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【桜と蝶々と風呂とかげろう 後編】

登場人物

ゲン…橘源三郎(37)風呂屋
キョウコ…笹本恭子(41)芸人
イツキ…笹本樹(1歳)恭子の息子
野々原 かげろう(57)…美容師

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ナレーション「ここは夢乃崎町日の出湯。ふらりと現れた謎の女かげろう…何も起こらない夢の崎町、果たして今日も何も起こらないのか!」

〇夢乃崎町日の出湯番台 女風呂側

 青い顔をした野々原かげろうがふらつきながら入ってくる

ゲン「…ちょっと、かげろうさん、かげろうさん!大丈夫!?」

かげろう「…え、…ここ、…どこ?」

ゲン「日の出湯よ!風呂屋!」

かげろう「…あら、私ったら」

ゲン「どうしたのいったい」

かげろう「終わらないのよ…着付け…着付け…着付けが!!」

ゲン「落ち着いて、落ち着いて!」

かげろう「ほら、最近アニメのなんとか言うのが流行っているからみんなこぞってお着物着せたがるのよ…それで写真撮影に行くんですって…来る日も来る日も…推しの着物をって!何、推しって!型押しかなにか?手押し車なら末子さんがいつも持ってくるけど…」

キョウコ「あぁ、なるほどねぇ、そう言えば原田さんとこも、長崎さんとこも着せるんだって言ってたなぁ」

かげろう「…!まだ来るの…!はぁ…」

かげろう倒れそうになる

ゲン「あぁ!ちょっとカゲロウさん大丈夫!?キョウコちゃんちょっとかげろうさん支えて!」

キョウコ「おっとと!」

かげろう「これが、七五三の11月まで続くの…!?」

キョウコ「大丈夫よぉ、今桜が綺麗だから撮っておきたいだけでしょ?沿道の菜の花も見頃だし…」

かげろう「そうかしら…」

イツキ「てょ…?」

かげろう「…え?」

キョウコ「何か書いてってさ、かげろうさんも願い事して行ったら?疲れが取れるかもよ?」

かげろう「そうかしら…」

 黄色い短冊を見つめるかげろう

イツキ「てょー!」

 イツキ勢いよくパンツを抜いで走り去る

キョウコ「あ!ちょっと待ちなさい!まだそこで脱いじゃだめ!パンツ!こら!」
 
 キョウコ、イツキを追って走り去る 

かげろう「私子供がいないから…なんだか流行りもよくわからない…近ごろの写真館じゃ着付けもしてくれるだろうに…」

ゲン「でも、ちょっとみんなの気持ち、わかるな…」

かげろう「え?」

ゲン、視線を外して話す

ゲン「ほら、ここいらの子育て世代はさぁ、み~んな野々原さんで切ってもらったわけでしょ?見せたいのよ、私、ここまで子育てしたよ!元気に育ったよ!って、褒めてもらいたいんじゃないかなぁ…。み~んな、かげろうさんの子供みたいなもん、任せたいのよ、大事な子供達を」

かげろう「…そうなの、かしら、そんな風に、思ってもらえてるのかな」

ゲン「ほら、そんな顔しないで!お風呂あがったら特別にラムネご馳走してあげるから!さっさとあっつぅいお湯につかってらっしゃい!」

かげろう「…そうね」

 かげろう寂し気に微笑みながら風呂場へ向かう

キョウコ「イツキまちなさ…あぁあああああ!」

 石鹸が一個蝶のように風呂場の空中を舞う

ナレーション「イツキが踏んだ石鹸はどこに飛んでいくのか!キョウコはイツキのお尻を救えるのか!今日もなにも起こらない夢の崎町に短冊が揺れる、子供達み~んな元気でありますように。夢の崎町の、明日はどっちだ!」

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