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糸の物語~幸恵編

鈴木・松丸「はい、こんばんわ!」

鈴木「と、いう訳でね、うののさあら、ジャイアンリサイタル…」

松丸「皆様大丈夫ですか?ここで何が起こるかわかってますか?」

鈴木「何が起こるかわからないままなんとなく呼ばれて来ちゃった感じですか?」

鈴木・松丸「あ~残念だ。」

鈴木「もうね~。帰れません。今入り口に鍵かかっちゃったんで」

松丸「諦めてください。」

鈴木「今日は、主催のさあらさんの身の上話を朗読劇仕立てで延々と聞かされるっていう…会です」

松丸「途中歌もあるそうですよ」

鈴木「や、本当にジャイアン」

松丸「ぼーえー」

鈴木「ま、これも乗りかかった船という事で」

松丸「諦めてください。」

鈴木「なお、本日のクレームにつきましては一切受け付けておりません!!」

鈴木・松丸「諦めてください!!」

松丸「それでは!」

鈴木「うののさあらジャイアンリサイタル」

松丸「糸の物語~幸恵編」

鈴木「まずは幼少期編から」

鈴木・松丸「スタートです!!」

松丸退場、鈴木正面向きでそのまま板付き

間奏曲 OUT

さあら入場

さあら「えっと…ここ…かな?本だ…糸くずも寄り集まれば縄となり縄をなって網として、小さな幸いをとらまえた、そんなどこにでもある、お話でございます…」

鈴木「あ、こんにちはぁ~」

さあら「あ!こんにちは!…生まれ変わり科、現世係…てココですか?」

鈴木「あ、はい、人間窓口はこちらです、はぁい」

さあら「あ!ありがとうございます!いやぁ!ひっさしぶりに生まれ変わるんで」

鈴木「書類は」

さあら「あ!はい!こちらで!」

鈴木「はいはい、じゃあですねぇ、早速母親を選んでもらいますねぇ」

さあら「あ!すごい!選べるんですね!」

鈴木「最近はシステムも変わりましてね」

さあら「へぇ!父親も選べるんですか!?」

すずき「選べないっすね」

さあら「あ、そうなんだ…」

すずき「あなたのケースでは、今回父親の選択権はないです」

さあら「あ、そうなんだ…なるほどですねぇ、ま、いっか!」

すずき「はい、では早速こちらの三人からどうぞ」

さあら「わぁ!凄い綺麗な人たち~!」

すずき「一人目は麻薬中毒で前科三犯で無職…」

さあら「え…?えっえっ!?」

すずき「あ、無職じゃないですね、売春婦です」

さあら「えぇ…あ、いや、職に貴賤はないですし、ね!更生されるって事も…ね…!!」

すずき「二人目がぁ」

さあら「二人目にかけたいです!!」

すずき「看護師ですね!」

さあら「素敵、白衣の天使!」

すずき「趣味が万引き、毎夜酒浸り、ダメ男にひっかかって借金まみれ」

さあら「あー…なるほどですねぇ…」

すずき「ダメですか…」

さあら「いや、だめって事は無いんですけど…なんて申しますか…えぇ」

すずき「じゃあとっておきの三人目…」

さあらハッと力を込めて見つめる

すずき「看護師…」

さあら「そこまでは良いんですよ!」

すずき「夜はホステスさん」

さあら「生活力ありますね!」

すずき「父親が警察官」

さあら「わ!身元もしっかり、安心安全♪」

すずき「近代まれに見る嘘つきで、口が悪くて、金遣いが荒く詐欺恐喝まがいの事案が多々…」

さあら「待ってください!待ってください!」

すずき「なんでしょう?」

さあら「なんか、あれ?人間界って今みんなそんな感じですぅ?」

すずき「特別物件を揃えさせていただきました」

さあら「え?これまだいい方って事ですか?」

すずき「いえ、大分厳しい方ですね」

さあら「なぜ…そんな事に」

すずき「あ、そうかぁー言い忘れてましたね、えっとあなたの父方のお爺様がですね、色々…無念を持って亡くなりまして」

さあら「はぁ」

すずき「早くに亡くなった事で妻子にも色々不便がございまして」

さあら「えぇ」

すずき「それで、こんなわけです」

さあら「いや、わかんないです…!!」

すずき「あなたが色々と帳尻合わせするって事になりますね」

さあら「えぇ…」

すずき「決められない場合はこちらで適当に決める事になります」

さあら「それは困ります!!」

すずき「そのお爺様の残された諸々と差し引きしますと、このお三人はとても良いチョイスですよ」

さあら「えぇ…なんか…もう…生まれ変わるの…やめよっかな…」

すずき「いえ、諦めるのはまだ早いですよ。この状況を諦めて受け入れてみれば良い事もあるかもしれません」

さあら「諦めればいいのか、諦めない方がいいのかどっちなんだろうもう…」

すずき「あなたは…どっちが良いですか?」

さあら「…うぅん」

すずき「よぉくこの三人を観てごらんなさい、良いところもありますよ」

さあら顔を上げる

さあら「あ…三人目の人だ」

まど(母)「早く食べなさいよ!あんたの顔についてるのはなんなの?只の穴なの?穴ならとっとと埋めなさいよ!」

さあら「わぁ…ほんとだすごく口が悪い…けど…ご飯…作ってあげてるのかな…」

まど(母)「訛ってる事バカにされたって?今更…。あんた自分で気づかなかったの!?もはや日本語かもわかんないレベルよ!でも、私もみんなも、それでもあんたの友達だったって事よ。言わせておきなさい。どうせそいつもあんたと同じバカで田舎者よ。いいから早く食べなさいよ!」

さあら「あれ…は…励ましてるのか…な」

すずき「彼女はこれまでに三度、人の命を救っています。これからも、きっと沢山の人を救うでしょう。」

さあら「え…」

すずき「そのうちの一人が、あなたの父親になる人です」

さあら「え…そう…なのですか」

☆ピアノ

すずき「決まりましたか?」

さあら「…はい!」

すずき「では、さっそく行きましょう」

さあら「え!父親はどんな人とかそういうのは…!?」

すずき「ま、行ったらわかります。悪い奴じゃないんで、いってらっしゃ~い!」

☆BGM照明変化 

さあら「あぁあああ!あぁああ!あぁああん!あぁん?」

まど(母)「はいはい、お腹空いてんでしょ~。でも!あんたの父さんが金持ってこないから粉ミルクが買えないのよ!!」

さあら「あぁあ?」

まど(母)「今日も麻雀三昧、どうなってんのよあんたの父さん!泣いてばっかりであんたもなんか話せないの!?私、気が狂いそうよ!」

さあら「あ、そっか…生まれ変わると喋れないのか…動けないし…あぁん、不便」

まど(母)「そっか!…(間)、別に…、(間)いいんじゃないかな?」

さあらを観るまど、まど(母)を観るさあら

さあら「何がいいんだろう、なぜだろう、いやな予感しかしない…」

まど(母)「あんた、牛乳でも…いけるわよね…」

さあら「無理!こちとら乳児!ふぁ~っく!!んぁあ!」

☆不穏なBGM(ゲーム音楽)
 
すずき「あれ、帰って来ちゃいました!?」

さあら「あれ?って。ええええどうなってんのこれぇ!」

すずき「あ~お腹壊して死にかけちゃったのね」

さあら「どうにかしてくださいよこれ!」

すずき「あ~悪いけど僕何にも出来ないんでね~」

☆教会BGM

さあら「わ、帰って来た」

まど(母)「あぁ!もうびっくりするじゃない!勝手に死にかけないでよ!」

さあら「そんな理不尽…あるかなぁ…もう!」

まど(母)「それにしてもあんたの父さんどこ行ってんのよ!こんな大事な時に全然帰って来ないじゃないの!くそったれが頭腐ってんじゃないの。あんたもきっと同じに育つわよ…ヒッヒッヒ 忌々しい…ったく」

