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退屈な日々に栞を挟んで。言葉の魔法にかかりたい。

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最近の記事

真夜中乙女戦争

『真夜中乙女戦争』という本を読んだ。 真夜中に魅力を感じるのは若者の証拠だ、という言葉を耳にしたことがある。 深夜のドライブ、丑三つ時の線香花火選手権、街灯だけを頼りに歩くコンビニまでの数メートル、工場夜景という名の埋立地での唯一の光源、そして真夜中の恋人たち。 暗闇を愛おしいと思うのは、暗闇が飾らない等身大の自分の時間と隣り合わせだからだと私は思う。数時間後にはまた踵を鳴らしながら忙しい街へ繰り出す。かなりの高確率で起こる指先の未来が見えているからこそ、今だけ、ほんの

    • 人類みなスーパーマン説

      「人間って、自分のことをきっとスーパーマンかのように思ってるんだと思うの。」 この台詞を聞いて、心躍ったのはきっとあの場ではわたしだけだと思う。 簡単に言えば人生の先輩とでもいうのだろうか。彼曰く、無駄に生き延びてしまって困っているらしいが、まだ四半世紀弱しか生きていないわたしにしてみればその3倍の年齢で現役な時点で人生幸せだと思うが。 私は自身がまだ大病をしたこともなければ、幸運にもとてつもない疾病に侵された人を身近に目撃したこともない。 だから私にはなかなかピンとく

      • 七月に流れる花 八月は冷たい城

        誰が何と言おうと2020年読んだ中で1番。 大余韻。 恩田陸作品は蜜蜂と遠雷みたいな雰囲気のよりも「木洩れ日に泳ぐ魚」とか今作みたいなダーク感が最高に良いと思うのです。個人的に。 花火が消えてさみしいのは、正しいの。 誰かが帰っちゃうのを見送ってるんだから 花火が弔いの意味を持ってたなんて、 令和に生きる人間の殆どが知らないんじゃないかな。 メメント・モリ。死を想え、よ 作品を通して、しっかり語源が追えたのもいい機会。 死にたい奴なんか、ほっときゃ

        • 名も無き世界のエンドロール

          映画化決定と聞き、公開よりも一足先に読了。 2021年1冊目がこれでよかった。 随所に鏤められた"断片"が全て伏線となり、 (※作品中に「断片(1)」のような章がある) サボテンとミルクを愛した孤独な"掃除屋"の主人公と、藁にも縋る思いで呼び鈴を鳴らし、ドアの前で震えるショートカットの少女が出てくる映画になぞられた、前半2/3は最早フェイクとも言えるほどに壮大なプロポーズ大作戦。 (個人的には何度も見ちゃうくらい好きな映画なのでパロって

        真夜中乙女戦争

          愛は不透明だ

          それ以上は何も無い。それ以下でも無い。 この世界の万物に色があるのならば、間違いなく愛は灰色だと私は思う。 光は混ざり合えば最終的に白になる。 画材としての色は混ざれば黒になる。 だから誰にとって身近なものが何色であれ、誰かと誰か、何かと何かが混ざり合えば最終的にはグレーになる。 先か見えない不確実な日常を未来と名付け、いつまで続くかわからない確約を誰かと交わす。 この人こそが生涯の伴侶だと心に決め、純白を身に纏って交わした契りでさえ、彩りの溢れた日々があったとしても

          愛は不透明だ

          『いま、会いにゆきます』

          何度も何度も見た大好きな映画。 何年経っても褪せない美しさ。 私が6月生まれだからか、一番好きな色は紫陽花の色だし、傘が雨に当たる音も好き。遠足の前日、小学校の教室に吊ってるてるてる坊主を逆向きに全部変えたことも何度もあるし、何より雨上がりの雲の切れ目ほど綺麗な太陽は私は知らない。 内容もわかってるし今回は泣かなかったけれど、澪の聡明さ、巧の愛おしさは必ずこの2人じゃなくては出来なかった。 小さな秘密の共有、 誕生日ケーキに託した未来の予約、 そして紫陽花、向日葵、四つ

          『いま、会いにゆきます』

          すべて真夜中の恋人たち

          上記タイトルの本。川上未映子さんの小説を読んだ。 この世界に出会ったのは18歳の夏。今から遡ること4年前の高校3年生の雨の日だ。 受験生だった当時の私は、予備校の帰り道にふと立ち寄った書店でこの本に出会った。 川上未映子氏の表現は文学的で私はとっても好きなのだ、が、この本は抽象的な表現で形容しつつも、雰囲気で全てを伝えてしまう。 真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。  それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言った

          すべて真夜中の恋人たち

          檸檬と夜

          檸檬は私に言った。 『今から夜を迎えに行くよ』と。 そして檸檬は、車の扉を開けた。 おそらく年代物だろう。私の目の前にあるのはかなり年季の入ったクラシックカーだ。 檸檬にエスコートされ、私は助手席に乗り込む。そして問う。 「夜はどこにいるの?」 檸檬は答える。 『夜はいつも同じところにいるんだよ。ただ、さっき君と出会う前に蜜柑に会ったからさ、多分まだ時間かかっちゃうと思うなあ。』と。 確かに檸檬との集合の際、ほんの少しだけ柑橘系の香りが鼻を掠めた。 私は蜜柑が

