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勝手に10選〜イカしたアコースティックロックTHE BEATLES編(後編)〜


(前記)

それでは張り切って後編に移る。


・We Can Work It Now

1965年に"Day Tripper"と共に両A面シングルとして発表された曲だ。

アコースティックギターが主軸となっている曲で、構成とすれば明るさと疾走感と軽快さを溢れたパートと、ややマイナーとなるパートの二つのパートが、お互いに緩急をつけ錯綜し、実に気持ちの良い曲となっている。

主としてポール・マッカートニーが主導権を握るが、ややマイナーなミドルエイトのパートはジョンによるもので歌詞もジョンによって書かれており、またミドルエイトの途中と終わりが三拍子のワルツになるのは、ジョージ・ハリスンのアイデアである。

ポールの作ったパートにおける歌詞は、なんとなく別れの気配が漂う、ただの喧嘩をしているかも知れないカップルにおける男性が女性に対して、僕達なら上手くやれるさ、とポジティブかつ前向きに諭す内容だが、ミドルエイトになると、人生なんか所詮短いのだから揉めているじかんなんかないだろ?、と少しダークかつ哲学的となる。

仲の良いビートルズのメンバーが、それぞれのキャラクター、持ち味、意見を出し合って素晴らしい一曲を目指して完成した、実に個性が曲に緩急をもたらした名曲である。



・Blackbird

1968年に発表されたアルバム"The Beatles(通称ホワイトアルバム"に収録された曲だ。

ポール・マッカートニーによって制作された楽曲で、演奏も全てポールのものである。

使用されている楽器は、Martin社製のアコースティックギターであるDー28のみである。
あとは、ポールのボーカルと、リズムを刻む足音だけだ。後に鳥の鳴き声のみダビングされた。
全32回、この曲を弾き語り、その中のベストテイクが採用されたのだ。

素晴らしいフィンガリングである。
ポール独特の親指でルート音を鳴らし、人差し指で他の弦を弾く、独特の2フィンガーであるフィンガリングが実に煌びやか切なくどこまでも美しいく澄んでいる。

歌詞の内容は黒人差別に対するメタファーとして、傷を負った鳥を傷ついた被差別者に準えているが、どこまでもシンプルでタイトな演奏と、淡々と歌うポールの歌が実に気持ち良く胸に突き刺さるのだ。
素晴らしい名曲である。



・Two Of Us

1970年4月10日に正式にポール・マッカートニーが脱退する事によりビートルズは事実上解散した。

その1ヶ月後に発表されたアルバム"Let It Be"のオープニングを飾る曲だ。

いわゆるゲット・バック・セッションと呼ばれる、アルバムの制作過程を映画にして最終的にそのアルバムをメインにライブをやる、と端的に記せば、そんな企画をポールが持ち込んだものの、完成には至らず、曲だけが取り残され、アルバム"ABBY ROAD"を心機一転撮り直し、発売した後に、それら取り残された曲達をフィル・スペクターがプロデュースして完成に至ったのがアルバム"Let It Be"である。

一般的には、賛否で言えば否の評価が目立つアルバムであるが、アルバムとしての統一感やら、フィルの存在を考えなければ、なかなかの名曲が揃った、素直に流石なアルバムという印象を筆者は持つ。

そんなオープニングを飾る、この楽曲であるが、はてさて世間的に評価がもっと高くても良いのでは、と思ってしまう。

アコースティックギターを主軸にしたカントリーの香りも漂うミドルテンポのロックだが、なんといっても、ジョンとポールのダブルアコースティックギターとダブルボーカルを後期ビートルズでこれだけ気持ち良く堪能出来る事は単純に素晴らしい事であり、2人のギターの絡まり、ハモリは実に素晴らしい。

歌詞はポールの後に妻となるリンダとの何気ない一時を書いたものであるが、なるほど本人は否定しているが、解釈の仕方によってはジョンとポールについて歌っている様にも捉えられる。
後にポールは、やはり歌詞は聴き手の解釈次第だ、とも発言している。