さあら「理不尽…!!そうだ、でも、私本当に父さんの顔みてないよ!?」

まつまる(父)「ただいまぁ!!やいや!時間かかっちゃってかかっちゃって!」

まど(母)「あんた!どこ行ってたのよ!あんたの子供が生まれたってのに!はんかくさい!」

まつまる(父)「決まってるべさ~!名前届けてきたべ!」

まど(母)・私「は…?」

まど(母)「あんた、私になんの相談もなしに勝手に!」

まつまる(父)「いいか!おめの名前は、幸せに、恵まれる、と書いて、さ、ち、え、おめの名前は、さ、ち、え、どうだ!良い名前だべ!」

まど(母)「…し、しおりっていう可愛い名前を用意し…」

さあら「あ…ありがとう…」

まつまる(父)「お!気に入ったんでないか?今笑ったような気がしたど!?ほれ、さちえ、さーちえ」

さあら「あんまり可愛くもお洒落でもない名前だけど、でも、ありがとう…ありがとう…」

まど(母)「あ!あんたそんな事よりこの子のミルクがないの!!どうすんのよもぉ~!お金ないんでしょ!?どうすんの!?ねぇ!どうすんのよ!?」

まつまる(父)「この子、じゃない!さ、ち、え!まぁ…金はな…それが…。ある!!なんと!さちえ誕生記念麻雀大会で優勝した!!やほおぉ!」

まど(母)「やったじゃない!!これでうちもしばらくは安泰かね!さっさとよこしなさいよ!」

まつまる(父)「ほれ!」

まど(母)「え…これだけ…!?」

まつまる(父)「おぅ!さちえの誕生祝いにみんなにご馳走して、それから、あっきのところに生まれた子の誕生祝いに服買ってやってよ~!あれやらこれやらで、これだべ」

まど(母)「これだべ、じゃないわよ!!あんた!自分がお祝い貰う方なのに振舞ってどうしようってのよ!こんの!」

さあら「ぎ…ぎゃあ!ぎゃあ!」

まつまる(父)「お~、さちえどうした~!あ…おめ、(まどに向けて)お腹空いてんでないのか!?」

まど(母)「そうだったわ!ミルク買ってこないと!…あんた!帰ってきたらこってり絞ってやるからね!みてなさいよ!」

まつまる(父)「う~…こわいこわい。さちえ、ありがとうなぁ」

☆ピアノ(即興穏やか)

さあら「はい…そんな訳で、生まれて来て早々大騒ぎで災難続き。ある程度覚悟はしていたものの…。あ、やっと私に名前がつきました!改めましてさちえです!(演者全員で拍手)こちらが母のふうこ(まど手を振る)、こちらが父の一男(まつまる手を振る)。包丁一本さらしに巻いた稀代の甲斐性なしの父(松丸ガッツポーズ)と、艱難辛苦を乗り越えるためなのかもとよりの気性なのかともかく口から出るのは罵詈雑言と嘘八百、口が出ない時は手と足が出る(まど胸ぐらを掴むアクション)で、お馴染みの母ふうこでお送りしていきます!…と言いたいところですが、ここからの出来事が多すぎて丁寧にやっていると、とても第一部の幼少期編が30分でお送り出来ないので…いったんダイジェストでお送りしますね」

☆ピアノ(クイズ番組のデデっみたいな音半音ずつ上がっていく)
その壱
突然疾風のごとく現れた、母の元夫との息子 つまりは私の父違いの兄 ひろしの参入!お兄ちゃんって妹より後に家族に参入するんだったかな!
特技は家出!学校仕事はドタキャンして部屋に籠城がデフォルト!そして家中の物を断りもなく勝手に売りさばき逃亡費に充てる能力に長けています!生活力!

☆ピアノ
その弐
家族を支えていた父の包丁の腕だけを残し、家財一式火事でまる焼け!
なので幼少期の写真などは数枚を残しほとんどありません…

☆ピアノ
その参
続いて、手遊びにやっていたスナックが父の気前の良さが災いしつぶれて借金まみれ!他人の借金も飛んで来たぁ!結果夜逃げ!!いぇい!

☆ピアノ
その四
その父の甲斐性の無さに嫌気がさしてとうとう母が私たち子供を連れ逃走!離婚!まぁ…そうなる…むしろここまでよく我慢した、あの、母が

けど、問題は次

その五
母、新しい恋へジャンピング!(音in)道ならぬ恋と借金と繰り返される自殺未遂!メンヘラ道と言うものがあるのなら、まっすぐにこの道をいけばわかるさ、と突き進む母。まぁ…それも…恋のなせる業と言えばそうかもしれないなと…今になればおもうけど…

そんなこんなで新しい「パパ」の登場
小さな私を膝に乗せ、よく歌ってくれたぁ
良く響く低い良い声だった

【夜霧よ今夜もありがとう】

パパ…だけど母さんと結婚はしなかった…可愛がっても貰ったけどでも
ま!色々ありました

☆ピアノ

さあら「その六」

すずき「わー、すげえや、まだあるの」

さあら「あなたがここに送り込んだんでしょう!?」
【音in】
さあら「その六。パパの娘、妹ようこの誕生…これがまた大変なおてんば…寝てる間に私の髪をハサミで切る。口の中のジュースを私の顔にぶちまける等々。さらに度重なる愛の逃避行、後々まで大変

まぁともかく、これで、三人それぞれ違う父を持つ兄妹が完成いたします

☆モンスターが仲間になる音

ついてこれてます?皆さん

私まだ、小学校にも上がっていません

私は全然この事態においつけませんでした

この急展開に次ぐ急展開の間

親戚、母のホステス仲間、パチンコ仲間、児童施設
今日会ったばかりの知らない人(知らない人)
預けに預けられ、母の顔さえ忘れてしまいそうな日々でした
情緒という物が育つのが遅かったのか

預けられた親戚の方でも
「この子、泣きも笑いもしない…気味の悪い子ねぇ」などと言われる始末…

母と一緒に暮らせている間も、夜通し子供達だけでの留守番
逃亡癖の兄9歳、虚弱児で泣き虫の私5歳、お転婆で会話のままならない妹1歳

そんな三人パーティーで送る夜はそれはそれは心細い物でありました…

まど(母)「いい、さちえ!家に誰も入れちゃ駄目よ!」
さあら「うん!」
まど(母)「返事してもダメ!」
さあら「うん!」

まど(母)「お兄ちゃんを家から出したらダメ!」
さあら「うん!」
まど(母)「この時計の短い針が8になったらお布団に入って、ようこを寝かして、また短い針が8になったらひろしを学校に行かせるのよ!わかったね!」

さあら「うん…!?」

まど(母)「じゃあ行ってくるから!」
さあら「うん…?うん…。ねぇ…お兄ちゃん…8ってどれ?」
さあら「やめて!お兄ちゃん駄目!出ちゃダメ!お母さん出ちゃ駄目って言ったでしょ!!こんなに暗くなってから出たらだめだよ!…あぁ!行っちゃったよぉ…でも、追いかけてったらようこ一人になっちゃうし…どうしよう…」

打楽器 ドンドンドン!ドンドンドン!

さあら「あ!お兄ちゃん帰って来た!は~い!」

借金取り「おーい!お母さんいるかなぁ!ねぇ!いるんでしょ~!お母さん出してくれないかなぁ!」

さあら「あ、返事しちゃった!」

借金取り「お金返してもらえないとおじさん困るんだよなぁ。ちょっとここ入れてくれないかなぁ!」

打楽器 ドンドンドン!ドンドンドン!

さあら「どうしようどうしようどうしよう!おにいちゃんもいないし!私一人じゃどうにもならないよぉ!!」

松丸「ガチャガチャガチャ!ギー!」

さあら「ぎゃぁ~!ごめんなさいごめんなさい!」

隣のおじさん「さっちゃん、さっちゃん!大丈夫!?」
さあら「ごめんなさい!ごめんなさい!」
隣のおじさん「ほら!さっちゃん!しっかりして!」

さあら「あ!隣のおじさん!?」

隣のおじさん「さっきのひと帰ったみたいだから!」

さあら「え…そうなの…よかった…ごめんなさい」

隣のおじさん「ようこちゃんもいるんだし、さっちゃんがしっかりしないとね」

さあら「そうなの…私が…しっかりしないと…」

まど(母)「ただいま~!ひろしは…?」

さあら「えっ…と」

まど(母)「ひろしはどこいったのよ!!」

さあら「…」

まど(母)「あれだけ外に出すなっていったでしょ!」
バチン!(殴る仕草)

さあら「…」

まど(母)「あんたがそんなんじゃ、子供達だけで置いておけないわね、お兄ちゃんは別のところに預ける!」

さあら「え…?」

まど(母)「あんたも、一男ちゃんとこでも行ってなさい!」

さあら「私の…せい…」

☆音楽(寂しい)

さあら「一男ちゃん、というのは先に出ました私の実の父…ですが(松丸君にふる)途中色んな事がありすぎて私の頭が見事バグりまして。この時には母の愛人「パパ」の事を自分の父親だと、思い込んでたんですね。怖い話ですが、本当の話でございます。なので、私はまた親戚のおじさんの家に預けられた…くらいの気持ちだったのでございます

