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ゲームデザイナー Saashi の仕事部屋〜2020年3月後半

Saashi & Saashi(サアシ・アンド・サアシ)のSaashiです。今回は2020年3月後半の何日かの分を。
この期間は少しだけ人に会う日が重なったあとは安穏としたもので、特に変わったことのない日々だったのですが、そのぶんその時思っていることなど書いたりできました。この「仕事部屋」シリーズ探り探り進めております。

「ゲームデザイナーSaashi の仕事部屋」シリーズについて
京都でアナログゲームを作っているんですが、手書きで日記書くのがだいたい滞って記録が記録にならないので、noteで綴ってみようかと思い、書き始めてみてるシリーズがこちらです。半月に一度くらいで載せてます。
ただ、わりと忙しくしている気がしているわりに、特に変わり映えしないので地味すぎる日常ですが、自分の備忘録的に書いています。全日の日記でもないし、その時思ったこと書くだけの日とかもありそうですが、「こういう人もいるのだな」と気楽な感じでお目通しいただけると幸いです。

3月後半某日

そろそろ英語化したマップを先方に送らねばならないので、夜までに送ることにした。データも綺麗に整え直して合間を見て作業を淡々と進める。

音楽を聴きながら作業するというのは嫌いではない。が、だいたいは集中してると耳に入ってきていないという状態が多い。データ作成などでビジュアル的な作業をする時以外は「音楽を聴きながら作業する」というのは難しいというのが問題で、つまり文面を考えたりしている時は、ほぼ音楽は耳に届いていないということになる。考えごとをする際にも、咄嗟に一時停止を押してから考え始めている。つまり「音楽を聴きながら作業する」という時間が思うより少ない。むしろ食器を洗ったり、掃除したり、洗濯物を干す作業中に聴いていることのほうが多い。仕事しながら音楽聴いていられたら良いのだが。

夜の終わりに、マップのデータを説明添えて送る。ちょっと映画観てから就寝。

3月後半某日

海外出版社の話。
ボードゲームの契約の話については、詳細はだいたい書けないようなことが多いけども、感慨を書くに留めておけば書けることもあるのかな。

たとえば、X社とY社があったとして、それぞれアジアと欧米など得意エリアが違っている場合、問題になるのはだいたい英語の権利の収めどころになる。アジアのX社は香港やフィリピンやシンガポールの市場に強く、Y社は北米や欧州に強いとした場合、アジア担当/欧米担当とそれぞれを割り振れば良いように思うのだが、そうでもないようだというのが最近の実感。

製品になった際のコンポーネントがそれぞれ違っていたり、ルールに変更有る無しの差があったり、それぞれ出版時期も異なっていた場合は、明らかにややこしい。香港で売られるべきX社製のゲームが、先に出版されて卸業者経由で欧米の市場に流れてしまう、ということを完璧に制御できる手立てはほとんどない。個人レベルの輸入程度の数量ならお目こぼし案件にしてもらえるかもとしても、大きな数が流れ込む事態は避けなくてはならないのだが、契約書でいくらエリアを規定しても避けがたいだろう事態は容易に想像できる。

香港はまだ英語とともに中国語広東語でも販売できるので英語なしでもいける場合があるが、フィリピンやシンガポールなどは英語がダメなら難しい市場だという事情もあり、オーストラリアやニュージーランドはどうするのか問題も入ってくる。

出版タイミングとエリアの問題が絡むと、明らかにグレイゾーンができてしまうので遅れてリリースするほうの出版社はそれを避けたがる。さらに先に販売開始する製品のほうが安価な場合などはさらに問題がこじれたりもする。双方ともに幸せな形というのを毎度毎度見つけられるとは限らないし、どちらかに苦い落としどころを提案するタイミングもあるし、そういうのを決断するまでには、その社との将来的な繋がりやこれまでの来歴だって関わってきてしまう。一方で自分たちとしても問題の種はできる限り取り除いておきたい。
だいたい、こういうようなことを考えてメールを書いています。

3月後半某日

欧州のゲーム雑誌に「載せることになるかもしれない」ルールを作って提出しなくてはならない、のだが「かもしれない」なのであまり力は入らない。アイデア自体は、だいたいのところ頭の中では形作られているし、ちょっとした洒落みたいなアイデアなのだし、販促の心づけみたいなものになれれば御の字くらいのものなので、ササッと作って送れば良いのだが、なかなか手をつけられていない。

