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恣意的すぎる「安全」

このnoteで中国や香港のニュースを掘り下げるとき、厳しいトーンになりがちなのは、平たくいうと、読者の方々に「反面教師」として位置づけてもらえれば、という思いがあります。
とくに、近年、「国家安全」を掲げて中国・香港の政府が人々を抑圧する動きを加速させていることを何度か紹介しているわけですが、それは反面教師の最たるものだと考えています。(写真は財務省HPより)


香港で初の逮捕

5月28日には、香港で「国家安全条例」に基づいて初の逮捕者が出たことが明らかになりました。この日に6人、翌日には新たに1人、これまでに計7人です。

上記の記事にもありますが、これは天安門事件が起きた6月4日を前にした逮捕です。過去に香港で事件を追悼する集会を開催していた人たちがSNSに書き込んだ投稿の内容が"seditious"とみなされたということです。
seditiousは、辞書を引くと「扇動的、治安を妨害する、反乱を喚起する」などと出ます。

香港で天安門事件の追悼集会を開くのは2020年までは合法だったのですが、その後は香港政府が禁じています。発生(1989年)から既に35年になろうとしているのに、今なお中国指導部にとってはタブーであることが分かります。
犠牲者を追悼したり真相究明を求める考えをネットで表明しただけでも、国家転覆の企みであるかのように逮捕されたわけです。

香港の「国家安全条例」については、以前、こちら ↓ で書きましたので、ご参考になれば幸いです。

森友事件で財務省も「安全」を盾に不開示続ける

と、香港での新たな動きについて調べていたところ、目を疑うニュースが。森友学園問題をめぐる財務省の公文書改ざん事件

改ざんを苦に自殺した近畿財務局職員・赤木俊夫さんの妻・雅子さんは財務省に関連文書の情報開示を求めています。
財務省は、そうした文書が存在するかどうかも明らかにしない、という立場で開示を拒否。これに対して、今年3月、総務省の情報公開・個人情報保護審査会が財務省の不開示決定を取り消すよう答申しました。

こうした答申が出たことで財務省もようやく文書を開示するのかと思いきや…

5月30日、雅子さん側が記者会見を開き、またもや財務省が不開示とする決定をしたと明らかにしました。

問題となっている文書は、財務省が検察に任意で提出したものなので、そもそも存在することは分かっているのです。それすら認めようとしない財務省にも呆れますが、今回、総務省審査会の答申を無視したのも極めて異例です。

「またもや不開示」とした理由の中で財務省が主張したのが…

文書の存否を回答すれば、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼす恐れがある

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024053000942&g=soc

まさか法務省ではなく財務省が「公共の安全と治安の維持」を持ち出して情報公開を拒むとは思ってもみませんでした。
いや、これが法務省だったとしても、なぜ文書改ざんをめぐる行政文書を開示すれば公共の安全や秩序維持に関わる事態となるのか、分かりません。総務省審査会の答申を受け入れないという異例の動きをするために、無理に大きな概念を引っ張り出したのかもしれません。

共通点

中国・香港の「国家安全」を盾にした言論圧迫と、今回の財務省の不開示決定は、スケールこそ違えど、2点ほど共通する要素があると思います。

まず、どちらも国家権力側が恣意的に「安全」という概念を持ち出して利用していること。中国・香港で「国家安全」にもとるとして人々が拘束されるのは「拘束の基準が不透明」と多くの国から批判されています。前半でお伝えした香港での逮捕も、SNS上の書き込みが咎められました。

一方、財務省のいう「公共の安全」も、具体的に何をイメージしているのか分かりません。遺族からの請求で文書を開示すれば暴力的な革命が起きるとでもいうのでしょうか?

次に、誰の「安全」を守りたいのか、という点においてですが、中国・香港における「誰」は、「国家=中国共産党の統治」であるのは周知の事実です。実際、中国には「没有共产党就没有新中国(共産党がなければ新中国もない)」という歌があり、党のイベントなどで高らかに歌われます。

中国自身、共産党と国家はイコールだと言っているのです。

一方、財務省。今回持ち出してきた「公共」とは、誰・何を指すのでしょう。森友事件での公文書改ざんは、当時の安倍首相を守ろうとした財務省の忖度であったとされています。
であれば、今も財務省がいう「公共」は、安倍政権以降も続く自民党政権に置き換えても不自然ではありません。中国のように「自民党がなければ日本もない」などと考えているとは、思いたくありませんが…

もう一つだけ、財務省の一件に加えると、ここ最近、国家公務員を目指す学生が減っていることは多くのメディアで伝えられていますし、私もそれに関する記事を書きました。たまたまですが、その記事も香港のニュースを入り口にして日本の状況をみるというという話の流れでした。

今回、財務省が唐突に「公共の安全」「秩序の維持」という文言を引っ張り出して遺族の求めを再び門前払いにした行為は、公務員離れに拍車をかける結果になるでしょう。
財務大臣、あるいは首相が乗り出して文書の開示を指示すべき事態ですが、期待感は薄いです。


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