とは、言え

父「ほれ、さちえ、寿司食え、とびっこがいいか?」

このおじさん、とっても優しい!それにお寿司屋さんには私をかわいがってくれるおばさんやおじさん達がいる

怒鳴られないし、叩かれない、ご飯は朝昼晩と出るし、何を食べても食べなくても怒られない、おやつも出る、おしゃべりも聞いてくれる、お絵かきの紙もくれる、ようこの世話もしなくていい、それに…寒くない

私ここが気に入った!
でも…母さんやようこの事を思い出すと少し心配で胸が痛んだ

「さっちゃん、ここの子にならない?」

これはあちこちと預けられるたびに何度も聞かされたフレーズ
周りから見たら私達はよほどかわいそうに見えたのでしょう
兄も妹も少しやんちゃで扱いにくく
私だけなら…と申し出てくれる人は割とあったのです
が、その度に私の気持ちは震えました

この家族を捨ててしまいたい、と、思う自分のあさましさ
いや、そんな事は当時は言葉にはならなかったけど

ただ

ここにいたい
安心していたい
甘やかされていたい
私だけ可愛がられたい
もういっそ一人になりたい
そんな色んな気持ちが形をとれずに渦巻いて
いつも、もじもじと、じっと固まっていました

そのくせ母が迎えに来ると

まど(母)「ほら、さちえ、帰るよ!早くして!あんただったらほんとにとろくさい!」
さあら「ねぇ…母さん、もう一つだけここにお泊りしていい?」
まど(母)「…いいから!ぐずぐず言ってないで早くしなさい!ヤキ入れられたいの!?」

いつもちょっと泣きべそをかきながら諦めたように母に手を引かれて帰るのが常でした

母が帰って来たという安堵
あぁ、ここにもういられないという悲しみ
必要とされているという確認

そんなものが一緒くたになったやりとり

その日も、そんないつもとおんなじやりとりだと思ってた

さあら「ねぇ、一男ちゃんのとこもう一個だけお泊りしていい?」
まど(母)「…わかった。あんた、それでいいのね?」
さあら「え?」
まど(母)「もう母さんとも、陽子とも、にいちゃんとも会えないからね」
さあら「え?違うよ!もう一個だけ泊るの!ね?もう一個だけ!」
まど(母)「あんたが選んだんだからね!後で服とか全部持ってくるから!」
さあら「違う!違うよ!母さん!違うよ!待って!!」

☆悲しいBGM

母は振り返りません
妹の手を握り
ただ、ずんずんと、道路に待たせていたタクシーに乗り込みます
捨てられたんだ…
私が要らなくなったんだ…と思いました

でも、正直、身体が軽くなったようなふわっふわの感じにもなって
その事がまたなんだかとっても悲しくて
その日はずっとずっと泣いていて
なぜだか、自分が本当の父だと名乗ろうともしない一男ちゃんが
ずっと私を膝にのせて抱っこしてくれていました
裕次郎の歌は聞こえない
ただ、じっと、時々聞こえる一男ちゃんの小さなため息が私の子守歌になりました

まど(母)電話を取る仕草「うん、今さちえ、置いて来た。だって!しょうがないじゃない!先月のあの子の誕生日…なに食べさせたと思う!?トウキビが三分の一…それがあの子の誕生日祝いよ!?…もう限界なのよ!…え?いやよ!陽子はあの人の子だもの!この子を手放したらあの人の気持ちも離れちゃうのよ!さちえなら大丈夫。あの子、良い子だから。どこに行っても大丈夫。一人だって、大丈夫。あの子は…私なんか要らないのよ…」

そうして本当の父のもとに帰った私は、望み通り一人に…

私を育てる為に父は寿司屋の他に石炭トラックに乗るようになりました

父(松丸)「一度やってみたかったんだよなぁ!トラック野郎」

と嬉しそうに笑ってたけど冬なんかは寒い寒いまっくらな朝の3時には父が家を出る

起きると父さんはもういない 

私は一人

父が帰ってくるのは夕方の6時 お米を焚いておくのは私の仕事になりました

今みたいにタイマーなんて洒落たものは無い、私はお友達と遊ぶより家にいる事になり…やっぱり一人

土日には寿司屋の手伝いでまた父さんは家を出る

父(松丸)「お!したら行ってくるからな!良い子にしといてくれよ!」

さあら「うん、知ってる、短い針が8になったらお布団に入る!…まぁもちろん…守らないけど」

あれだけ色んな事があった毎日を思えば、一人でいるなんて気楽なもん
けど…やっぱり…どこか…

歌:オンマイオウン

休憩10分

【第二部 青春期】

鈴木「さ、というわけでね、さちえちゃん、ひとりになりましたね」
松丸「ねぇ、どうなるんでしょう、女の子一人、危ないですねぇ」
鈴木「まぁ、これまでも一人だったんですけどね」
松丸「心配なんで続き見ましょう~!」
鈴木「はいどうぞ~」

☆宿屋の音(ドラクエ1or 3)

さあら「おはよう…だれもいないけど…。よし、TV!もう一人だから何見ても良いんだ!最高!好き好き好き好き好きっ好き!一休さん!小公女セーラだ!

☆歌:小公女セーラ花のささやき

セーラ、かわいそう…。でも。「ベッキー、お腹が空くってそんなにつらいの?」ってあれはないわぁ、あれじゃ小公女とはちょっとねぇ…なんかねぇ…あれ…?

☆(キーンコーンカーンコーン)

短い針が8…9…?…まずい…。学校始まった。まぁ…いいかぁ…!次だ!イケイケぇは~っち!」

松丸(父)「よいっしょっと。出番間違っちゃったな、今日休みだったわ。あははは。あれ!?さちえ!おめ、なんでこんなとこいるんだ!学校は!」

さあら「あ…なんか…お腹痛くて…」

松丸(父)「え、あ、そうなのか!?じゃあすぐ病院いかなきゃいけないじゃないか!」

さあら「うぅん、大丈夫!寝てたら治るから…」

松丸(父)「や、ダメだ!すぐ!病院だ!」

すずき、さあらの顔をじーっと見てわざとらしく咳払い

松丸(父)「先生、これは、なにか、大変な病気で…」

鈴木「これは大変だぁ~」

松丸(父)「えぇえ!どうしよう!!」

鈴木「苦~い薬を出しておきますねぇ」

さあら「先生は本当におそろしくまずい漢方の胃腸薬を出した。絶対にずる休みってばれてた」

松丸(父)「先生!お願いします!この子を助けてくださいっ!」

すずき「あ~悪いけど僕何にも出来ないんでね~、治すのは、お嬢さんですよ、しっかりお腹あっためてくださーい」

さあら「それでも私は、時々、結構、まぁまぁ、ほぼ、父がいないのをいい事にTVの前で何をするでもなく、朝のアニメ→N〇K教育→いいとも→ごきげんよう→昼メロという流れを辿って…学校をさぼった

☆(サイコロトークの音)

お兄ちゃんを引き留めなくても良い、夜逃げもない、陽子のしつけもしなくていい、お母さんはガス管を咥えないし、包丁を持って身ぐるみ剥いだお兄ちゃんを追い詰める母さんをみなくても良い!

安心安全な家の中が、学校よりも楽しくて楽しくてあまりに魅力的だった
何もしなければ、何も起こらない

と、この時は思ってた

☆宿屋の音

さあら「え~、今日は一休さんやらないのかぁ…しょうがないから学校でも行くか~!」

まど(母)「さちえ!」

さあら「え!?えっえっ!なんで母さんが教室にいるの!!」

まど(母)「行くわよ!」

さあら「行くってどこに!?」

まど(母)「いいから!家帰るのよ!早くしなさいよ!」

さあら「だって!とうさん…」

まど(母)「あぁもう!あんただったら、とろくさい!」(手を上げる)