テストできる程度のデータを作成して、テストプレイを何度かしてから数値を整えれば、それほど時間はかからずにフィックスできるだろうことはわかっている。所要時間の合計は何時間だろうか。そう長くもない気がする、と言いつつ軽く半月は放ったらかしてしまっている。

優先順位が低いままなのだ。せっつかれたら始める、ではダメなのはわかっているが、他にもやることが(待ってもらっているような事柄が)いくつもあるので、いつまで経ってもこの件の優先順位が上がっていかない。「これじゃいかんだろう。いくらなんでも時間経ち過ぎだよ!」と自分にツッコミ入れるくらいにならないと動かない傾向がある。
これがおそらく今年の改善点その2。

3月後半某日

今日は午後からMさんとSaashi & Saashi スタジオで2人ゲーム会。コロンビア社の往年の名作ウォーゲーム。『VICTORY』を。抽象化されて、マップは可変で毎回違っているし、歴史的な背景とがぶった切った簡略化によって、楽しさだけをすぐ味わえるので、2人でもう幾度も対戦している。今回は海の多いマップだったが空母を最後まで活かしきれず、むしろこのマップは海兵隊と空挺部隊にこそ使い道あったなぁ、と一戦終えてから思うなど。

夜、届いて居たメールを読んでから、しばし考えたり、返信したり。

3月後半某日

起きてから朝食がてら軽食とコーヒーでゆっくりしてから、送らねばと思っていたメールを2、3通だけ送ると決める。確認のためメールを検索して探しあて、過去の数回の経緯を読み直してから、返事を書き始める。わりと時間がかかる。

疲れたので、ソファで読書。最近は音楽関係の本を読み直している。『トッド・ラングレンのスタジオ黄金狂時代』『XTC コンプリケイテッド・ゲーム アンディ・パトリッジの創作遊戯』など。音楽作りたい欲がむくむくと湧いてくるが、とりあえず仕事に戻る。

3月後半某日

今日はカフェ・ヴェルディでコーヒー豆を買ったり。

帰宅後は、覚悟して長いメールをふたつの海外出版社に向けて書くと決める。ちょっと遡って過去自分の資料を探して参照しつつ書くので時間がかかるが、都合1時間ずつくらいかけて終了。

同じゲームに関する契約の場合、もし出版のタイミングを合わせられるのだとしたら、問題が少なくなることがあるのかもしれないが、ひとつの出版社に集約させ、そこから派生のサブライセンスの形の関係性ではなくて、それぞれがこちらと直接契約しているような場合は、わりと橋渡し的なコミュニケーションに気を遣うことになる。一方が好意的に協力してくれてスムーズに進めることあるし、そうでない場合ももちろんあるわけで。

それはそうと、午後に思いついたメモを改めて見直すのを忘れていた。ちょっとまとめておかないと内容自体を忘れてしまう。基本的に走り書きの自分の文字はすぐ内容がおぼろげになるし、良いアイデアであろうとなかろうと忘れていってしまう。自分の記憶力を一切信用していないのだ。

3月後半某日

遅く寝たので、昼起きてすぐごはん食べて出発。ちうも月一回くらいで参加している同じメンバーでのゲーム会。メンバーが素敵なので盛り上がるし、楽しく過ごせるのは至高なのだが、このご時世なので今後はなかなか遊べなくなるかも、と思うと寂しい気がする。

ずいぶん前に買ったきりプレイできていなかった『ミニミニ世界大戦』という台湾発のゲームをようやく遊ぶ機会を作る。この人たちと遊びたい!と構想していた最強のメンツで遊ぶことが叶った。ゲームも期待以上のもので、大変におもしろかった。

帰宅後、新刊『戦車将軍グデーリアン』をペラペラめくりながらコーヒー。最近は封印していた戦争関係の書籍をよく手にするようになった。昔から歴史関係の本は好きなのだが、読むとハマるので読まないよう遠ざけているところがあったのだ。少しずつリハビリのように手にしつつ、うまくバランスとって読んでいけるように訓練中といったところ。

部屋がめちゃくちゃ綺麗というわけではなくとも、できるだけテーブルの上は綺麗な状態にキープしておくように気をつけている。思い立った時に、すぐ何かを始められるという環境の維持は意外と効果高い。書籍やゲームを開くのも、試みに大きなリーガルパッドで書きつつ思考するのも、サッと取りかかれるどうかが結構ハードルであったりするから。