          檸檬と夜

          花火と椿の花言葉-③ 【完結】

          しかしその次の満月の夜から、彼は姿を見せなくなった。 藤和恭太という名前しか知らない私にとって、彼が現れないということはもう会えないということに等しかった。 実際、あの花火大会からちょうど一年経った今も彼には会えていない。 やっぱり現実はファンタジーにはなり得ない。彼が愛した映画や文学の中で描かれるほど綺麗なものなんて現実には存在しない。 私のこの想いも、名前のように花のまま咲いた途端に散ってしまうんだ。いや、咲いたところで私の椿はどうせ実を付けないのだから、取り返しが

          花火と椿の花言葉-③ 【完結】

          花火と椿の花言葉-②

          「ねえ、椿。聞こえてる?」 あ、そうだ。私は今、友人と飲みに行くところだったんだ。 「…うん、ごめん。聞こえてる。花火大会の話だよね。」 「そうだよ、今年は花火もオンラインか~。そう考えると昨年無理やり彼氏でも作って行っておけばよかった~!」 「そうね…。」 「あ、でも椿は花火大会なんて興味なさそうだもんね。浴衣着て花火見てるなんて正直あんまり想像できないや。」 友人は笑ってそう言う。 「私だって高校生の頃に地元のは一回だけ行ったよ。でもあんたの言う通り、こっちに来てからは浴

          花火と椿の花言葉-②

          花火と椿の花言葉-①

          私は東京タワーが嫌いだ。 特に夜の東京タワーが嫌いだ。 空っぽの私を嘲笑うように、何も武器を持たない私を見透かすかのように、深夜でも煌々と光を放つあの存在が苦手なのだ。 麓を歩くと何も悪いことをしていないのに、自分の悪事を見破られたような気分になる。 普段は埋もれているが、日が落ちると部屋のベランダからほんの少しだけ見えるのも今は私を億劫にさせる。目の前の黒いカーテンを夜に開けたのはどれくらい前だろうか? 当時の私はなぜ、こんな無機質な造形物に恋心とも言える特別な感

          花火と椿の花言葉-①

          シンデレラガール

          小説『おちくぼ姫』を読んだ。 落窪物語という御伽噺を現代風に訳したものである。 まあ言うなれば「王朝版シンデレラ」。 高校生の頃に読んでからずっと好きな小説なのだ。が、毎度毎度思うことがある。 私なら急いでる時に階段の途中で靴が片方脱げたら両足捨てていくし、例えそれが王子様だろうと、魔法で変わった程度なら思い入れも無いんだから置いて行ったはずのガラスの靴は、ご丁寧に自宅まで持って来て頂かなくていい。 時代が変われば12時にならずとも魔法は解け

          シンデレラガール

          サボテンとミルクとショートカット

          こんなに悲しくて美しい作品を何で今まで観なかったのだろうと後悔した。 見終わった後、なかなか現実に戻れない。エンドロールのあの曲が余計にそうさせる。 複雑な愛の形を描いた作品「LEON」。 不朽の名作だからこそ見ていなかったシリーズ。わたしの映画の履歴ははだいたいいつもそう。 filmarksで次に見る映画を探し、目についたのはあの見慣れたポスター。 孤独な“掃除屋”のレオンと隣人マチルダ。 大まかなストーリーは知っていたが、改めてじっくり見ると人間の感情の美しさを思

          サボテンとミルクとショートカット

          眠れない夜に出かけて

          悲しみは消えるというなら 喜びだってそういうものだろう 教わらなかった歩き方で注意深く進む 大好きなBUMP OF CHICKENのHAPPYという曲の歌詞だ。 終わらせる勇気があるなら 続きを選ぶ恐怖にも勝てる 無くしたあとに残された 愛しい空っぽを抱きしめて 借り物の力で構わない そこに確かな鼓動があるなら あの声で歌われるからだろうか?あの才能が紡いだ言葉だと思うからだろうか? やりたいことも増えて、大人になったから出来るようになったこともある。 でもなりたく

          眠れない夜に出かけて

          余白と口紅

          こんな時でも心に余裕のある大人を見てると、目の前のことで必死になってる自分が途端に恥ずかしくなる。し、とてもちっぽけだなあと思ってしまう。 こんなときだからこそ、自分自身を見つめ直せたら。 大学の授業は嫌だけど、友達には会いたい。当たり前に電車に乗りたい。映画館にも行きたいし、友達と待ち合わせてお買い物もしたい。いきたいお店は尽きないし、本屋さんだとかカフェだとかでゆっくり時間が流れるのを楽しみたい。その土地にしかないものを買って食べ歩きたいし、旅行も行きたい。ただ当ても

          余白と口紅

          憧れのロックスターがわたしに与えたのはガラスの靴ではなくて

          いくら夢が儚いものだと言われても、夥しい数のものがデータ化したこの世界を生きるには、見えない何かを私たちが追いかけるしか無いらしい。 午前2時に望遠鏡を担いで行ったって、それでも見えないくらいのものだってこの世界にはあると歌った人もいる。 ただ今わたしの肉眼で、形として見えているものだけは、どうかいつまでも失われることのありませんように。 移り変わる季節や、幻の学生時代。自然の食物には旬があるように、花も咲いては必ず散る。 音楽や芸術、夢や幻想、憧

          憧れのロックスターがわたしに与えたのはガラスの靴ではなくて