☆楽器隊の皆様もクラスのみんなのていでザワザワした感じを出してもらえれば幸い

すずき(校長)「こまりますお母さん!ここは学校です!!」

さあら「校長先生~!!(たすけて!)」

まど(母)「私は、この子の母親です!」

すずき(校長)「私は、ここの校長です。警察を呼びますよ。」

さあら「うぇえええん、こわいぃい」

すずき(校長)「ここでは生徒もいます、こちらへ。さちえ君は保健室で待っててね」

さあら「どうなるんだろう…こわいよぉ…父さんがいないのに勝手に母さんのとこなんて帰れないよう!でもきっと、きっと校長先生が助けてくれる」

まど(母)「ほら、帰る準備できたの!?家に帰って服取りに行くわよ!」

さあら「えっ!?だって…」

まど(母)「あ~、校長先生、すいません、お騒がせしちゃって~ほほほほ」

ずすき(校長)「あ~いえいえ、じゃ、気を付けて帰ってね、さちえ君」

さあら「校長先生!だって!だって!」

すずき「あ~悪いけど僕何にも出来ないんでね~」

さあら「え…!?」

まど(母)「ふん、そのままここの学校に通わせるって言ったら手のひら返したみたいに下手に出ちゃって、あはははは!」

さあら「私、このままこの学校に通えるの…?」

まど(母)「は?そんな訳ないじゃない!?早くいくわよ!あの人が待ってるんだから」

まつまる(父)「おい!お前何してるんだ!?」

さあら「父さん~!うぇええ!」

まど(母)「なんであんたがここにいるのよ!」

まつまる(父)「学校から連絡あったど、何やってんだ、おらと、約束したんでねぇか!」

まど(母)「あの時はあの時よ、お金なんか返すからこの子もらっていくわよ!」

まつまる(父)「おめ、もらってくって、さちえは物でないんだど!」

さあら「うぇええ!」


まど(母)「ねぇ、さっちゃん~、パパがね、さちえに会いたいって、ね?帰ろう?ね?どっちがいいの?陽子も兄ちゃんもいるのよ!?ねぇ…ねぇって聞いてんのよ!」

まつまる(父)「おめえいい加減にしろ!」

まど(母)「この子の事よ!この子が決めるのよ!」

すずき「あ~悪いけど僕何にも出来ないんでね~」

まつまる(父)「さちえ…」

さあら「私…私ここにいる…父さんといる!母さんには陽子も兄ちゃんもいるけど、父さんは、父さんには私しかいないもん!」

まど(母)「…勝手にしなさい!!この恩知らず!犬でも三日飼ったら恩を忘れないって言うわよ!あんたは犬以下よ!」

☆北の国から(ギター)

さあら「母さんの言った事もひどかったけど…私の言ったそれも、嘘だったわけで…母さんに陽子がいようが、兄ちゃんがいようが、関係なかったわけで。ただただ、僕はもうこんな毎日が嫌だったわけで。あの暮らしから逃げた出したかったわけで。そんな自分勝手で、僕はまた、母と兄妹を捨ててしまうわけで…。今日も北海道には…雪が降っているわけで…父さん…僕は…」

まつまる(父)「ほた…いやいや、さちえ、ほんとに…いいのか?」(邦衛の真似)

さあら「うん…」

まつまる(父)「ありがとな」

さあら「うん…」

まつまる(父)「ったく、あいつにも、困ったもんだなぁ!…なぁ…えっと、う~ん」

さあら「母さん、もう来ないかな…」

まつまる(父)「あ!そうだ!ほれ、これみれ!さちえ」

さちえ「…なに?石?」

まつまる(父)「これがおらが運んでる石炭だ」

さちえ「へぇ…黒い」

まつまる(父)「これはなぁ、黒いダイヤとも言われてんだ!こんな石っころだけど、真赤になって、熱く燃えて、しっかりみんなの暮らしを支える燃料になる」

さちえ「へぇえええ!燃えんの?これが?石だべだって」

まつまる(父)「さちえも、今はまだ真っ黒くてちっこい石っころかも知れねぇけど、そのうちしっかり燃えて誰かの力になるんだ。だから、しっかり食べて、おっきくなんないと!」

さちえ「えぇ、だって石?石だよ?ねぇ、何で燃えるの?なんで?」

まつまる(父)「さちえ、今のおらの良い話聞いてた?」

さちえ「石、燃える?なんで?」

まつまる(父)「あははは、まぁ、まずは学校にちゃんと行く事だ!」

さちえ「あぁ…学校ね。う~ん、石」

さちえ「不思議なものがあるものだと思いながら、私はその後も気分でしか学校にいかなかった。また学校で自分の母親に誘拐になどあったらたまったもんじゃない。先生やクラスのみんなの目も…ちょっとやりにくかったし。でも、これで幾らか平穏な日々が」

☆(電話っぽい音)2コール
さあら「訪れると思ったら大間違いだった」

まつまる(父)「さちえ!大変だ!車さ乗れ!」

さあら「え!?なんで!?」

まつまる(父)「いいから!早く!」

さあら「え…病院?」

すずき(医者)「お母さま…薬を…ちょっと飲みすぎちゃったみたいでね…」

まつまる(父)「ったくなにやってるんだ…、子供達もいるのに!おら、陽子と浩の様子さ見てくるから、さちえは母さんについてて」

さあら「…え、うん…」

☆音楽 寂しさ→穏やか

さあら「ねぇ…かあさん…どうして…こんな…」

まど(母)「あ、さちえ…。ごめんね…。母さん…パパとお別れした…。別れたの…。」

さあら「大丈夫…大丈夫だよ…。ごめんね…。」

さあら「『大丈夫』なんて言える事は何もなかったけれど。それしか言葉が出てこなかった。でも…こうして私達家族にも、不器用ながら静かな時間が」

☆ボスが出てきそうな音
さあら「訪れると思ったら大間違いだった」

まど(母)「ちょっとあんた!お金が無いのよ!三万貸してよ!」

まつまる(父)「は!?おらだってそんな金ねぇよ!1万だけ持っていけ!」

まど(母)「さちえ!あんたの兄ちゃんいなくなった!探しに行くよ!あんたも車出して!」

さあら「え!?なんで私も乗るの!?そんなの母さんが探せばいいじゃない!」

松丸(父)「おめ、浩はおめの兄ちゃんだぞ!いいから早く乗れ!」

さあら「え!だいたい、父さんだって、兄ちゃんの本当の父さんじゃないじゃん…父さんは…私の父さんなのに…。」

☆ボス戦っぽい音

さあら「その後も父さんと私は」

☆音(パーカス)
まど(母)「陽子が家出した!」

さあら「えぇ」

☆音(パーカス)
まど(母)「お金ない!あんたにこないだ小遣いやったでしょ!?返して!」

さあら「えぇ!」

☆音(パーカス)
まど(母)「パパの息子がうちで居候しててお金がかかるのよ!あんたのゲームと本売ってお金にしてきて」

さあら「えぇえええ」

☆音(パーカス)
まど(母)「陽子に赤ちゃんが出来た!手伝いに来て!」

さあら「えぇええええ!!」(叫んで音ストップ)

からの数秒

チャールダーシュIN

さあら「ともかく母と陽子と浩の一大事に振り回され続けた。兄浩の行方不明の回数は両手両足を使っても足りず、陽子の色恋沙汰と家出の回数は家族の手足を足しても足りなかった。そこに持ってきて、母の家には定期的に入れ替わる誰かわからないような居候がいて、なにぶんお金がかかって、お金の無心。しまいには飼い犬が妊娠をしたので手がかかる手伝いに来いと言って学校を休ませるなど、やりたい放題。まぁ、元々学校はあまり行ってなかったけど。いよいよ、行く気が失せた。学校に乗り込まれるのはもうこりごり」

さあら「どうしてこんなことになっちゃったんだろう」

まど(母)「陽子一人で留守番させておけないのよ~」

さあら「私も友達と遊びに行きたい」

まど(母)「また兄ちゃん会社からいなくなっちゃったのよ!」

さあら「私も破天荒に羽ばたきたい」

まど(母)「パチンコで全部すっちゃった…あんた…お金ない?」

さあら「おしゃれもしたい」

まど(母)「新しいパパよ!挨拶に来なさい!」

さあら「私も恋がしたい」

まど(母)「あんた友達と家族とどっちが大事なの!?」

さあら「私…私は…。私…私は…。私が大事よ!」

1:38
さあら「そうして私は家を飛び出した!名前も知らない男の家に転がり込んで、しみったれた裸電球の下で濡れた下着を乾かしながら幾つもの夜を越え、身体を張って闇の中を生きた、生き抜いた、酒と音楽に飲まれながら、沢山の恋と愛の狭間で揺れながら、細胞の一つ一つまでをも全て響かせて!誰の手も借りずに暗闇を泳いだ!殺しと盗み以外はなんだってやった!それでも、自由だった。誰にも縛られず、私は燃え盛り飛び回った。人は言った!あたいの事を!燃え上がる黒いダイヤと!」

2:26

さあら「なんて事を夢見ただけで、現実の私には、何にもなかった。ただ。そこには隙を見せれば家から飛び出して男の家に転がりこむ妹と、すぐに会社を飛び出して母親の財布から金をくすねていく兄と、機嫌を損ねるとすぐに自殺しようとする寂しがりで手に負えない母。そして、なぜだかそれに何の口も出さない父と。ただ鳥かごの中でこき使われる私、でもそれでもういいやって思ってた。私が何を望もうと。きっと…なにも変わらない…
そうよ、生きているだけありがたいって思わなきゃ、そういうものなんでしょ」

