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地域のつむぎ手の家づくり|「大工を子どもたちが憧れる職業に」“遊べる庭”と集い憩うウッドデッキ提案<vol.54/野澤工務店:大阪府熊取町>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・


大阪府熊取町の野澤工務店を背負って立つ若き大工の兄弟、野澤万里さん(ばんりさん・兄31歳・専務)と星羽さん(せいはさん・弟29歳・常務)は、工務店として自社を成長させながら、「大工を子どもたちが憧れるような職業にしたい」と夢を描いています。
昨年は、HEAT20・G2、耐震等級3の性能を備え、デザインや素材、庭との一体感などにもこだわり抜いた自社のフラッグシップモデル(星羽さんの自宅)を同町内に完成させました。

「大工を子どもたちから憧れられるような職業にしたい」という想いを抱きながら日々の仕事に励む野澤万里さん(兄・右)と星羽さん(弟)

2人は、いずれも「設計ができる大工」という強みを生かしながら、ここを拠点に、年月とともに味わいや深みを増し「素敵に歳を重ねていく家」に―との想いを込めた自社ブランド『AGING WELL(エイジング・ウェル)』の家づくりやライフスタイルを地域に広げていきたい考えです。

野澤工務店は、万里さんと星羽さんの父で、それまでずっと請負の大工だった野澤泰則さんが6年前、息子たちの大工修業が明けたことを機に、2人の強い希望もあって立ち上げました。
3人とも「既製品を組み立てる仕事がメインで、現場の数をこなして売り上げを稼ぐ」という下請け大工のあり方に疑問を感じ、自分たちがそれぞれ厳しい修業を通じて培った大工の技術を生かしながら、顧客のために自分たちも「心からつくりたい」と思える家を届けていこうと、元請けに転じることを決めたのです。

万里さんと星羽さんのチャレンジを支える、2人の父で社長で大工の泰則さん

万里さんは「お客様の希望を自分たちが直接聞きながら、それを自らの手で形にできる」、星羽さんは「社寺建築の仕事をするような親方の厳しい指導のもとで磨いた、木を見立て、刻み、適材適所で使いこなす大工としての腕を造作で存分に発揮できる」と元請けの工務店としての魅力を語ります。

このほど熊取町内にモデルハウスとして完成させた、夫婦と子ども2人の4人で暮らす星羽さんの自宅には、「今後、自社の標準としていく仕様」を盛り込みました。L字型の形状の木造2階建てで、延べ床面積は40.7坪。開放的な間取りで、長いスパンを飛ばして大きな空間を確保するため、「SE構法」を導入しています。耐震性能は、許容応力度計算による等級3で、断熱はHEAT20・G2レベルを上回るUA値0.42W/㎡K(6地域)と高い性能を備え、加えて長期優良住宅の認定を取得しています。

野澤工務店の新モデルハウスは、家族や友人が楽しく集まれる「遊べる庭」が特徴の1つ。夜でもバーベキューや焚き火、おうちキャンプを楽しむようなライフスタイルを提案する
遊べる庭と広いウッドデッキは夜も楽しむことができる


木繊維断熱材を採用

今回は、初めて木繊維断熱材「シュタイコ」を採用しました。万里さんは、今後、自社の標準仕様としていくシュタイコについて「断熱性だけでなく、調湿機能があるため、透湿性のある壁材と組み合わせることで、室内の空気の質が非常に快適で気持ちよくなる」と評価します。

換気は第一種(全熱交換型)で、エアコンによる冷暖房は、1階LDKの1台で暖房、2階ホールの1台で冷房と、それぞれ1台で全館を賄うプランとなっています。ただし、星羽さん一家のアウトドアや庭で遊ぶことが好きな自然志向のライフスタイルを踏まえて、LDKの玄関に近い位置には薪ストーブを置きました。

開放感のある広々としたLDK

室内の床材は、同社では定番となっている無垢のオーク材。壁はスイス漆喰(カルクウォール)や紙クロス(オガファーザー)、屋久スギ材で仕上げました。スイス漆喰と屋久スギ材は外装にも用いています。

床にオーク材を用いて、壁、天井をスイス漆喰(カルクウォール)で仕上げた自然素材に囲まれた空間

キッチンは造作で棚板にホワイトアッシュ、天板にクリを使用。キッチンから続くダイニングテーブルにはキッチン天板と同じクリ材を使い、これも自分たちの手で造作しました。

同じクリ材で造作したキッチンとダイニングテーブル。階段やキッチン棚なども大工の技術を存分に生かして造作する

集い憩うウッドデッキと庭

万里さん、星羽さんの2人が最もこだわったのが庭です。最近では同社がつくる住宅で、ほぼ標準になっているガーデンデザイナーでワイナップ!(兵庫県尼崎市)代表の谷岡雄介さんとのコラボにより、今後、同社が顧客に対して提案していく「遊べる庭」を具現化しました。

建物にあわせてL字型に出る深い軒の下に、階段状(4段)に広いウッドデッキを配置。「家族、友人が集い、時にはそこでお茶を飲んだり食事をしたりもしながら憩うことができる居場所」(万里さん)となっています。

