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明石市教育委員会主催研修「まなびプランをつかった保護者との連携」Vol.2

今年度よりLITALICO教育ソフトを市内全校の小中学校と養護学校に導入している兵庫県明石市にて、教育委員会主催でLITALICO教育ソフト(特に個別の教育支援計画と指導計画を作成することができる「まなびプラン」)を使った保護者との連携というテーマで研修が行われました。一般社団法人UNIVA理事の野口晃菜さんを講師に迎えた研修の様子をレポートします。

開催日時:令和4年8月8日(月)
場所:オンライン
参加者:37名

野口晃菜さんご紹介

一般社団法人UNIVA理事、国士館大学非常勤講師
LITALICO教育ソフトアドバイザー

小学校6年生~アメリカ・イリノイ州へわたり障害児教育に関心を持つ。小学校講師からLITALICOの研究所長としてインクルーシブな社会のための自治体・学校、少年院、刑務所との連携に取り組んだ。その後一般社団法人UNIVAの立ち上げに参画。NHKの番組監修や記事、書籍の執筆も行っている。

保護者との連携

保護者も学校も「子どもに幸せになってもらいたい」という思いは共通していますが、時に対立関係になってしまうこともあります。どうやって保護者と学校がチームとして子どもの支援を進めていくかということをお話ししたいと思います。

なぜ保護者は不安が強いか

保護者が不安を感じやすいのは、今の社会は子育てがしづらいことに加えて、障害のある子どもを育てることが前提となる社会になっていないためであると言えます。医療機関にかかるまで半年以上待ったり、専門機関からの告知の仕方も様々で保護者が不安を感じるポイントが多いです。医者から「あなたのお子さんは自閉スペクトラム症です!」と言われても、その後どうしたらいいのか等不安になるのは当然ですよね。

さらにその背景には、母親に子育ての負担がかかるという「偏ったジェンダー規範」や、家族の困難な状況は家族が解決すべきという規範が存在します。こういった重圧も保護者にはかかっていることを理解しておくべきでしょう。母親のストレスに関する研究では、発達障害のある子どもを持つ保護者は、それがない子どもを持つ保護者に対して抑うつ症状がみられる傾向が2倍にもなるという結果が出ています。

保護者との関わり方の基本

上記でご説明した点を踏まえて、保護者との関わり方は以下の点を大切にする必要があります。

  • ネガティブな側面ではなく、ポジティブな側面に着目して声掛けをする

  • 連絡帳で連絡をするときなど、問題だけを報告するのではなく、なるべくポジティブな側面もお伝えするようにする

  • 保護者のかかえる困難さも環境との相互作用として捉える

まなびプランを活用した保護者連携

まなびプランを活用することで、以下4つの点において保護者の連携をスムーズに行っていくことが可能です。

① 計画作成にあたって「保護者アンケート」への回答協力依頼 
個別の教育支援計画・指導計画を作成するにあたって保護者アンケート※への回答をご依頼します。その際、「あなたのお子さんは特別支援教育対象だから計画を作成します」ではなく、「どうしたらその子にあった学びやすく、過ごしやすい環境を作れるかを知るためにアンケートにご協力いただきたい」と説明すると何のためのアンケートかがわかりやすいと思います。

※計画を作成するにあたってお子さんの基本情報や保護者、お子さんの願いなどを紙面にてお伺いをするアンケートのこと。まなびプランをご活用の学校様に配布をさせていただいております。

② 作成した計画の提示
保護者や子どもの希望が計画にきちんと反映されているかを確認してもらうため、作成した計画を提示します。必要に応じて修正対応が可能な旨も伝えましょう。

③ 計画に沿って支援をしている間の保護者とのやり取りや面談
保護者と合意した計画の目標や合理的配慮の内容を共通言語にしていきましょう。連絡ノートの一番初めに教育支援計画を貼っておいて、時々振り返って見ることができるようにするのも良いと思います。計画を一度作って終わりではなく、年間を通じて活用し、振り返りできるようにすることをおすすめします。