3:54-4:26 アップテンポ

さあら「幸せや自由っていうのは限られた人たちの中だけでこれみよがしに輝くもので私はかやの外。妹のようこが高い服を着ていても私は500円のワゴンセール、兄ちゃんがどこへ飛んでいこうと私は夕飯の支度、母さんが恋をして誰かに身を任せてお金をつぎ込んでも私は一人、母さんと父さんのところを行ったり来たりしながら家族みんなの世話、父さんが私との暮らしに満足しても、私は、私はここから出ていけない!」

さあら「小学校、中学、高校と、そんな風に、ただただ周りの流れに巻き込まれているだけで、その日その日をやり過ごしていた。生きている、とは、とてもいえなかった。なんだろう。身体があったのだから、死んではいなかったけど。強いて言えば煮凝っているというのが一番近かったと思う。」

まつまる(父)「どうしたさちえ!ボーっとして!」

☆ごようきな音楽(参考ミサト自宅BGM)

さあら「父さんの、能天気で、無邪気で、なーんも考えてない所が、唯一救いだったような、それが災いしていたような」

まつまる(父)「そうだ!さちえ!今度函館いくど!港祭りだ~!ヨシオも喜ぶべ!」

さあら「ヨシオおじさん?喜ぶかなぁ…?」

さあら「父さんの実家は函館…からちょっと行った田舎にあった。歩いて数歩で海に出られちゃう気持ちの良いところだった。おばあちゃんやヨシオおじさんはどこかよそよそしかったけど父さんは私の事をなにか自慢げに話していた。学校も行かない子の何が自慢なのか。」

まつまる(父)「よし!ひろしと陽子も連れて行こう!」

さあら「え?」

まつまる(父)「家族だからな!」(家族だからなDANCE)→音楽OFF

さあら「父さんの家族の概念はいつもでかい、というかおおざっぱだ。思えば母さんもそうかもしれない。いつも家には誰か知らない人が住み着いている。別れたパパの本妻の息子、兄ちゃんの同級生、近所のおばあちゃん…私は…なかなかそれに馴染むことが出来なかった」

☆Rain Worldピアノのみ

さあら「雨か…、雨の日は気楽だな。母さんから呼び出し喰らわないもん。頭が痛いからほっといて~!っていう日。私も家から出なくて済むし、寝なおそっかな。…あ、でもあれか。さっちゃん、私もう死にたい…て電話が来る日か。」

(電話の音)2コール

さあら「こりゃ長丁場だな。はいはい。もしも…あ、ヨシオおじさん。え?あ、うん。母さんのところは時々行ってる。あ、あぁ、そうだよね。あんまり…行かない方がね…うん。え?あ、大学…行くつもりでい…あ、あぁ、そっか、お金の迷惑ね…かけない方がね。うん?あー、ね、そっかー。それは…考えた事も無かったけど。うん。そうかもしれないね。わかった。うん、じゃあね。はい。おばあちゃんにもよろしく」

さあら「父さんに世話になったんだから、お前は家にいるべきだ。男手一つで育ててくれた恩を考えるなら、大学、結婚、そんなのいらないはずだ。そうなんだねぇ。そうなんだねぇ…私が描いてみたかった夢は…みんな…みんな手の届かない…硝子のむこうなんだねぇ」

歌:ガラス坂

【第三部 青年期】

鈴木「さ、というわけでね、さちえちゃん、家族という冒険のパーティーは増えましたけど」
松丸「代わりに冒険出られなくなりましたね」
鈴木「どうなるんでしょうかね?これで話も終わりかな?」
松丸「これで終わりじゃ寂しいですね、続き見ましょう~!」
鈴木「はいどうぞ~」

☆おちた時の音(金ちゃんの仮装大賞) 最後に1音なった後に 1拍あってカーン

さあら「…あ、落ちた」

さあら「周りからは反対されたながらひっそり大学に挑んでみたものの、滑り止めも無しの一点受験で、落ちた、見事に落ちた。」

☆おちた時の音(金ちゃんの仮装大賞) 最後に1音なった後に 1拍あってカーン

さあら「大学落ちたからせめてもと公務員試験を受けたけど、落ちた、見事に落ちた。」

まつまる(父)「まぁ、さちえ、がっかりすんな。うちにいて飯作ってバイトでもしてくれれば俺は助かるし、陽子の子供の子守もあるし!な!」

さあら「そっか…私やっぱり…ここにいるのが…いいのかな…まぁ…それでいいのかなっておもってた。けど、父さんはここのところ、家に帰ってきて缶ビールを3本開けると」

まつまる(父)「さちえ、お前はなにがやりたいんだ!」

さあら「と、毎日聞いた。どんな答えを返しても」

まつまる(父)「そういう事でなくてよ!何がやりたいかって聞いてんだよ!どう生きていくかって聞いてんだ!お前の黒いダイヤはどこにあるんだ~!!」

さあら「そうして酔ってない時はいかに私を家族に縛り付けていようかと腐心しているように見え、ちょっと気が狂いそうだった。希望を持っても否定され、その癖、なにか希望を持てという。さながら毎晩サグラダファミリアの崩壊部だけを観させられているような心地だった」

まど(母)「あんた!」

さあら「わ!びっくりした!なんでそういつも勝手に家に入ってくるのよ!靴脱いで!」

まど(母)「あんた!大学落ちたんだって!?」

さあら「なによ…人の傷に塩塗りこみに来たの?」

まど(母)「塗りこむわねぇ!塗り込むわよ!あんたこんな所で腐ってていいの!?」

さあら「はぁ?」

まど(母)「あんた!あんたは!あんたの父さんの女房じゃないのよ!」

さあら「…そりゃそうよ。女房はあんたでしょ「元」だけど」

まど(母)「あんたには、あんたの人生があるのよ!」

さあら「…え?」

まど(母)「あんた来年二十歳よ?それなのに彼氏もいないし、モテないし、金もないし、料理も掃除も出来ないし、恩知らずで恥知らずの犬以下!だけど!」

さあら「…はぁ」

まど(母)「だけど!それでもあんたはあんたの人生を生きるのよ!」

さあら「それを母さんが言うの!?」

まど(母)「は?」

さあら「母さんと父さんの為に、私一生懸命やってきたんじゃない!母さんすぐ死のうとするし!父さんはすぐいじけるし…」

まど(母)「ともかくあんたは今から東京に行くのよ!!」

さあら「は?私の話聞いてた?もう…。ていうか…はぁ!?東京!?」

くるりの東京のイントロ

さあら「なんだかんだで、母のごり押しにより東京のラーメン屋へ。しかも当時の母の愛人の家に居候…その奥さんも住んでる家に…奥さんめっちゃよくしてくれて…また一向にわからないシチュエーションに私の頭はバグりにバグった。わっかんねぇ!」

まつまる(父)「さちえをなんで東京にやった!人の家に居候なんてかわいそうだべ!このメギツネ!」

まど(母)「あの子もう二十歳よ!いい加減にそろそろあの子の人生を歩かせないとだめなのよ!こんの甘ったれの甲斐性なし!」

さあら「札幌では父と母が日々の攻防戦を送っているのだと妹から手紙が来た。兄ちゃんは順調に行方知れず。妹の手紙の最後にはいつも何かにつけて、ねえちゃんばっかりずるい、とあった。知らんがな。こっちは朝から晩までラーメンの油にまみれて大変だ。」

☆明るめの音楽 サザエさんOP
さあら「まぁ、でも、それなりに。初めて家族から解き放たれて、いくらか自由という物を楽しんでいたのも確か。住み込みという枷はありながら、休みの日は一日中映画館を回ったり、レンタルビデオを山ほど借りたり、本もCDも買いたい放題、右から左へと好きな物に時間とお金をつぎ込んで、この世の春をへそ出しルックで謳歌していた。友達はいなかったけど、気にならなかった。賄いのラーメンも美味しかった。」

さあら「はい!お待たせしました~!れんげやです!え?父さん?何?今忙しいから後で掛けなおす~!」

(電話の音)
さあら「はい!お待たしました~!れんげやです!え?だから…え…」

☆揺れて生きてピアノIN

さあら「父さんが…肝硬変になった…という電話だった。突然どうにかなるという事はないだろうけど…私は結局父の弱気に負けて北海道へ帰る事にした」

☆揺れて生きてピアノOUT

まど(母)「どうしてあんた帰って来たのよ!」

さあら「え…だって…父さん…」

まど(母)「大体あんたはなんでも人のせいにしすぎなのよ!どうせあんたの事だから仕事がきついのと、あの人のとこに住んでるのが面倒くさくなったんでしょ?」

☆北の国からIN

さあら「母さんの言うそれは…結構図星だったわけで…僕は…父さんの事を言い訳に…面倒な住み込み生活から、逃げ帰ったわけで…東京の会長さん、北海道は、今日も雪が降っています」