3月後半某日

海外のメディアからのインタビューの件がある。
当初はスカイプで話してインタビューでも、というような話だったのだが、結局タイミングが合わず、メールで質問が送られてきてそれに答えるという形式になった。すでに質問が送られてきていて、合間を見て回答を書いているのだが、なかなか終わらない。書き過ぎなのかもしれない。もしくは、自分が思うほどにはうまく時間を割り振ることができていないのかもしれない。

海外の人からのインタビューはこれまで、英語圏のと、ポーランド(日本語訳はこちら)とペルーとがあったけれど(全部英語だった)、時々ユニークな質問などが挟まれていて、切り口が興味深いものがあっておもしろい。そういうのがあるから、受けてみようかなという気にもなるのだろうと思う。

そう言えば、日本語のインタビューって受けたことがない気がする。海外からオファーしてくれる人が奇特なだけなのかもだが。日本語では、以前Tumblrのインタビューを受けたのが最初だった。もしかすると文字媒体はあれだけかも。Podcastだと長谷川登鯉さんのボォFCでゲームデザイナーへのインタビュー企画「on MIX」に出演させてもらったのが印象深い。

自分が企画したロングイタビュー企画『創造的な習慣』をやっている間も思ったけことだけど、インタビュイーはやはり大変で、インタビュアーの聞きたかったことに加えてプラスアルファが加味された回答を答え続けなくてはならない、というより、そういう含蓄が知らぬ間にどうしても入ってしまうという、そういう人にわたしは話を聞きたくてあの企画を行なったのだ。

一転、自分が聞かれる立場になった時に、果たしてプラスアルファをどの程度加味できているのかは毎度考える。というようなことを思いながら、インタビュー回答をちょっとずつ書き加える。

3月後半某日

テーブルまわりの椅子に座って、リーガルパッドを開いて、ちょっと新しいゲームのことを考えてみた。

考える場合に、移って座るというのが大切なようで、「デスク前に座る」から「ソファに座り」そして「テーブル横の椅子に座り」直すという、ちょっとの移動やわずかな視点の変化が同じ部屋の中であっても、考える作業に意外に効果があるように思う。でもだいたい面倒に思っている時はその少しの距離の移動や座り直しさえ厭うので、それが自分の心理状態の判断材料にもなる。

座り直してテーブルでメモを開いたのだから、なかなか良い状態だと思いきや、それでも毎回必ず有用な着想が得られるわけではもちろんない。良いのが出ないなら出ないで別のことを考えたりして、昔のメモをめくっていると、ふと気づいたことがあれば一旦は書き留めるようにする。おそらくすぐには役立たないメモには違いないが、それをいつか見直して別のことを思いつくきっかけにならないとも限らない。「なにかを考える意識」を面倒がらずに常から自分に仕向けることが一番大事なのだ。今日はそれができたのだから、たぶん悪くない日なんだろう。

ちょっと資料作り。連絡関係は、今日はお休みにしてしまう。

3月後半某日

カフェ・ヴェルディでコーヒー飲みつつ、いくつかのアイデアをまとめる。テストキット作り出せそうなのが、2、3あるので、早めに作って、一度試すまではしておきたい。

夕方、Engamesの杉木さん来訪。京都のスコティッシュパブで待ち合わせる。貴子さんも合流して、ビール飲みつつごはん。

ここのビールは京都一おいしいとも聞くが、たしかに毎度ぐいぐいと飲めてしまう。とそんな中で4月開催予定の大型イベント・ゲームマーケット春の中止の報を知る。3月の大阪ゲムマに続いての中止。年3回ある大型イベントのうち2回がなくなるのはもちろん初めてのことだろうし、当事者的にはつらい、寂しい、といろいろ感情が動くものがある。

ゲームが完成して、製造して、さあリリースだ、という直前でイベントがなくなるのは、他で通販対応したり、ショップに置いてもらうにしても、やはりイベント販売がなくなることで、初速が失われるのは厳しいものがある。