④ 評価の共有
できるようになったこと、有効だった支援や手立て、合っていた学び方を中心に評価を記載しましょう。

保護者面談の際のポイント

保護者面談の際のポイントについても5つお伝えします。

① お互い同じ方向を向くための環境づくり
物理的な環境を整えることが大切です。向かい合うとお互いに緊張してしまうため、なるべくホワイトボードや付箋などを用いて、向かい合うのではなく横並びで座ったり、同じ対象に向き合えるよう心がけます。そうすることで向かう対象はあくまでも「計画そのもの」ということを意識することができます。

② 終了時間を決める
面談の目的をあらかじめ明らかにしておきましょう。お互い決められた枠の中でよい関係性を築いていくことが大切です。

③ 視覚的に構造化する
口頭のみでは共通理解が難しい場合、付箋やホワイトボードを活用してみましょう。考える時間と話す時間を別々にすることでお互いの共通理解をしやすくなります。

④ ポジティブな声掛け、Iメッセージを使う
できないところ探しではなく、「できること、頑張ってるところ」に着目するような声掛けをしましょう。何かを断定したり決めつけたりする言葉ではなく、「わたしは~と思います」というIメッセージを使うとよいです。

⑤ 今後の見通しを伝える
例えば、児童生徒の気になる行動がみられるときに、「とりあえず様子を見ましょう」というコミュニケーションをするのではなく、どのくらいの期間様子を見るのかを明確に伝えるようにしましょう。また、心配ごとがあったときにどのように先生に連絡を取ったらよいのか、枠を決めて伝えると良い関係性が維持できるかと思います。

参加された先生方、教育委員会職員の方からのコメント

野口さんからの約70分の講義が終わったのち、参加された先生からの質疑応答や感想のシェアがありました。一部ご質問とご感想を抜粋します。

【質問】まなびプランを発案した経緯を知りたいです
【野口さん回答】
どうしても先生の努力ややる気に頼りすぎている学校教育のシステムだと日々思っていました。時間も限られている中で学ぶ必要がある先生たちのサポートを少しでもできればと思い、開発に至りました。
持続可能性がとても大切だと思っているので、根性論でとにかく頑張るというよりも、環境を整えていくことが大切で、その一環としてこのシステムを活用いただきたいと思っています。

【先生ご感想】
自立活動は困っている子供に対して、先生が「●●のようになってほしいな」と考えるところから始まります。●●ができないから~をしないといけない、という働きかけではなく、よりよく生きるための気づきを与えるための活動で、主体的に子供たちに活動させる中で気づけばできるようになったというのが理想ですね。

【明石市教育委員会職員の方からのご感想】
育てたい子供の具体的な成長した姿を保護者と共有しながら手をつないでいくことが大切です。保護者と目標を共有し、手をつないでいくために教育ソフトを活用してほしいです。

*注釈
(記事内の障害名表記について)
記事内では、一般的に使用される障害名・疾患名、または学級名として表記をしていますが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)などをもとに、日本小児神経学会等では「障害」という表記ではなく「~症」と表記されるようになりました。現在の下記の表現になっています。
■自閉スペクトラム症
以前は自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などのいろいろな名称で呼ばれていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。
■知的発達症
以前は知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。
■ADHD(注意欠如多動症)
以前は「注意欠陥・多動性障害」という診断名でしたが、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「注意欠如多動症」という診断名になりました。
■LD・SLD(限局性学習症)
学習障害は、2022年(日本語版は2023年)発刊の『DSM-5-TR』では「SLD(限局性学習症)」という診断名となりました。ただし、最新版DSM-5-TR以前の診断名である「LD(学習障害)」といわれることが多くあるため、ここでは「LD・SLD(限局性学習症)」と表記します。

特別支援教育に携わる先生方をサポートするために開発された「LITALICO教育ソフト」は現在全国で50自治体様ほどにご導入いただいております。初年度は無償トライアルという形での導入が可能となりますので、「LITALICO教育ソフト」について気になる方は下記問い合わせ先よりお問い合わせくださいませ。

お問合せ先

TEL 050-3138-4614(平日9:30-17:30)
Mail iep_sys4school@litalico.co.jp
HP https://s-edu-soft.litalico.jp/
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