深い軒がかかり家族がのんびりとくつろげる無垢の国産スギでつくったウッドデッキ。キッチン、リビング、ウッドデッキ、庭のつながりを重視

谷岡さんは「エコアコールウッドという薬剤を加圧注入した国産スギのデッキ材を使っているのがポイント」としながら、「完全無塗装で無垢の気持ち良さをダイレクトに味わえるうえ、耐久性が非常に高く、ささくれ立ってこない。ウッドデッキは、ぜひ裸足で使ってほしい」と提案します。

キーワードは「どれだけ遊べるか」

庭全体は、L字の住宅と、アプローチと隣家の境界に立てた木塀に囲まれる形になっているため、中庭のような雰囲気となっています。谷岡さんは、その庭にさまざまな遊べる仕掛けを施しました。
アウトドアキッチンのわきにはハーブ、イチゴ、レモンなどを植え、それらを気軽に使いながら料理を楽しめるように。塀の建物側には写真や絵、鉢植え・雑貨などを飾ることができるギャラリースペースも設けました。

設置したアウトドアキッチンの前の木塀には絵・写真やグリーン、雑貨などを飾ることができるギャラリースペースも設けてある。庭づくりのキーワードは「どれだけ遊べるか」だ

万里さん、星羽さんは、緑豊かな、ウッドデッキやベンチのある空間で「バーベキューや“おうちキャンプ”、焚き火などを楽しむライフスタイルを積極的に伝えていきたい」と意欲を見せます。お客様向けのオープンハウスなどでは、「焚き火やバーベキューを楽しんでもらいたいので、夜にイベントを開くことが多い」(星羽さん)そうです。

谷岡さんは、万里さん、星羽さんの2人について「庭について住宅と同じぐらい真剣に考え、自ら施工にも積極的に加わるところがとてもいい。今後は、ここで芝張りのワークショップをして、みんなで楽しみたい」としながら、「コロナ禍で、こうした庭の需要は確実に高まっている。これからもコラボしながら、『どれだけ遊べるか』をキーワードに、面白い提案をしていきたい」と笑顔で話します。

庭・リビング・キッチンのつながりを意識

万里さんは、「庭とキッチンを、それぞれ“エイジングガーデン”、“エイジングキッチン”と名付け、自社のエイジング・ウェルブランドを構成する重要な要素に位置づけている」とし、「庭からウッドデッキ、リビング、キッチンのつながり方をプランニングで強く意識している。コロナ禍の暮らしを経て、これらのつながりはさらに求められるはず」と語ります。

リビングにソファを置かず床に座るようにすることで、感覚的には、その外のウッドデッキと一体的な「広いリビング」にいるような開放感を感じられるそうです。そのほかに、外壁と同じ板材を室内に連続しているかのように使うことで、外部空間との一体感を演出する工夫も施しています。

外部と連携することで
地力・実力を養う

万里さん、星羽さんは今後について「子どもに憧れられるようなかっこいい大工になるために、ブランディングに力を入れながらプランニングや設計の力を高めていきたい」と抱負を語りながら、「ただ、それは自分たちだけではできない。外の人の力を借りながら、地力、実力を養いながらステップアップしていきたい」と先を見据えます。

数年前から同社では、工務店のブランディングを手がけるヒトモノコト、設計事務所・アトリエさんかく、建築業の人材育成・品質管理支援のPROSUM(プロサム)の大阪府内3社が共同で展開する地域密着の小規模工務店専門のブランディングサービス「ひとさじのこと」のサポートを受けています。
今回のモデルハウスも、万里さん、星羽さんとコラボしながら、アトリエさんかく代表の谷口恋さんが設計を手がけました。

モデルハウスの設計を担当したアトリエさんかくの谷口恋さん。万里さん、星羽さんは、自社物件の多くで谷口さんとコラボしながら、設計力にも磨きをかけている

また、2人と谷岡さんを引き合わせたのは、ヒトモノコト代表の南和彦さんです。

前向きな姿勢で学び続け、さまざまなことを吸収しようとする万里さん、星羽さんをサポートするガーデンデザイナーの谷岡雄介さん(左)とブランディング支援を手がける南和彦さん

南さんは、2人について「学び続け、貪欲にいろいろなことを吸収しようとする彼らの姿には、圧倒的な熱量とライブ感があり、そこにお客様も巻き込まれるような形で、家づくりのクオリティがどんどん上がっていく」と称賛します。

人が集まる家をつくる

万里さんは、このモデルハウスを建てたことを機に「父が、僕らと同じ大工だった祖父から引き継いだ『人が集まる家をつくりなさい』という言葉をあらためて意識するようになった」そうです。今後は、それを自社の家づくりに今まで以上に落とし込んでいきたい考えです。
星羽さんは「トレンドや流行をセンス良く取り入れるのは確かにかっこいいけれど、いったん立ち止まって考えるようにしている。エイジング・ウェルの名の通り、長い時間が過ぎたとしても通用する普遍的な家をつくっていきたい」と力を込めます。

そんな2人の言葉を聞きながら、父であり社長でもある泰則さんは「息子たちの強い希望もあって工務店を立ち上げたことで、彼らと同じようにかつて自分も厳しい修業で身につけた大工の技術を生かし、再び好きな本物の木に触れて仕事ができるようになったことが何よりもうれしい」と目を細めます。

野澤工務店のスタッフ


文:新建ハウジング編集部

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