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書く人と、描く人と、届ける人【クリキャベ編集日記-その6- せやま南天・カバー編】

創作大賞2023(note主催) 朝日新聞出版賞受賞作『クリームイエローの海と春キャベツのある家』の著者せやま南天と担当編集者Kさんの編集日記です。

★第6回は、カバー編。著者せやまの目線でお届けします。

前回の編集者Kさんの日記はこちら。
 ・カバー編(その5)
 ・デザイン編(番外編)

書く人と、描く人

小説を書く人の中には、
書きたい場面の映像をはっきり思い浮かべながら書く人と、
何も浮かべずに書ける人がいるらしい。
私は前者の、映像を思い浮かべるタイプだ。

そして、
絵を描く人の中には、
描く時に、その絵が表す物語を作って描く人がいるらしい。

今回、小説『クリームイエローの海と春キャベツのある家』のカバーをお願いしたイラストレーターのぷんさんは、物語を作って描く人だという。

クリキャベは小説だから先に物語があるわけだけど、ぷんさんは物語を読んで自分なりにそれを咀嚼そしゃくして、今度は自分なりに物語を作りながら、絵にしてくださったそう。

「そうなんですか!面白い!!」
「そうなんです。海のシーンが印象的で……」

冬の只中だというのに、春を通り越して初夏かと思うほど暑かった2024年2月のある日。私たちは、上野のカフェで、冷たいコーヒーと紅茶をゴクゴクと飲みながら、そんな話をしていた。
カバーイラストや小説の感想を伝え合うため、私たち二人は初めて直接会って、言葉を交わしたのだ。

「それにしても、出会った頃はまさか、一緒に本が作れるなんて。お互い思ってもいませんでしたね」


"みんなのフォトギャラリー"での出会い

ネット上でのぷんさんとの出会いは、2021年。
noteのみんなのフォトギャラリーだった。
私が自分の記事に、イラストを使用させて頂いたことが始まりだ。

その頃の私は、まだnoteで日記のようなエッセイを投稿しはじめたばかりの初心者noterで、日々、noteの書き方を試行錯誤していた。

「がんばって記事を書いても、トップ画像が目を引くものでないと、あまり見てもらえないのかも」
という感覚がなんとなく出てきていて、画像選びには慎重になっていた。そんな時出会ったのが、ぷんさんのイラストだった。

「このイラスト、素敵だな」
私の文章との相性もよかったのか、ぷんさんのイラストを使った記事は、よく読まれているような気がした。

それから、ぷんさんの作品を見たり記事を読んだり、ぷんさんからも、
「イラストを使って下さり、ありがとうございます」
といったコメントをもらったりして、徐々に交流が始まった。


カフェで私たちは、今回カバーをお願いしようと思ったきっかけとなる出来事についても、話をした。

それは、2022年9月のこと。
noteの記事の♡マークを押すと出てくる、「スキ」のリアクション画像の作成を、私はぷんさんに依頼したのだ。

希望を訊かれて、お願いしたのはこの2つ。
 ・thank youの文字を入れてほしい
 ・植物の南天か、珈琲か、喫茶店のイメージを入れてほしい

翌日にはすぐ、ラフを描いてくださった。

こちらがその1つ

スピード感もさることながら、
自分で「こんな感じになるかな?」と思い描いていたものより、ずっとずっと素敵なイラストに、胸が高鳴ったのを覚えている。

色使いやタッチや雰囲気、どれも細かなことは私からはお願いしなかったのに、好みドンピシャだった。

「あの時は、noteの記事をお読みして、せやまさんならこういう雰囲気かなって。想像して描くのが、すごく楽しかったです」

当時のことを振り返り、ぷんさんは話してくれた。noteからたくさん想像してくださったからこそのイラストだったんだなぁと合点がいった。画像は、今も大切に使わせて頂いている。

そして、あの感動が忘れられず、

「クリキャベの装幀をお願いするなら、
 どなたかご希望の方はいらっしゃいますか?」

と、編集者Kさんから訊かれて私は、

「できることなら、ぷんさんに」

とお伝えしたのだった。


クリキャベ表紙の難しさ

「海を描いてください」

と言われたら、
みなさんなら、どんな海を描くだろう。

青い色鉛筆を持って、波線を描こうか……
と思いながら、画用紙に向かうんじゃないだろうか。

けれど、そこにはいくつかの注文がつく。

「待って!
 その海、色はクリームイエローだから。
 洗濯物の海なの。
 見る人にゆだねられるようなイメージで描いてほしい。
 でも、抽象的すぎるのはダメ。あくまで、エンターテインメント小説のカバーなので、読者にも小説の内容が伝わる絵でお願い!」

と言われたら…?

