「そしてあなたは、自分がとても賢くて、階級がなく、自由だと思っています」 : テレビとイギリス映​​画における労働者階級 (1959-2021)

アラート日付:7月8日
原題:“And you think you’re so clever and classless and free” : Television and the working class in British films (1959-2021)
掲載:Screening the box
著者:Anne-Lise Marin-Lamellet
ジャンル:比較文化学

「-drug」および「-gender」で排除。サブタイトルの通り、テレビとイギリス映画における労働者階級の描写を分析する。『ショーン・オブ・ザ・デッド』を挙げたり、労働者がゾンビのように描写されていると主張したりしている。といっても、知能が感じられない人間としてではなく、ゾンビのように軽んじられた存在として、である。


コルディセプスウイルスワクチンの設計: ペルオキシン遺伝子ノックダウンとペルオキシソーム標的化システム

アラート日付:7月9日
原題:Designing the Cordyceps Virus Vaccine: Peroxin Gene Knockdown and Peroxisome Targeting Systems
掲載:?
著者:Grace Ryu
ジャンル:菌類学

「-drug」で排除。ゾンビアリ菌であるコルディセプス属から抽出したウイルス機構?を分析してワクチンを分析するらしい。


サイモン・ベーコン編『信仰とゾンビ:世界の終わりとその先についての批評的エッセイ』(書評)

アラート日付:7月11日
原題:Faith and the Zombie: Critical Essays on the End of the World and Beyond ed. by Simon Bacon (review)
掲載:Science Fiction Studies
著者:Paul Scott
ジャンル:評論

「-gender」および「-philosophical」で排除。Simon Baconが編集を務めた『Faith and the Zombie: Critical Essays on the End of the World and Beyond』の書評。20世紀後半以降のゾンビと信仰について語る。これを読めば欧米の異常なゾンビ人気がわかるのだろうか。


ワシントン合意から商品合意へ:アルゼンチン文学におけるフェミニスト・エコゴシックと反抽出主義

アラート日付:7月11日
原題:From the Washington Consensus to the Commodities Consensus: Feminist Ecogothic and Anti-extractivism in Literature from Argentina
掲載:Routledge companion to literature and the environment
著者:Kerstin Oloff
ジャンル:比較文化学

「-gender」および「-philosophical」、「-network」で排除。何が書かれているかは、タイトルの通り。『Distancia de rescate』(死体の美しさ)というジェンダー小説を取り上げるらしい。


問題のあるケムセックス: 多分野にわたるアプローチ

アラート日付:7月12日
原題:PROBLEMATIC CHEMSEX: A MULTIDISCIPLINARY APPROACH
掲載:Sex Transm Infect
著者:G Fracca と M Manfredini
ジャンル:ジェンダー学

「-drug」および「-network」で排除。chemsex(ケムセックス)に関する問題を扱う。治療の過程で使用する薬物によってゾンビ化することを恐れるエピソードが紹介される。

ケムセックスというのは、薬物を摂取しながらの性行為のこと。平たく言えばキメセク。由来が異なる上に別言語なのに、こんなに語感が似ることあるんだ、びっくりした。


反復規模枝刈りで宝くじに 2 回当選

アラート日付:7月12日
原題:Winning the Lottery Twice with Iterative Magnitude Pruning
掲載:JOHANNES KEPLER UNIVERSITY LINZに提出された修士論文
著者:Maximilian Burger
ジャンル:情報科学

「-AI」および「-network」で排除。ネットワークだかシステムだかを構築する手法?を紹介する論文で、入力ノードにつながっていないのに出力ノードにつながっているノードをゾンビと定義している。なんか、そういうのでもネットワーク出力に影響を与えるらしい。電気回路で言うところの浮遊電位のようなものだろうか。


自由に選択したフレームワーク内でゲームの類型とゲーム サイクルのフェーズを捉える 学校クラブでの子供のゲーム

アラート日付:7月12日
原題:Zachycení typologie her a fází herního cyklu v rámci svobodně zvolené
dětské hry ve školní družině
掲載:Univerzita Palackého v Olomouciに提出された学士論文
著者: Petr Ježek
ジャンル:教育学

チェコ語のため排除キーワード不明。「-network」あたりだと思われる。遊びの分析をしており、ゾンビごっこ?も含まれる。


ゾンビ化した家父長制: アンデッドに対する自然とジェンダーの役割

アラート日付:7月13日
原題:Zombified Patriarchy: The Role of Nature and Gender with the Undead
掲載:MINNESOTA UNDERGRADUATE RESEARCH & ACADEMIC JOURNAL
著者:Megan Langsev
ジャンル:社会学

「-gender」で排除。ただし、"narrative"の単語も含んでおり、「-narrative」が機能していない。文化的背景がゾンビ映画の描写に与える影響を分析する内容だが、文化的背景として挙げられているのがジェンダー政治(≒家父長制)、生権力、バイオ本質主義哲学など。まあ、そうですね。



検索条件3「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」

検索条件2の「-narrative」がねらいの論文まで排除していないか調べる。

「関連性の高い検索結果」に限れば、一件のゾンビ論文が見つかった。「関連性の低い結果」も含めると、以下の内訳で合計40件だった。

  • 7/8:七件

  • 7/9:一件

  • 7/10:九件

  • 7/11:十件

  • 7/12:七件

  • 7/13:四件

  • 7/14:二件

以下、「関連性の高い」ゾンビ論文を紹介する。

スマート フィクション: テクノロジーと想像力の融合

アラート日付:7月12日
原題:Smart-fiction: a fusion of technology and imagination
掲載:?
著者:?
ジャンル:文学

ヒットはしたのだが、ジャーナルにアクセスできない。ゆえに内容もわからないが、タイトルからして文学読解の手法を紹介しているのだろう。



最後に

検索条件1は情報工学が一件だった。

ゾンビ陰謀論がアメリカでどうとらえられているか知る良い機会を得た。日本人からしたらゾンビ化というのは荒唐無稽な妄想としか考えられないが、様々な比喩としてゾンビが跋扈しているアメリカ社会では、映画に出てくるようなモンスターではなく、身近に迫る恐怖としてゾンビが認識されているのではないかと考え始めていたからだ。

また、その参考文献の中には過去に「本物のゾンビ論文」と定義して放っておいた論文の名もあった。たぶん。合わせて読んでおかねばならない。ここ数か月は「-narrative」の検証に多くの時間を割いていたが、今はかなり楽になった。どちらも時間を見つけて読むとしよう。

今回はねらいの論文がなかった。


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