☆北の国からOUT

さあら「とはいえ、飽きたなぁ…東京の刺激のある日々に比べたら、なんかこの毎日はさすがに…こう…。友達もそろそろ大学卒業して就職でしょ~。私一人プラプラと…。は!大学!?そうだ!私やりたいことあったじゃん!大学行こう!お金が問題で行けないと思ってたけど。調べてみると、放送大学や夜間部、それに各種奨学金。なんだ、働きながらいけない事なかったじゃん。なんであの時気づかなかったんだろう?」

☆レベルアップの音
さあら「受かった!大学の夜間部に受かった!」

☆レベルアップの音
さあら「サークルなんか始めちゃって仲間と映画なんか撮っちゃって!」

☆レベルアップの音(FF)
さあら「演劇に出逢った~!」

すずき(劇団代表)「さちえちゃん、この間は映画お疲れ様~!」
さちえ「あぁ!いやいや~!楽しかったねぇ」
すずき「そう言えばメイク出来るんだよね?芝居手伝ってくれる~?」
さあら「あ、全然いいよぉ~!」

さあら「と、簡単に引き受けたのが運の尽きだった、のか運が向いたのか…」

さあら「お~!お疲れ様!いよいよ明日だね、本番!楽しみだね!」
すずき「おぅ~!そうそう!さちえちゃん!台詞出来たよ!」

☆レベルアップの音→不穏な音
さあら「うん?」

☆宿屋の音
さあら「メイクとして引き受けたつもりが気が付いたら当日舞台に立っていた…。気が付いたら劇団員だった。本当にいつそんな事になったのか。よくわかんない。そんな具合だったので。芝居とは、演劇とは、役者とは、などという事は何もわからず。その後割と甘やかされながら過ごした…いや…そうでも…ないか。まぁ、時代ですよね。それなりにアレな感じでソレコレして…芝居が好きか嫌いかわからなくなる程度にはモヤモヤもして。齢30になってハタと気づきました。あれ、私、もう結構いい歳じゃん。彼氏も居なくて…芝居でどうともなってなくて…やばくない…?」

まつまる(父)「さちえ、お前いつまでそんな事。もういいんじゃないのか?大学だって卒業したのに、いつまでそんな事やってるんだ」

さちえ「わぁ…本当だ…。職場も派遣を転々としてなんにも積み上がっていない。せめて彼氏くらいは欲しいものだと。職場の先輩に合コンに誘われて行ってみれば、そこには、先輩の彼氏と、その後輩が一人。これは合コンだったのかという疑問はなくも無いけど、ともかく縁づきまして。そのままその人と一緒に暮らすことになりました。こっから先はとんとん拍子…とは…いかなかった。彼氏と仲睦まじく食べる夕飯時」

さちえ「はい、ご飯だよぉ。え?転職?あ!そうなんだ!すごいね!え?東京…え?東京…」

☆くるりの東京イントロ

さちえ「東京、私も、行きたい。でも、劇団は…。みんなは…どうしよう…。どうしよう…。すったもんだした末、結局出した答えは…東京行き」

すずき「まぁ、芝居がある時だけ帰ってくればいいんじゃない?」

さちえ「そうだね…。と、いう会話。たいていの人は慰めとか冗談だと思うでしょう。私もその時はそう思ったんです。」

すずき「じゃ、さちえちゃん、次の舞台3か月後だから、台本送るね?」

さちえ「え?あ、うん!。と、答えてから気づいた。え?どうすんのこれ?え?どうすんの
?」

すずき「大丈夫大丈夫、一人で出るシーンだからそんなに心配しなくても大丈夫」

さちえ「そっか!…え、そっかじゃなくない?」

すずき「大丈夫大丈夫、1週間もあればいいかな!」

さちえ「そっか!…や、そうか…?まぁ…言ってみるか。すいません…あのぉ、北海道でお芝居したいんで…1週間ほどオヤスミもらってm…あ、良いんですか?いいの?あ、はぁ。そんなわけでそこから数年。私は東京と北海道を時々行き来しながらお芝居を続けていた。でも…さすがに…交通費も含め…なかなか悩ましい感じになって来たある日」
すずき「次の芝居なんだけど…」

さあら「や…それがさ…札幌に帰るのも…なかなか…さ…もうやめようと…」

すずき「大丈夫大丈夫!」

さあら「そっか!や、今度こそはそっかじゃないよ!何が大丈夫なの」

すずき「今度は東京だから!」

さあら「え!えぇええ!」

さあら「話をよく聞くと若手演出家コンクールというものがあってそのコンクールに通って東京で最終審査を受けるという。え、でも、そんな大切な大会に1週間の稽古って訳にもいかないでしょう?」

すずき「大丈夫大丈夫!こっちの予選で取ったDVD送るからそれ観てやってくれればいいよ!」

さあら「送られてきたDVDを観たら…私の役には別の若手の女優さんが立っていた。綺麗な人だった。え…この人で予選通ったんだよね。私、え、私が、そこに立っていいの?いいんだろうか…」

すずき「大丈夫大丈夫!」

さあら「そっか!大丈夫…じゃない気しかしなかったけど。立った。結果的に私は、東京の舞台に…立った」

さあら「その舞台は、やっぱり嬉しかった。舞台にかわりはないようで、でもなぜか随分と明るく感じられ、また久しぶりの舞台がとても心地よく。あぁ、劇場ってやっぱりいいな。劇場ってやっぱり、しかも、東京の!劇場だ!  いよいよコンクール本選、緊張と嬉しさで頭がチカチカした!」
音OFF

さあら「そんな舞台の最中、なんか、ちょっと、気になるものが私の目に入って来た。若い方が多い座席に、ちょっと年配の。なにかこう、田舎臭い感じの。黒眼鏡に丸顔…。見覚えが…いつか見た…あれ、うちの代表?いやいや、今一緒に舞台にいる。子供の頃かかったお医者さん…いやいや、違うな…。いやいや…いやいや…なんかもっと身近な感じが…。あ!!」

すずき「ふふふふ、気がついたかね」

さあら「おじいちゃん!!そうよ!仏壇の上で黒ぶちに囲まれてニッコリ笑ってるやつじゃん!」

すずき(にっこり)

さあら「そっか…じいちゃんが、私をここに立たせてくれたのか…ありがとう…ありがとう…」

すずき「あ~悪いけど僕何にも出来ないんでね~。それは全部さちえがやった事だよ。おめでとう。はい、さっさと舞台の続き頑張って」

さあら「は!そうだった!今舞台の最中!え!次!何だっけ!汽笛の音!ポー…。ポー…。ポー…。汽笛の音が見せた幻だったろうか、振り返った時にはじいちゃんの姿はなかった。」

さあら「という事があったの、父さん。本当なんだよ。」

まつまる(父)「本当、だろうなぁ」

さあら「え!信じてくれるの!?」

まつまる(父)「じいちゃんな、若い頃、田舎芝居やってたらしくてな。本家には昔じいちゃんが国定忠治の衣装で見栄を切ってる写真があったんだと。おらには何にも言わなかったけどな。さちえ、「ますだきーとん」さんって知ってるか?」

さあら「あの喜劇王の?」

まつまる(父)「うん。じいちゃん、キートンさんについて東京いく事が決まっててもう行くばっかりになってたんだと」
さあら「え!!すごいじゃん!」

まつまる(父)「ん。でも、時代だなぁ、周りのみんなに反対されて、諦めて…」

さあら「…そうだったのか。そっか…」

まつまる(父)「だから、じいちゃん、きっと幸恵の事羨ましいと思ってるよ。東京行けて。芝居が出来て。」

まつまる(父)「これでじいちゃんも安心していけるだろうな。おらもこれで幸恵がちゃんと結婚でもしてくれたら…」

☆北の国から
さあら「父さん…そういうのは…娘に対して言うのは…その…あんまり良くないわけで…今日も…北海道には雪が降っているわけ…(音OFF)かどうかはわからない東京の空の下」

☆くるり東京のイントロ
さあら「コンクールは結局優勝にはならなかった。けど、私の心にはちょっとしたしこりが残っていた。演出家のコンクールだから。私が立とうが、予選で立っていた彼女が立とうが関係なかったかもしれないけれど。なんか、改めて、みんなが何か月もかけて積み上げた所に1週間やそこら帰ってどうこうするのって、なんかそういう事が改めて今更ちょっと…」

