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サボテンも枯らしていた女と、緑の目

このあいだ、
庭先で花殻をつまんでいると、
通りかかったおばあちゃんに、

「お花を育てるのが、お得意なんですねぇ」
と言われて、驚いた。

えぇっ。
それ、本当に私のこと言ってる!?
サボテンも枯らしてた女だよ?

と思った。




一人暮らしを始めたとき、
家に緑を置くのが夢だった。

植物を育てたことなんて、
たぶん小学生の頃のヘチマ以来だったのに、
なんでそんな夢を持ってたのか、
今から思い返せば、さっぱり分からない。
何が良かったのか。

たぶん水をあげなきゃとか、時々剪定しなきゃとか、
そういう手間がかかる部分はすっぽり抜け去っていて、
ただ、あの綺麗な緑色に惹かれていたんだ。
生き物の綺麗な部分だけ見ていた。


1kの小さな部屋における小さな植物を買いに、
23歳の私は、町へ出かけて行った。

買ったのは、ポトスと、サボテン。
ポトスの綺麗な緑の葉っぱと、
小さなサボテンがいくつも並んでいるさまにキュンときて持ち帰った。


サボテンってすごく強いと思っていた。
私の中では、もはや「生きている造花」みたいなイメージだった。笑っちゃうけど。

水もほとんどやらなくていいと聞くし、
育てるのラクそう!
そんな風に思っていた。

ポトスは日当たりのいい場所において、
時々水をあげた。

でも、1kの小さな部屋の中で、
ベランダへの導線を確保しながら、日当たりのいい場所を植物のために空けておくって、一人暮らし初心者には至難のわざだった。

それに、今みたいに、
SNSもそれほど発達していなかったし、
なんならパソコンもスマホも持っていなかった。
お店の人や詳しい人に、
育て方を聞くのもなんか恥ずかしかった。

サボテンも育てられないのか、この女。

って思われるのが恥ずかしかった。
(いや、聞けよ。みんなはじめは初心者なんだよ。って今は思う。)

そんなことが重なって、
サボテンの方は、ほったらかしだった。

この子は強いし。

と思って、玄関先とか、全然日の当たらない場所に置いてたし、水もほとんどやらなかった。

そしたら、しぼんで枯れてしまった。

すごく悲しかった。
そして、恥ずかしかった。

あぁ、サボテンも枯らす女になってしまった。

もう植物を買うのはやめよう。
私に買われたこの子は、かわいそうだった。
もっと長生きできたかもしれないのに。
ポトスの方もきっとすぐ枯れちゃうだろう。

そう思った。


けれど、
そんな私の気持ちに反して、

ポトスの方は、
順調に葉を茂らせ、どんどん伸ばして行った。
伸びすぎた茎をおそるおそるチョキンとやっても、またどんどん伸びてくる。

生きてるんだなぁ

ポトスの成長を見ることは、
家には寝に帰るだけ、みたいな生活を送っていた私の癒しだった。




少し前から、庭のある家に住んでいる。

庭には、たくさんの花を植えた。

自分が楽しむため、というよりは、
出かけることもままならない子ども達を、
土や植物に触れさせてあげたかった。

庭も、はじめのうちは、
全然うまくいかなかった。

買ってきて一週間で、
枯れてしまうものもあった。

しばらく生き残るものがあっても、
長さがまちまちだったり、
ボサボサだったり、
枯れたものと咲いてるものとも入り混じって全体的に茶ばんでいたりで、
なーーーんか美しくないのだ。

人の家の庭先をながめては、

「なんであの家の人は、あんなにいつもいつも綺麗に花を咲かせておくことができるのか」

疑問でならない。

「うちの花は枯れるけど、あそこの家の人の花は枯れないんじゃないか」

とさえ思ったことがある。そんなわけない。


けれど、
少しずつ、
少しずつ、
うちの庭も良い感じになってきたなぁ。
と最近になって思う。

人と植物にも相性がある。
いくつかの季節を巡るうち、そのことに気づけた。
ちょうど私が時間をかけられる季節に、
庭に植えるのが最適な植物。
それから、
長持ちする花。
水やりのタイミングなど、
私の生活リズムに合う花。
そういうのを見つけることができるようになったおかげかもしれない。

それから、
しおたとき、
枯れそうになったとき、
どう対処したらいいか。
それも経験で少しずつ、分かってきた。

昔は慌てたり、
落ち込んでばかりだったけど、
観察して、
試してみて、
学んでを繰り返すうちに、
なんとなく分かるようになってきた。

そうして、最近、
おばあちゃんから言われた
「お花を育てるのが、お得意なんですねぇ」
という言葉。

ほんとに?サボテンも枯らしてた女だよ?

と思ったけれど、
ちょっとずつ成長してたんだなぁって、
嬉しくなった。
なんでも挑戦してみていいんだって、
勇気がわいたなぁ。


最近は、
緑の手を持つ人(グリーンハンド)なんて言葉を、聞くようになったけれど、
「手」じゃないんじゃないか。
と私は思っている。

その人にあるのは、むしろ「目」だ。

毎日毎日、
植物の葉や茎や花の状態を見て、
昨日と違うところはないかを、見つける目。

失敗しても、
また挑戦して、観察を続ける目。

自分に合った植物を見つける目。

そんな、
緑の「目」なんじゃないかなぁ、と思うのだ。


ちなみに、
私はいまも、
サボテンを枯らす。

可愛くて、諦めきれなくて、
「今の私ならいける気がする!」と、
定期的に挑戦するんだけど。

置き場所とか水の量とか、
色々調整してるのにナゼ…。

サボテンとは、相性がイマイチなんだろうな〜、
と気楽に思うことにしている。

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