いやいや! 何それ、そんなの描けないよ!
となるのではないか。

実際に、私や編集者Kさんからぷんさんにお願いしたこともこれに近いことだった。詳しくは、Kさんのカバー編に書かれている。

クリキャベのイラストを描くのは、そんな風に、すごく難しかったんじゃないかなぁと思う。

私自身、創作大賞の応募時にトップ画像を自分で描いたので、その難しさはほんの少しだが、分かるところがあった。応募の際は、ある程度の文字数で記事を分けるように指示があった。

だから、クリキャベのつづきを投稿した時に、見てくれた読者が、
「あ、あの小説のつづきが出たんだ!」
と気づいてくれるように、
印象に残るような独自のトップ画像にしようと思ったのだ。
つたないけれど、iPadで描いていた。

私が描いた絵。和柄の波文様(青海波)をツンツンにして、アレンジしたイメージ。

でも、具体的な絵は難しくて、抽象的な模様にしたのだった。
これだと、印象には残っても、どんな内容の小説かは伝わらない。

今回、ぷんさんとデザイナーさんは、
難しい注文に見事にこたえてくださったなぁと思う。


届ける人と、読む人

本にデザイナーという仕事があることを、
恥ずかしながら、今回本づくりに関わるまで知らなかった。

デザイナーさんは、
表紙のタイトル入れから、
帯の色、文字入れ、
本文のフォント、配置、
紙やしおりの手触りや色…
本に関わる「文字データ以外の全て」を、デザインしてくださるお仕事だという。

引き受けてくださったのは、bookwallの松さんだ。

「どうしたら売れると思う? どういう風に売りたい?」

「作品をより良くしていく」ということに重きを置いていましたが、この打ち合わせでは「作品をより多くの人に届けるには」ということが重要な話題になる。

【クリキャベ編集日記-その5- 編集者K・カバー編】より

編集者Kさんの日記を読んで、松さんとのやりとりにドキリとする。

本の内容に向き合っていたKさんが、
今度は「より多くの人に届けるには」と視点を変える際に戸惑われた様子がよく分かる。

私は、本を作ると決まってから今まで、ほとんど本の内容としか向き合ってこなかったわけだが、そこに集中できたのは、デザイナーさんや編集者さんが次の「どう届けるか」まで考えてくださっているからなんだなぁ、と改めて感謝した。


そして、今回は、
「読者と距離を近く」というコンセプトのもと、
SNSで楽しいイベントが行われた。


デザイナーの松さんが、4つの表紙パターンを考えてくださり、みなさんにnoteやXで、広くご意見を頂いたのだ。

当初、ご意見頂けるだろうか……と私は心配していたのだけど、とてもたくさんご意見を受け取った。それらを読んで、

「なるほど、そんな見方もできるのか!!」
と思ったり…
「私の名前の見え方まで、気にかけてくださっている!!」
と嬉し、恥ずかしく思ったり…

私自身、とても楽しませて頂いた。

ご意見くださったみなさま、本当に本当に!
ありがとうございました!!!

みなさんにご意見をいただいて……(中略)せやまさんの意見も総合して、D案をベースに進めて行くことになりました。

【クリキャベ編集日記-番外編-】より

みなさんのご意見を反映させ、
表紙は無事にできあがったようだ。

また、裏帯には、
みなさんから頂いた感想も載るらしい。
(どなたの感想が載るのかは、私もまだ詳しく知らされていない。できてからのお楽しみ)

描いてくださったぷんさんがいて、
届けるデザイナー松さんや編集者Kさんがいて、
読んでくださる人達がいて……。
クリキャベはたくさんの人の力をお借りして、本になろうとしているんだなぁ。


完成した表紙を見て

完成版の表紙

こうしてできあがった表紙は、
少し離れて見てみると絵画のようで、部屋に飾っておきたくなるほど素敵だと思う。

そして近づいて、じっと見ていると、
なんだか柔らかな波に、ゆらゆらと身を任せてみたくなるような気がしてくる。

背中をこの海につけて、浮かんでみたら。

どこに流れ着くかは、分からない。
けれど、みずみずしく明るい色彩。
波の間に浮かぶ、
あたたかな料理。
たのもしい後ろ姿。
それらを見ていると、流れ着いた先にはきっと希望があると信じられる気がしてくる。

人の手で描かれたあたたかさが、
小説の内容とも重なって、胸がいっぱいになった。

この絵が、この小説が、
届いた先で、だれかの心を明るくしてくれたなら、こんなに嬉しいことはない。


*****

次回その7は、編集者Kさんによる「校正編」です。
いよいよ編集日記も書籍の完成・発売に向け、ラストスパートです!

Amazonにも書影が反映されました。
予約もはじまっています! どうぞよろしくお願いします。

せやま南天

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せやま南天
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