・Here Comes the Sun

1969年に発表されたアルバム"Abbey Road"に収録された曲だ。

ジョン・レノンとポール・マッカートニー、いわゆるレノン=マッカートニーの楽曲が大多数を占める中、アルバム"Revolver"の頃から、その存在感に磨きをかけ、ビートルズの最後にしてその地位がレノン=マッカートニーを凌駕せんばかりに圧倒的な自身の世界観を確立したのがジョージ・ハリスンだ。

この曲も後期ビートルズにおける"While My Guitar Gently Weeps"や、"Something"などと並ぶジョージ・ハリスンの大傑作である。

7フレットにカポタストを装着し、どこまでも明るく煌びやかで心が洗われる様なミドルテンポのアコースティックロックだ。

当時のビートルズは弁護士、会計士などと契約やら株式の会議三昧であり、嫌気の刺したジョージは脱走し、親友であるエリック・クラプトンの家に逃げた。

そして、クラプトン邸宅の庭を、クラプトンから借りたギターを片手に散歩していると、太陽の日差しを肌で感じ、この曲が自然とジョージの中に姿を現したのだ。

歌詞は長い冬を超えて春の太陽が昇るから、もう大丈夫、長い冬をよく耐えたね、という内容であり、人生における浮かない日々から明るい日々へ向かうメタファーとも捉えられる。

残念ながらジョン・レノンは事故の影響でレコーディングには参加していないが、実に煌びやかなギターと弦楽の絡み、コーラスワーク、どこまでも爽やかでポジティブなジョージのこの大名曲を、気持ちの良い太陽を浴びながら聴きたいものだ。



・Across the Universe

1970年に発表されたアルバム"Let It Be"に収録された曲だが、1969年に発表されたチャリティアルバム"No One's Gonna Change Our World(既に廃盤)"に先行して別バージョンが先に発表されている。

このチャリティバージョンはテンポが上げられ、キーがE♭となっており、鳥の囀りが加えられている。
なお、現在このバージョンはアルバム"Past Masters Vol.2"で聴く事ができる。

そして1970年にアルバム”Let It Be"に収録されるに至るが、次はフィル・スペクターがプロデュースを手掛けて、今度はテンポを下げられキーがD♭となり、コーラス、オーケストラも加わることになった。

しばし、これら2つのバージョンが定番となる訳だが、時を経て、1996年に発表された"The Beatles Anthology 2"や2003年に発表された"Let It Be... Naked"で、やっと元のキーであるDが聴ける様になったのだ。

この曲は1967年のある夜にジョンが妻であるシンシアの取り止めのない話にイラつき、部屋を出た時にこの曲の最初の1行が浮かんだ。
"Words are flowing out like endless rain into a paper cup"である。

そこから一気に曲が出来た。
ジョン曰く”イライラの曲が宇宙の曲に変わっただけ。曲が勝手に変わっただけ。”だそうだ。

音楽や人生において非凡な経験と挑戦を重ねに重ねた後に、いざ、ほぼ弾き語りに近い実にシンプルかつソリッドでストレートなこの楽曲の言葉にできない迫力、魅力に圧倒されるのだ。
ジョージによるタンブーラがスピリチュアルな世界観に見事な華を添えている。

ビートルズの楽曲において、この曲は筆者のフェイバリットだが、テンポ、キーが変わらず、余計な手出しをしていない"Let It Be... Naked"バージョンが1番しっくりくるのだ。


(後記)

好きな物事をミニマムにまとめる作業の難しさ、ましてやビートルズの楽曲を自身でカテゴライズする難しさを思い知らせられるチョイスであった。
何の忖度も無い(←当たり前だ)のだが、思い付くがままにチョイスし、カテゴライズしたのだが、アルバム"Help!"に収録されている曲が多いのが印象的である。
ディランの影響か、時代か、たまたまか。

読んでくださった方々へ
ありがとうございました。

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