再びのNha Trang
2014.4.15(続き)
ホイアンからダナン駅へ戻るバスに乗るため、停留所に向かって歩く。行きでは結構歩いたイメージがあったのに、思っていたよりもずっと近かった。
同じ道のりでも、行きよりも帰りの方が短く感じるのはなぜだろう。
行きは、「本当にこの道であっているのか」と疑心暗鬼になりながら歩を進めるからだろうか。ゴールがわからないからかもしれない。帰りは、一度見た風景だから脳が先に先に処理をして短く感じるのかもしれない。
バスでは、行きと同様「50,000ドン」とふっかけられた。少し抵抗したら30,000ドンに値下がった。本来は18,000ドンのはずなのだが、もう面倒くさくて30,000ドン払った。
損をしないための振る舞いって、本当に面倒くさい。
無事、ダナン駅でチケットを購入後、売店で食料を買い込んで、列車に乗り込む。夜、ニャチャン駅に到着。
行きに泊まった日本人オーナーTommyさんのホテルに向かった。
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2014.4.16
「旅は帰りがおもしろい」と思っているのは、行きで少し顔なじみになった人に、再度会えるからだ。
(行きのニャチャンの話は、Vol.06とVol.07とVol.08)
Tommyさんは不在だった。
なんでも月末までホーチミンに行っているらしい。残念。
さて、Tommyさんに連れていってもらったマッサージ店に行きたいと思っていたのだけれど、どうしようか。
思案した結果、iPhoneを頼ってみることにした。
これを、前に泊まったときにもいたベトナム人のお兄さん(ホテル内での役割はよくわからない。ホテルの人かどうかもよくわからない)に見せてみた。察しよく「おお、前に行ったのと同じところか?」的な反応だったので、「そうそう!」と答える。
結局、ホテルの自転車を借りた僕を、バイクで店まで先導してくれた。自然に「手間を惜しまない感じ」が心地よい。
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店に入ると、「あらー、また来たのー」という感じで出迎えてもらった。ホイアンで買った小物入れをお土産として渡したら、ずいぶん場が和んだ。
マッサージは、前に来たときにもいたメガネの賑やかな女の子が担当だった。
施術中、メガネの女の子は、自分のスマートフォンを駆使してコミュニケーションを取ろうと試みてくれた。学生の頃の写真を見せてくれたり、翻訳機能で会話したり。気がつくと60分間、ほとんどマッサージされていなかった。
まったく、楽しい。
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マッサージの後は、自転車で街を散策した。
ホイアンとはまた別の意味で、(自転車はいい)と思った。
自転車は、乗り物自体に「地元感」がにじみ出て、いい。余所者っぽさが薄らぐというか。自転車、特にママチャリは「居住者の乗り物」だ。
日本でも、ママチャリに乗っている人を見かけると「ああ、この辺に住んでいる人なのだろうな」と考えて、少し警戒心が解けるようなことがある。
ホイアンでは、欧米人がレンタサイクルに乗っている光景が普通だったので、自転車に乗ると、むしろ観光客然としてしまう。
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昼飯は路上の屋台でコム・ガー(鶏ご飯)とビール。44,000ドン(約220円)。ちょっと冗談みたいな安さと旨さだった。
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その後も自転車で街をふらふらと。どんなスポットがあるのか調べていないので、ただ気の向くまま(……というか、道の渡れるまま)走った。
日本と同じで、自転車は車道を走る。ただし、日本と違って、交通規則が守られていない(というか、ない? 逆走なんて全然普通)ので、おびただしい数のスクーターに紛れて自転車で走るのは、結構な恐怖だ。
とはいえ、ニャチャンの海は美しい。
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ふわふわと自転車を漕いでいると、「これは結構大きな寺なのでは?」という感じの場所を見つけた。寺に興味があるわけでもないのだけれど、他に行くあてもないので入ってみる。
敷地内に入ると、おじさんが寄ってきて「自転車はこっちに止めろ」というジェスチャーをする。言われるがまま自転車を止めると、手書きで番号が書かれた紙を渡され、「マニ(money)」と5,000ドンを要求された。
この5,000ドンは駐輪代なのかなんなのか、それ以前に、この人が本当にこの寺の人なのかすら疑わしい。疑わしいのだけれど、暑いからだろうか、そういうことを考えるのが本当に面倒くさくなっていた。あまり深く考えずに5,000ドンを払って、番号札を受け取った。よくも悪くもラフになる。
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やはり寺院のようだった。自転車を置いて少し歩くと、若い華奢な女性が話しかけてきた。珍しく、とても聞き取りやすい英語だった。
「私は学生です。ガイドじゃないからお金は不要です。安心してください」と言いながらついてくる。
「ここで写真を撮るといいです」
「こちらからもどうぞ」
「これはタイの仏像を真似たものです」
「いま僧侶は昼寝の時間です」
「裏には小学校があります」
「ここからも写真を」
ぼんやりしていると、どんどん説明をしてくれる。促されるまま、iPhoneで写真を撮ったり、適当な相槌を打ったりしていた。
女性は、おもむろにカバンから絵葉書セットを取り出して、買ってください、という。
「200,000ドン、プリーズ、ヘルプミー」
そのトーンがすごく『世界の中心で、愛を叫ぶ』の「助けてください!」に似ていて、困った。200,000ドンって、さっきのコムガーとビールのセットが5回くらい食べられるよ!
「無理無理」と、はぐらかしながら先に歩いて行くと、女性は急に踵を返して来た道を引き返していった。
なんだろう、この「フラれた男」みたいな取り残され方は。
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そろそろ帰ろうと、自転車を置いた場所に戻る。
(そういえば番号札をもらっていたな)と、ポケットから札を出したけれど、もちろん渡すべきおじさんはいない。
(だろうな)と思いながら、自転車にまたがり門を出た。
門の前では、さっきの絵葉書の女性がしゃがんでスマートフォンをいじりながら、次のお客さんを待っていた。
まったく、たくましい。
そんなそんな。