☆電話の音

まど(母)「あんた!お菓子送ってあげるから連絡先教えなさいよ!」

さあら「要らない…。(電話を切る仕草)人が悩んでる時にこんな電話…タイミングが、本当に母さんだ。私は母さんに自分の住所を教えてなかった。うっかり教えれば数千円の高級和菓子を送ってきたうえで」

まど(母)「や~、今日もパチですっからかんでさぁ~ねぇ~陽子がジャンジャン無駄つかいするでしょ~私も大変なのよねぇ~私、自分が可哀そう~…そうだこないだあんたにもお菓子送ったわよね…その分お金よこしなさいよ!三万で良いのよ!あんたの彼氏働いてんでしょ?それくらい出るでしょ?親にそれぐらいのこと出来ないの?他人の方がよっぽど優しくしてくれるわよこの恩知らず!」

さあら「と、言うようなことが起こるのは容易に想像がついた。なんなら東京に押しかけて泊まりに来てその費用も含めて」

まど(母)「あんたの為なんだから!」

さあら「と、出させるくらい母さんには造作もない事だった。そんな事もあり…結婚の話なんか全然進められない。無理無理。」

☆(電話の音)

さあら「母さんいい加減に!え…あ、なんだ劇団の制作さんか。久しぶり!どう、劇団の様子は。北海道にもなかなか帰れないから次の芝居出るかどうか…私迷って…え?そうなの…。

物事の転機というのは一気にやってくる。私が迷いだしたのとリンクするように私の指針と劇団の指針が離れて行った。思えば10年もやっていて、一度も、主役なんかはったこともなかったし…これが実力の限界なんだ、潮時なんだと思って。それを機に退団を申し出た。色んな事がすれ違い始めていた。」

☆線と線(イントロ)

さあら「芝居をやめてからは、なんか、なんとも言えない感じだった。それは燃え尽き症候群なのか。何をしてたらいいのかわからない。仕事は派遣から正社員になってみたものの…半年でやめた。振り返るとあれは「鬱」というやつだったかもしれない。彼氏にぶら下がって…お荷物で…。そのうち母が心血栓で倒れたという連絡も入って来た。血栓が脳に飛んで一旦脳死状態に…なんとか回復したものの声は戻らず、記憶もあいまいな状態が続いた。電話、無理やり切ったのが母が倒れる前の最後の会話になった。何やってんだ私。」

☆わたなべまき 線と線 (歌)(Minami DANCE)

アウトロで
さあら「父さん、私は世界にとって、あまりにお荷物であり…何の役にも立たないカスなわけで。芝居しかしてこなかったから何にも、何にも出来なくて…年齢も…あれな感じになってきて…結婚も…出来なくて…もうにっちもさっちもいかなくなって。芝居をやめてから3年の時が経った」
☆(電話の音)

さあら「はい…え?…あぁ…すっごい久しぶりだねぇ!元気だったぁ!え!ちかさんも今東京にいるの!?え!会いたい会いたい!

北海道でよく一緒にLiveに行ってた音楽仲間のちかさんが急に電話をかけてきた!この吹き溜まりみたいな毎日から飛び出したくて藁にも縋る思いで会いに行った!新しいセラピーを考えたいから一緒にやろうって!

ずっと、どうにもならなかった私に、何か、誰かの役に立つことが!あるかもしれない!

新しい仲間も増えて、まぁ、そんなに急にうまくいくわけでもなかったけどちまちまと頑張って少しずつ回りだしていた頃…また一気に、運命の輪が回り出した」

まつまる(父)「おう!さちえ!元気か!」

さあら「うん!まぁまぁ、そっちこそ体調どう!?全然帰れなくてごめんね!でも、良い報告があるよ!」

まつまる(父)「お!なんだ!」

さあら「…結婚…する!」

まつまる(父)「おぉおお!お、おぉおおお!そうか…そうかぁ!よかったなぁ…よかった。あぁ…ホッとした、ホッとしたよ。これで…大丈夫だ…。父さんからもな、報告がある」

さあら「なになに!?」

まつまる(父)「良い報告と悪い報告がある、どっちがいい?」

さあら「え~、あとでがっかりしたくないからぁ。最初に悪いニュース聞いとく」

まつまる(父)「父さんの…」

さあら「うん!」

まつまる(父)「肝硬変が肝臓がんになりました!」

さあら「え…?」


まつまる(父)「良いニュースは!母さんの意識がはっきりしてきて、機械があれば声も出るようになったんだ!!ねたきりなのは変わんないけど、あいつまだまだ喋るど~!ほんっとに口のへらねぇやつだぁ。それとな!」

さあら「え、ちょっ、ちょっと待って。待って…」

まつまる(父)「や、本当だって、母さん、また見事に復活だぁ、口先だけだけどな。それに、まだいい事あるど?」

さあら「いや、その前の!癌って!癌って今どういう状況なの!?」

まつまる(父)「ん~まぁまぁ」

さあら「まぁまぁって」

まつまる(父)「これまでも薬で抑えたりしてたんだども。いよいよちょっと大きくなって来てな。今度手術だ」

さあら「え!?そんな事一言も言わなかったじゃん!」

まつまる(父)「聞かれなかったからな」

さあら「や、だって」

まつまる(父)「や、そんな事よりさちえよ」

さあら「私、私北海道帰る?帰るの?」

まつまる(父)「さちえ?」

☆北の国から

さあら「父さん…僕は…やっと自分の人生らしくなってきたところだったわけで…芝居はやめてしまったけど…仕事も、結婚も、大切な仲間も出来たわけで…でも…父さんを置いて…そんな…そんな我儘勝手な事を…僕は…僕は…東京には、雪が、降らないわけで…もう駄目だ…父さん…」

まつまる(父)「なにブツブツ言ってんだ?良い方のニュース、まだまだあるんだ」

さあら「…ふぅん」

まつまる(父)「うちの隣に陽子が引っ越してくるって!それも陽子の子供達と一緒に!子供達、あっちこっち連れてってやらないとな。おらの孫だもん」

さあら「孫?」

まつまる(父)「さちえの妹の子供だぞ?おらの孫だべ」

さあら「孫…って…そんな…仕組み…だったかな?」

まつまる(父)「それとな!行方不明の浩が見つかってな!」

さあら「え!?にいちゃん!どこにいたの!?」

まつまる(父)「あははは!いつものやつだ。本州で日雇いしながらふらふらしてた!」

さあら「ん~まぁ、生きてて良かったよ。ほんとに兄ちゃんは毎度毎度」

まつまる(父)「浩も北海道帰ってきて、おらと一緒に暮らすって。

さあら「そっか。みんな。帰ってくるんだ。」

まつまる(父)「んだな」

さあら「私も…帰るよ」

まつまる(父)「さちえは…いいよ…」

さあら「え?」

まつまる(父)「結婚…するんだべ」

さあら「や、そうだけど」

まつまる(父)「いんだ…みんないるし…」

さあら「え、いや、とりあえず!とりあえず!…顔観に帰るよ。…かと言って北海道に帰って父さんと暮らす決心なんかは全然つかないまま。」

さあら「いったん。帰ってみた」

さあら「まぁ、陽子そう言わないでさぁ。そりゃ父さんも口出し過ぎだね、悪い、悪いけど。いや、兄ちゃんいくら父さんが家賃良いって言ったってもう大人なんだから仕事の一つも…いや、確かに私も人の事言えないけど…。 帰ったら帰ったであちこち紛糾してて大変だった。いや、わかる、うん、そう、でも、うん、はい、ごめんなさい。とうさん~!」

まつまる(父)「おい、さちえ!電話鳴ってるぞ!」

さあら「え?電話!?はい!?え!…ちかさん…が…?亡くなった? 」

さあら「仕事仲間のちかさんが…空に帰った…。大切な、大切な仲間だった。もっと一緒に、仕事して、遊んで、美味しいもん食べて…そんな日が来るって信じてた。信じた通りに世界は回るんじゃなかったろうか。どうしてだろう。どうしてちかさん…先にあっちの世界に帰っちゃったんだろう。これからこのセラピー、仕事、でも、父さんの身体も…どうしたらいい…どうしたら…」

まつまる(父)「さちえ…お前もう帰れ」

さあら「え?」

まつまる(父)「おらも、じいちゃんの死に際には立ち会えなかった…そういうもんだ」

さあら「でも…」

まつまる(父)「おらの事は、諦めれ。おらには陽子もいる、陽子の子供達もいる。頼りないけど、浩もいる。きっと大丈夫だ。おらも、ゆっくり行くさ。」

さあら「でも!」

まつまる(父)「でも、も、だって、もない!さちえ、おまえの人生はこれからなんだぞ。諦めたらだめだ」

さあら「諦めたらいいの?諦めなかったらいいの?わかんないよ!」

まつまる(父)「まずまず。東京行ってこい。おまえの新しい家族は、おらの新しい家族だ。ほっといたらゲンコだぞ!」

さあら「父さん…。」

さあら「迷ったけど、私は東京に帰った。父さんの宣言通り、父さんはそう簡単には、逝かなかった。子供達をあちこち遊びに行かせて、私の結婚式を見送って…だけど、寝たきりの母さんより先に、そこは落ち着きなく慌ただしく、旅立って行った」→松丸・鈴木ハケ

