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320kmゆるぽたしてんじゃねえよ

うちの自転車実業団レーサーな夫は意外と雅なところがあって、ゆるポタリング(軽くサイクリングすること)で季節の花を見に行ったりする。

「週末、河津桜みにいこうかな〜」

と言い出したのは、先々週のこと。

今年は例年より早く見頃を迎えていると私も耳にしたところだ。

いいねぇ、河津桜ってどこだっけ?と聞くと「下田」。

下田?

下田って、東京からだと結構遠くない?

行き方を調べてみると、車でも電車でも片道3時間程度。

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それを、自転車だけで行くというのか……?

「朝早く出れば、日付が変わる頃には帰ってこれると思うんだよね」

最初から深夜帰宅予定かい。

とはいえ、「河津桜をみたい」という気持ちは素敵だし、日々家事育児仕事に勤しんでくれているナイスガイな夫。たまにはロングライドもしたいよな、と送り出すことにした。

ただし、無理はしない、やばいと思ったら途中で引き返す、車借りる、実家(富士山のあたり)に帰る、等を考えるよう伝えた。

そう、おうちに帰るまでがゆるぽたなのです。

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そして当日。
9時前に目覚めたら夫がちょうど出発するところだった。
あれ?思ったより遅くない?

寝坊しちゃった。でも日付が変わる頃には帰ってこれると思うよ、と夫。

少し手前の河津桜が見られる所に目的地を変えるかと思いきや、やはり下田まで行くつもりらしい。
気をつけて、と5回くらい言って送り出す。

でもまぁ、綺麗な桜を見られて、無事帰ってくるといいな。

ところで子持ちの週末は忙しい。
週末特有の家事と、息子をアレルギー検査に連れて行き、あっという間に時間が過ぎる。

夫の動きも見れないほどだ。

夫はロングライドや長距離レース時に私が心配しないよう、トラブルが発生したらわかるよう、GPSの位置情報を私のスマホに飛ばしてくれる。
自発的にそうしてくれたのだ。私が脅したわけじゃないぞ、念のため。

夫から連絡があったのは16時ごろ。

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ついた〜
綺麗なんだけど、途中伊豆高原とか登りたくさんあって騙された…
7時間かかった…

おい、なんか、大変そうじゃないか!?

帰りは大丈夫なのか……?

綺麗だけど。

体力は大丈夫だけど脚の疲労は溜まってるからゆっくり帰ります。
多分家着くの0時ごろかな?

これまた「気をつけて」「無理をするな」と言いまくってLINEを閉じる。

私には待つことしかできない。

本当は、2歳の息子が初めての採血にもかかわらずすごくお利口さんにしていたことなど、話したいことが沢山あった。

でも相手は今、100キロ以上離れたところにいる。

この頃にはサイクルコンピュータの電池も切れ、GPSで追えなくなっていた。

それをわかっている夫は、「今小田原、あと80キロ」「あと50キロくらい」等、定期的に連絡を入れてくれる。

そういう細やかなところ、好きだ。

既に21時をまわろうかというところだが。

こちらは12時間ワンオペだが。

こちらにはこちらの日常があるので、子と遊び、家事をし、ご飯を食べさせ、風呂に入れ、寝かしつける。
会社の人とまとめて買った牡蠣をこの土日で食べきらないといけないので、半分バター醤油で炒める。
めちゃくちゃに美味い。癒される。天国か。

こんなにも美味いのに、ひとりだ。
まだ幼い息子には念のため出さなかった。

もしかしたら帰った夫が食べるかも、と少し残しておく。「牡蠣残してあるからね!」というLINEが虚しく既読も付かずに浮遊する。

あと1時間くらい

と連絡がきたのは23時49分。

息子と一緒に寝てしまっても良いのだけれど、顔を見るまでは落ち着かず、暗い部屋の中でごろごろする。

そうして午前1時ごろ。

静かに玄関の扉が開いた。

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どろどろのへろへろでボロボロなのを予想していたが、夫は、いつも通りの顔色で、ちょっとお仕事つかれちゃった、みたいな体で帰ってきた。

拍子抜けした。

案外、元気じゃん?

その後、よく覚えていないが夕飯は食べたか、道のりはどうだったか等話したりして、そう、途中で息子が起きてきてしまい、私は添い寝に寝室に入った。

そのまま1時半過ぎに寝落ちてしまった。


事件はその後起こる。

翌日、日曜日。

夫は、土曜日終日外出させてもらった分、日曜日はかおるさん、好きに過ごして良いよ、と言っていた。

が、寝ている。
疲れて寝ている。

そりゃそうだ、14時間、320キロも自転車を漕いだら疲れるだろう。

私も夫を待っていて寝不足なので、午前中は使い物にならなかった。
夫も、気合と私への気遣いで、息子を公園に連れて出たりしてくれたが、私の心は晴れなかった。

家族とはいえ、私たちはひとりひとりの人間だ。
それぞれやりたいことだってある。
なるべく互いに叶えあって行きたい。

幸い、夫も私も趣味がある方だから、やりたいことをやらないと生きていられないタイプだと理解し合えている、と思う。

でも相手の自由を保障すると自分の精神がすり減ってしまう。
このトレードオフの関係がつらい。お互いのびのびと生きたいだけなのに。もう少し子どもが大きくなったら楽になるのだろうか。

結局、丸一日のワンオペと寝不足で週末をフイにした私がカリカリしてしまい、アホみたいな喧嘩をしたりした。
風邪も治らなかったので、翌週末はひとり時間をもらうことにした。

夫に作ってもらった牡蠣フライはめちゃくちゃ美味しかった。

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夫は揚げ物の天才だ。

そして昨日、夫が言う。

「先週自分が河津桜見に行ったからか、今週末河津桜見に行ってる仲間が多い」

「へぇ、みんなどうやって行ってるの?」

途中まで車で行って、峠を楽しんでるみたい」
「なんか、大人の楽しみ方って感じ

ヘイ!誰も都内から自走なんてしてないじゃないかい!!YOUも大人な年齢だぜ!?!?!?

下田まで往復自走してしまう狂気と、こまめに妻に連絡を入れ冷静にペース配分するクレバーさが1個体内に同居してるの、こわいです。

でも、そういうとこが面白いとおもってしまうんだよねぇちくしょう……。

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(河津桜の写真:夫撮影)

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