たたずむ水無月を見つけた日
京都にいた頃、
流れる季節とともに、
食べる和菓子にも移ろいがありました
3月、お彼岸だなぁと思えば、ぼたもち。
4月、開花の速報が流れると、桜餅。
5月、新緑綺麗に輝きだすと、ちまき。
6月、梅雨が近づくと、水無月。
というふうに。
実家は4人とも、和菓子好きでした。
家から少し行けば、古い街道があり、
その道沿いに、とても流行っているようには見えない和菓子屋さんが、いくつもありました。
ちまきはこのお店、桜餅はここが美味しいと、
和菓子によって贔屓にしている店を変えていました。
季節の和菓子は、
朝一番に電話で数を告げてから、店に取りに行きます。
父に手を引かれて、お店に行くのが好きでした。
雨の水滴跡で曇って見えるガラス戸を開け、
薄暗い店内に入ると、
和菓子達が、澄ました顔で整然と並んでいました。
店構え同様、こちらに一切媚びてはくれない。
そのたたずまいがまた、和菓子の素朴な美しさを引き立てているような気がしました。
買うものは決まっているので、ガラスケースの中の菓子を買うことはありません。
この中から選べないなんて、
と少し恨めしい気持ちになったものです。
持ち帰った、その季節、その僅かな時期にしか食べられない和菓子を味わいながら、
交わす家族との会話は、毎年同じようなものだったような気がします。
「やっぱりちまきは、このお店やなぁ」
「そうやなぁ、笹の香りが違うわ」
とか、そんな他愛もないこと。
✴︎✴︎✴︎
夫から、1人目の妊娠中に食べたいものを聞かれて、「水無月」と答えたことがありました。
ちょうど悪阻が収まって、
安定期に入った6月頃でした。
安定期に入ったものの、
外の暑さにやられて、食欲が湧いてきませんでした。
そんな折、
思い浮かべたのが、「水無月」でした。
三角の土台は、半透明の白いういろう。
上に、甘く煮た小豆がのって、
色の対比が見た目にも涼やか。
水無月は数ある和菓子の中で、
私の一番の好物です。
6月は私の誕生月。
その6月に食べるということで、幼い頃の私は、特別な意味づけをしていたように思います。
夫はどちらかというと甘いものが苦手な人なので、和菓子に興味がありません。
「水無月」と言っても、へ?と間の抜けた返事をしていました。
見たことのない菓子を、
夫は関東のスーパーで探し回りました。
そして、見つかりませんでした。
スーパーだけでなく、和菓子屋も見て回りましたがやっぱり見つかりませんでした。
調べてみると、
京都を中心とした関西圏に根付いた菓子だとか。
そうなんだ。
しばらく塞ぎ込むほどに落胆しました。
探し回ってくれた夫には可哀想なことをしましたが、あの味を、食べられないなんて。
その後、毎年毎年、6月になると思い出し、探してはみるのですが、
生活圏が定まってしまい、なかなか新しい場所に行く機会がなく、出会うことはできませんでした。
しかし、この土曜日、
ついに出会えたのです。
その子は、
新しくできたショッピングモールに、
達筆の字で「水無月」と垂れ幕を掲げながらも、
すんっと涼しい顔をしてたたずんでいました。
子供たちはアイスクリームなどの洋菓子が好き、
夫は甘いものが苦手、
という私の新しい家族。
「ひとつだけ」と人差し指を立てて店員さんにお願いし、水無月を買い求めます。
そして、土曜日の夕方、家族4人のおやつの時間。1人、水無月を食べました。
「これこれ、見てこの美しさ!」
「このもったり感と小豆の組み合わせが最高。」
だれも、そうやなぁ。と他愛無く同意してくれる人はいません。
「えー、アイスの方がおいしいー」
と言われる始末。
けれど、それもまた水無月に関わる思い出の一つになることを、私は知っています。
また出会えたらいいな、水無月。
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