北朝鮮「統一放棄」の真意は (前)
年末から予想したことではありますが、案の定、北朝鮮が韓国に対する軍事的な挑発を活発に繰り広げています。
公平を期すと、北朝鮮の側からすれば「アメリカ、韓国、日本こそ軍事訓練と称して我が方を挑発している」と言いたくもなるのは事実です。単純に戦力(通常戦力)という意味では米韓日の方が圧倒しているためです。
とはいえ、「なんなら核兵器の使用だって辞さず」というメッセージを発するなど、威嚇の度合いは北朝鮮が上(褒めてない)なので、ここでは「北朝鮮が軍事的に挑発している」という視点で通します。
2回に分けて、北朝鮮の強硬姿勢の背景を考えてみます。
前編は「金正恩(キム・ジョンウン)氏は戦争を決断した」というアメリカの専門家たちの分析について、後編は「威嚇の本当のターゲット北朝鮮内部では?」という可能性についてです。
(冒頭の写真は朝鮮戦争時の北朝鮮軍戦車)
核魚雷
年明けから韓国の延坪(ヨンピョン)島付近で砲撃訓練を展開している北朝鮮。1月19日には核弾頭を搭載できるという魚雷の「重要な試験」を実施したと発表しました。
日本海で実施された試験は、北朝鮮の言うところの「核無人水中攻撃艇」を使ったものです。その名は「해일(ヘイル)5―23」で、ヘイルは「津波」を意味します。
海中で核爆発を起こして津波のような巨大な波を発生させることで船舶を攻撃する兵器のようです。さすがに今回、核を爆発はさせていませんが、北朝鮮は去年からこの核魚雷の開発を急いでいます。
北朝鮮は、今回の試験は「米韓日の海上共同訓練への対抗措置」だと明言しています。
アメリカ海軍によれば、3か国の共同訓練は1月15日から17日にかけて韓国・済州(チェジュ)島の南方で実施されました。徴用工訴訟をめぐって冷却していた日韓関係が(尹錫悦大統領の決断によって)劇的に改善したことで、こうした3か国の軍事訓練もグッとスムーズになっています。
日韓の関係が悪かったときは、米韓、米日で同じような訓練が別々に行われることも珍しくなく、以前参加したシンポジウムでアメリカ海軍の将校が「こっちの身にもなってくれよ。2度も同じような訓練を続けるのは疲弊するんだよ」とボヤいていたのを思い出します。
裏を返すと、北朝鮮から見れば日米韓の連携が深まっているのは脅威に感じているのだとみられます。
「1950年と同様に」
さて、挑発を続ける北朝鮮に関して、先日、アメリカの代表的な北朝鮮専門家2人が連名で論考を発表し、波紋を呼んでいます。以下のリンクで全文が読めます。
一人はロバート・カーリン氏。CIA(中央情報局)の分析官を経て1989年から2002年までアメリカ国務省情報調査局の北東アジア部長を務めました。北東アジア部長の任期中、全ての米朝交渉に関わっています。
もう一人はジークフリード・ヘッカー博士。原子力科学者で、過去、米朝交渉が止まっている時期に北朝鮮からの招きで寧辺(ニョンビョン)の核施設を訪れて、再稼働可能かどうかを分析したことがあります。
北朝鮮に非常に精通した2人です。その2人が、金正恩総書記が何を考えているか、スパッと言い切りました。
「金正恩は、1950年の祖父(金日成)と同様に、戦争を始める戦略的な決断をしたと信じている」
「まさか…」と思われる方が多いでしょう。
カーリン氏とヘッカー氏は、ワシントンでもソウルでも「まさか…」と一笑に付す政府当局者らが多いであろうと予想した上で、「だが、今の状況では北朝鮮のハッタリだと見ないほうがいい」と警鐘を鳴らしているのです。
その根拠をみていきましょう。
アメリカの退潮が好機と映ったか
以前もお伝えしたように、金正恩氏は昨年末に「もう現実を認めるときだ」として、韓国について、同じ民族であり統一の相手だ、と位置づけることは放棄すると宣言しました。統一という目標の放棄です。
そして韓国のことを(従来のように「傀儡」「南朝鮮」ではなく)「大韓民国」と正式名称で呼び、南北関係を「敵対する2つの国家」の関係、「交戦国」どうしの関係へと抜本的に転換するとしました。
カーリン氏とヘッカー氏は、こうした路線変更は小手先の脅しではなく、本気であり、その土台にはアメリカとの国交樹立への諦めがあるとみています。
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