さあら「母さん、父さん逝っちゃった。なんか…慌ただしかったわぁ。でも、全員がそろうまで、ちゃんと待っててくれた。もう~!なんだかすっごい陽気な葬儀屋さんが来てさ!わぁわぁ行って、函館からも皆来てくれて。お祭り騒ぎみたいだった…父さんらしかった。泣かないでよ、あれだけ仲悪かったくせに」

まど(母)「さ…ち…え」

さあら「なに?」

まど(母)「あの人、だけが、私を、わかってた、わかって…くれてたの」

さあら「そっか…うん」

まど(母)「あんたね」

さあら「うん?」

まど(母)「私に、似てるから」

さあら「似てる?私がかあさんに?冗談でしょ」

まど(母)「誰かの、犠牲に、なっちゃ、ダメ」

さあら「えっ母さんが犠牲?何のこと言ってんの?」

さあら「そこで、私やっと気が付いた!母さんがあんなに口が悪く周りを罵ってまで、詐欺恐喝まがいのことしてまで、自分の身体がボロボロになるまで、何を、守りたかったのか。何と闘ってたのか。

母さんの傍にはいっつも誰かがいた、身寄りのない老人、親と不仲だったり親の行方が知れない子供、妻に先立たれた男性、障害があって働けなくなった人、騙されてばっかりの甲斐性なし、裕次郎の歌が上手で戸籍が無いパパ…母さんが寂しいからいっつも誰かがいたんだと思ってたけど。それだけじゃ、なかったね。日陰で生きてる人達の為に、いつも全力で、生きてた…ね」

さあら「そ、そうか…。それにしても私達も振り返ればよく死なずに生きてきたもんだねぇ。社会の日陰で、表通りを歩くのが難しい人たちに、助けられてきた。そういう人達がいなかったら、私達兄妹生きてなかったわ。かあさん、ありが」

まど(母)「もう、いいの、そういうの、いいの、私で終わりで良い、あんたは、あんたの人生を、生きな」

さあら「うん、そうだね、でも、私の人生ってなんだろう」

まど(母)「私、疲れたから、寝る、あんた、じゃまくさいから、とっとと、かえんな」

さあら「言うだけ言って寝ちゃうんね。…かあさん、ねぇ、覚えてる?借金取りがまだまだわっさわっさ来てた頃。陽子がうんと小さかった頃。陽子のベビーベッドの上にくるくる回るオルゴールがあってさぁ!私陽子が寝るまでず~っと何回も何回もそれならしてて、やっと寝たと思って振り返ると…いっつも母さんが先に寝てた!私、母さんの寝顔見てホッとして寝たんだ。母さんがいるだけで、嬉しかった。あの歌、覚えてる?」
 
☆ゆりかごのうた 

さあら「その歌が母さんに送った最後の言葉になった。その日は大丈夫だったのに東京に帰ってすぐに電話が来た。寂しがりな癖に強がりな母さんらしく、誰も病院に行けない日を選んで、ひとりでそっと逝った。」

☆揺れて生きてピアノ

さあら「そうして父と母を見送って、ぼんやりしてた。ねぇ、母さん。私の人生って、なんだろう。ねぇ、父さん、何を諦めて、何を諦めずに生きれば、良いんだろう。しばらくは、無理せずいようと思ってたんだけど、」

☆ピアノOFF

さあら「なにせ運命の輪って回りだすとせっかちで、そんな時に私の目に飛び込んでいたのは【急募 新設劇場の場内案内スタッフ】え…そっか…!そうか!!劇場で働けばお給金ももらえて、大好きな劇場に!ずっといられるんじゃん!…は…(すずきを観る)…やってんな?」

すずき「僕は何にも出来ないんでね!」

さあら「時々ふっと北海道の事は頭をよぎったけれど、少しずつ、運命の輪は私を動かしていった。愉快な仲間達でElias歌劇団と銘打って小さな歌と朗読会を開けばいつの間にかテーマ曲が出来てレコーディングしてCDに。ミーハーな気持ちと好奇心で通いだしたタイタンの学校というコミュニケーションスクールで脚本を書けば、それをご縁に10年のブランクを越えてまた舞台の上に戻り、急に人生が加速してきた感じだった。そして今日、とうとう、自作自演のジャイアンリサイタル当日!! 出逢った仲間たちと積み上げた新しい冒険の幕開け!」

(This is me への流れ!)
さあら「と、まぁ、そんな感じで、なんだかんだとすったもんだ。これだけ元気なのに、98にもなる自分の死ぬ間際を演じるなんてのはどうですか?斬新でしょう~?……そうでもないのね…。しかしねぇ、年はとりたくないもんですよ。こんな感じでねぇ。眼も見えにくくなるしね…ん、まぁ最初から眼は悪いけど。この~なんていうの、足腰?うんうん。そういうのもねぇ。うん…。ま、あれよね、全然痛くないのよね。ほら、最初から猫背だし姿勢よくないから、かえって身体がなれちゃって、無理のない姿勢ってのをね、編み出したのよ。大したもんだわ。そんなもんでね、周りみんなくたばちゃってるのに、私一人元気なのよ。空しいもんよねぇ。

え?あれから98まで、何があったかって?

まぁ色んな事があったわよぉ、そりゃ。あんなこと、こんなこと。さちえさん歌だけはやめた方がいいわなんて言われてねぇ…これ見よがしに歌ってやったわよねぇ…。芝居なんて向いてない…こんなことにかりださないでくれ…金返せぇ、とかなんとかぁ…誰が言ったか覚えちゃいないけどねぇ。でもまぁ、楽しかったんじゃないかしらねぇ。やれるだけの事はやったと思うわ。ていうか!あんたたちダレ!!だれ…?まぁ、いいか!忘れたら、そこから始めればいいのよ。どうも、さちえって言います。たぶん、そんな名前。父親がつけてくれたんだったわ。幸せに恵まれる、って書くの。恵まれたかねぇ。恵んでたらいいわねぇ。最近じゃ私の名前なんて誰も呼ばないからねぇ。最近はね…。え。何の話だった!?まぁいいわ。忘れたら、そこから始めればいいのよ。短い針がね、8になったら…あら、何の話だったかしらね。えっと。歯がね、もうずいぶん無いもんだから、食事がしにくいでしょう、私編み出したのよ!ワンカップをね、飲むの、お酒なんてお米から出来てるからちゃんとカロリー取れるわよ。こうやって線を引いて1日分を決めてね…自己管理よ~だから短い針が8になったら…やだ、何の話だったかしら。短い針が8になっ…あぁ…そうか…私そろそろ眠りにつく時間なのねぇ。そうなんでしょ?おじいちゃん。私おじいちゃんの役に立てたかねぇ。立てなかったかもねぇ。親子三代に渡る小さな糸の物語はこれでおしまい。四代目へは、続かないわ…ごめんなさいね。でもね、このより集めた糸くずを、ほろほろっとほぐすとね…あらわれましたる赤い糸。お話は、夜の街ススキノの海を縦横無尽に泳いだ女海賊、誰もが気になる私の母ふうこに移ってまいります、が、今日はこれぎり。親子三代物語幸恵編はここまで、私少し寝ますね。

☆いかにも終わりそうな感じでMy Way 溶暗しかける Cut Out

あ、そうそう、寝る前にはちょっとした歌を歌うの。昔よくうたったのよ。

この世は長い~坂道だけど~!長さじゃないよ人生はぁ~!
真実一路~!

なんか…違うわねぇ…なんだったかしら?

まぁいいわ。忘れたらそこから始めればいいのよ。

☆This is me

どんなこと言われて傷ついたって
そのたんび胸張って蹴散らしてきた

消えない傷を奮い立たせて
私は進んできた

(歌)

観てごらん
私が来た道を
ずいぶんとやり散らかして来たけど
謝るつもりなんかないねぇ

黒いダイヤ
古の光、水、風、大地
全てを孕んで燃やしていく

私達だってそうさ

螺旋の運命を繋ぐその中に
喜びも、苦しみも、悲しみも
全部ある

そうして全部燃やして燃やして
命をともして生きている

生きて…来た

これが!私!

お し ま い 

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