その他にも、イベントそのものが中止になったということは、「そのイベントでこのたびデビュー」しようと予定して頑張ってきた人のデビューが幻のようになってしまうということでもあるのだ。今年3月の大阪ゲムマがSaashi & Saashiの5周年の記念の回だったのが、中止でサラッと流れていってしまったように、ゲムマ春が記念となる人もたくさんいたのかもしれず、そうでなくても新作の発表をそこに合わせてスケジュールをしてきたこと一切が無に帰すことになるわけで、中止になって喜ぶ人はおそらくいないだろうことを思うと中止自体は寂しさしかない……。(と言って開催強行が必要だったということではないが)

夕食後、Saashi & Saashiスタジオへ。杉木さんはもう何度も訪れてくださっていて、夕食後にコーヒー飲みつつゲームやお話の続きというのが恒例になっているので毎回楽しい。途中、朝戸さんも合流して『ティーフェンタール』や『ツカナ諸島の小道』などなど。

話題はやはりゲムマ中止に関してのものになる。さて、どうにか前向きなことができると良いのだが。いずれにしても、業界的にはイベントの中止は痛手だったにせよ、創る人や造る人の大勢がモチベーション下がるような流れになってはいけなとは思う。今すぐにクリエイターにできることと言えば、楽しんで作ることくらいなのだ。

3月後半某日

スペインの友人から、ポッドキャスト「Qué Rico el Mambo Podcast」の最新のエピソードで『旅のあと(Remember Our Trip)』とSaashi &Saashiの過去作について解説したよ!との連絡受けたが、聴いてみると全編スペイン語!

これまではブログの記事で英語だったので、どうにか内容が読み取ることができていたが、さすがにスペイン語の音声は太刀打ちできない。が、日本在住で日本語ペラペラのコロンビアの友人に聴いてもらって、内容教えてもらうことに。

ポッドキャストを収録してくれたスペインの人は、これまで長年連絡をとっていたのだがそれまで会ったことはなく、昨秋のエッセン会場でようやく初めて会ってお話できた方だった。気さくでおもしろい人でマドリッド在住。レアルのファンらしく久保建英の現地での印象など教えてくれたりしたのを覚えている。彼の家族や友人は無事だというが、いまスペイン国内が大変な中で、収録し連絡してくれたことに感謝。

夜、貴子さんとSaashi & Saashiの今年のアバウトな計画を考える。予算的なことも少し話す。昨年後半に2人が疲れ過ぎたために、今年の前半んは少しのんびりというか、走り続ける中でいろいろ出てきた体制的な歪みのようなものを一度整理して立て直す期間に当てようとは、当初から考えていたことだった。まだ整理しきれてはいないが、春のうちには立て直しておかないと、来年以降に差し障りが出てくるだろう。

あとは新作や再版についてのスケジュールをアバウトに組んでみたり。今年ももう4分の1が過ぎたのだとは思えない速さ。と言ってるうちに冬になってそう。やることはやれるよう計画には入れておきたい。

3月後半某日

午後からメール何件か。夕方に急いでテストキット作る。カードだけなのでとりあえずは仕上がったので、テストプレイを何度か行なってみる。「あり」か「なし」かで言うと「あり」な手応え。いくつか意見ももらえて、得られた情報は少なくなかった。うまくまとめることができればおもしろそう。

このタイプはおそらく、完成する時はすぐに完成するし、できないのなら、ずっとダメなタイプだという気がする。できれば早くまとめておきたい。

3月後半某日

いつもわたしたちの新作をレビューしてくれるポーランドのレビューサイト「for2players」のトーマスさんが『旅のあと(Remember Our Trip)』のレビュー(ポーランド語)を書いてくれた。ポーランドは現在ロックダウンの状況下にあるが、彼の家族も元気で、家の中で過ごしている日々だという。

欧州や北米はいま大変な時期にあるので、アメリカ、カナダ、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリスなどの関係者に動向を聞いたり、現状を訊ねたりしている。多くは無事なので、安心したり、力強く活動されていて逆に勇気づけられたりする。

スペインのデザイナーは国全体で非常に困難な状況下にあって、特に医療関係が危機に瀕しているような状態なのだが、彼はロックダウンで自宅待機の中で、日々家族と一緒にボードゲームを楽しんでいると言う。そしてこの機会を活かして新しいゲームをデザインすることにトライしているのだと。彼のように創造性を失わない心は今クリエイターに必要なものだと強く思う。

Saashi
2020年3月下旬

Saashi & Saashi
Twitter / WEB



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