記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『君たちはどう生きるか』母親目線での感想 ※ネタバレ有

映画を見終わって家に帰ると、5歳の息子が

「ママがいなくてさみしかったよ〜〜」

と膝にのぼってきて、ああ、なんというか、主人公真人も直接的に甘えてはいなかったけれどもこんな感じだったな、と思った。


「母」というワードに身構える

『君たちはどう生きるか』のネタバレにならない範囲の感想をみていると、「母」という単語にたびたび出会ったので、少々身構えながら鑑賞した。


ジブリ作品の母親は「しっかりしていて子どもを見送る」あるいは「ほぼ不在」な印象であったが、「母」がテーマとなる作品ともなると、同じ母としてちょっと緊張してしまう。

日々、理想の母親像の押し付けや、自分の中の理想と現実のギャップにそれなりに苦しんでいるからだ。こちとら女神でも聖母でもない、ただ子を捻り出しただけの人間なのだけれども、今度はどんな母が出てくるんだろうと。

結論からいうと、そんなに無茶苦茶な理想の母像は出てこず、その面では気楽だった。
が、別の点で冒頭はかなりしんどかった。

というのも、自分が死に、その後の息子をみている気分で鑑賞する羽目になったからだ。

子どもは健気で親が好き

本作はストーリーとしては「母恋と、継母を受け入れるまで」の物語だ。

主人公真人の正式な年齢はわからないが、少し前に母を火災で失っている。

母の入院中に病院が火事になったようで、遠く高台に見えるごうごうと燃える火の手、距離があるのに飛んでくる火の粉、「家にいろ」と言われたのに飛び出してしまう主人公、母が大事で恋しくて助けたいと強く思っているのに、何もできない姿。

その全ての描写が生々しく迫力があり、心苦しく、私は死んだ気持ちになってしまった。

子を捻り出しただけの人間でも、子どもにとってはかけがえのない「母」なのだと日々感じているので、真人の表情も行動もすべてリアルに身に沁みた。

その後の描写もすごい。

新しい母(継母)に赤ちゃんが宿っていることをお腹を触って知った時の、驚きと感動と戸惑いとグロテスクさともう後戻りできない現実をつきつけられた衝撃とがないまぜになったような反応。

新しい母にも新しい家にも父にも目立った反発はしないものの、子どもながらに周囲に気を遣っており、初めて使用人の部屋に入るのにも使用人全員が入ってから最後に敷居を跨ぎ、戸の近くで静かに待つなど、自分が最も新参者で立場が弱いと理解している。

ジブリ作品の子どもなのでとても聡明で礼儀正しく、行動力も交渉力あるのだが、周りの環境を変える力は持たないなかで精一杯周囲を観察し生きている姿がしんどかった。

継母を受け入れる展開、急では?と思ったけれど

その後は冒険を通して継母を受け入れるターンに入る。ここからはファンタジー色が強く、ようやく息苦しさから解放されて鑑賞することができた。

次々とことが起こり、画面がわっと動くので、自分が死んでいる気分を忘れられたのだろう。

しかし、私は真人が継母を受け入れる展開にどうも納得がいかなかった。

冒険をして、様々なものを見、「母的な存在」にも出会い、友にも出会ったが、決定的なターニングポイントがあっただろうか。
直接的には継母に拒絶の言葉をかけられたことが引き金になったように見えたが、いささか展開が唐突ではないか。

鑑賞後、しばらく悶々と考えて、次のような結論に至った。

これは、「自分を受け入れるとは限らない世界」「完璧ではない世界」「自分の中の醜さや弱さ」を受け入れる話なのではないか。
そしてその結果として継母との和解と、新しい生活への順応があるのではないか。

思えば作中には、良さと悪さをあわせ持つような表現が多数見られた。

特に印象的だったのは大叔父に会う前に通過する通路だ。
細長い台形の形をしたその道は、産道を思わせた。
ここを通じて生まれなおす、そんなイメージの場所だ。

しかし、その道が、硬いのである。

歩くとコツンコツン音がするのでびっくりした。
作中の言葉でいうと「石」でてきているのだろうか。しかも「石が怒っている」らしく、ビリビリと
電流のような物も発生している。

これが産道で、出産が歓迎されているのなら、あたたかく、やわらかく、光に満ちて、もっと幸福そうなイメージで描かれるはずだ。

作中での描き方では必ずしも生まれ出ることを、世界から歓迎されてはいないかのようだった。
そこがとても印象に残っている。

そういえば、青サギもいつ嘘をつくかわからず、利己的で、完璧な友とはいえない。
けれども旅をともにする協力者、友と呼べる存在になった。

わらわらを喰らうペリカンを焼き払おうとすると、一部のわらわらも燃えてしまう。
しかし追い払わなければ全滅してしまう。
ペリカンにもペリカンの生活がある。
完全に安全で、白黒分けられる解決策はない。

墓石の積み木など、あたたかい子どもの遊び道具に死というアンビバレンツな印象を重ねたものも登場した。
魚を食べるには刃物を突き立てて捌かなければならず、肉だけでなく生臭い内臓もある。
使用人たちは真面目に働くが、一方で主人の土産をあてにしたり、子どもがくすねてきた煙草を受け入れるふてぶてしさもある。
継母はやさしく丁寧に接してくれるが、真人を疎む気持ちもあった。

真人もまた、嘘をついていた。

真人は塔の中、下の世界を冒険するなかで、いわゆる「清濁あわせ飲む」、美しいだけではない、醜く愚かな部分もある自分や世界を認め、そちら側を選ぶことで、自分を赦し、継母を赦し、世界を赦し、新たな生活へと溶け込んでいけるようになったのだ。

と、解釈したらいくらかすっきりした。

『君たちはどう生きるか』は表面的な真人の動きは「母恋(母がいなくてさみしい)」からの「継母を受け入れ新たな生活に馴染む」であるが、本質的な変化は「この世と人々と自分の醜さも受け入れ、赦す」ところにあるのかもしれない。

一度しか観ていないので事実誤認があったら申し訳ない。

そのほか個人的に印象に残ったり不思議だったことをメモ。

・なぜアオサギ
・なぜ鳥
・動物に人間ぽい歯って不気味だよね
・母的ポジションの人、みんなお茶淹れてくれる
・わらわら、珊瑚の産卵みたい
・つわりがしんどい、という設定ひとつでとたんに夏子さんに同情しまくった
・妊婦がふらっと姿消したくなる気持ちはわかる
・が、なぜ行ったのか、呼ばれたのか?
・夏子さんの足首の艶かしさ
・大叔父さんはあの世界で楽しく過ごせていたのだろうか
・お父さんが糞まみれになるのも赦しに繋がるのか
・苦しみがあって冒険を経て成長するのは王道展開だが子ども向けとしては難解で長いかも?
・冒険に行くまでの息苦しく緊張感漂うシーン、大変しんどかったが好きだったな
・包丁持ってるインコ、なんかいいよね
・ただの水がめちゃくちゃ美味しそう
・相変わらずごはんが美味しそうだった

ここから先は

0字

¥ 120

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,844件

サポートいただけるととても嬉しいです!よろしくお願いいたします。