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起業家にとってIPOと売却はどちらが良いのか

スタートアップ経営に携わると必ず考える事として出口戦略というのがあります。これは日本ならVCやエンジェル投資を受けると大抵はIPO(株式上場)の選択を求められますし、もちろんデッド(借入)のみの会社でもどこかで頭をよぎります。このままで良いのか、仲間が次々とIPOしていく、周りの起業家にM&Aが増えた、などなど雑音含めて自分の会社の行く末を考えるようにもなります。今回はIPOと売却についてのメリットデメリットを、名誉とお金の面から忖度無しに書いていきます。

A. 名誉について

やはり創業者でIPOというのは名誉があります。コロナ禍で鐘を突くセレモニーが一時停止していましたが、あのシーンひとつ取ってもやり遂げた感がありますし(私も二度突かせていただきました😉)、IPOによって自分の会社にブランドが付くのは間違いありません。上場しています、というと社会的な信用もあります。一方で最近は未上場でもユニコーンと言われる会社もありますし、そこまで社会的なポジションとしてネガティブな印象はありません。むしろヘタをすると上場企業よりも優秀な人を集めやすくなっています。未上場企業はSO(ストックオプション)や役員待遇などによって、採用時に伸び代をしっかり提示出来るからです。ですので実は創業者の個人的な「上場企業を作った」という名誉以外の定性的なメリットはほぼないかもしれません。一方で売却組ですが、少なくとも二桁億円以上のイグジットで無いと名誉らしい名誉はないかもしれません。ただ実は売却額以上に大切なこととして、10年とかそういう単位で売却された会社が存続されている事は名誉だと思っています。買われた会社というのは3年もすると大抵はリビングデッドになってしまったり、本体と吸収合併、または人材もほぼ居なくなるのが残念ながら常です。この確率は9割とかそういうレベルでは無いでしょうか。最初のPMIの設計が買い手と売り手でハマっていないという事も多々あろうかと思いますが、やはり文化の違いや事業の考え方や優先順位の違いなどによって、どうしても思った通りにワークしないという結果によるものだと思います。

PMIとは、当初計画したM&A後の統合効果を最大化するための統合プロセスを指します。統合の対象範囲は、経営、業務、意識など統合に関わるすべてのプロセスに及びます。

特に日本の場合は大企業がベンチャーを買収するという構図が多いのも原因だと考えられます。この辺りはまた別の記事で詳しく説明したいと思いますが、やはり買収した会社が存続していかないとM&Aが減っていってしまうと感じています。海外はGoogleによるYOUTUBEやFacebookによるInstagramなどの買収成功事例によって買収後もうまく言っているように見えますが、彼らなんて毎月のように会社買ってますからね(^_^;)失敗は言わないし目立たないだけで遥かに無くなっているケースの方が多いはずです。ただ、こうした大成功事例があるのと、競合排除のためや人材獲得のためのAcqui-hire(アクハイヤー)など、目的が明確なM&A事例が多い分、そこが日本との違いなのかもしれません。なかなかヒト・モノ・カネのどれかにおいて買収された会社が買収した会社を支えるくらいにはやはりなっていないんですよね。。凄く難しい問題です。

B. お金について

やはりIPOはバリュエーションが付きやすいので(そもそもVCや証券会社含め皆が付きやすいように設計していきますので)、マザーズで成長性がそこそこ見える絵になっていれば、売上高や利益に関わらず、売却時によく用いるDCFなんかよりも俄然高い時価総額になることが多いです。

DCFはDiscount Cash Flowの略で、「割引キャッシュフロー法」と表現されることもあります。DCF法は、事業が生み出す期待キャッシュフロー全体を割引率で割り引いて企業価値を算出する方法

よって創業者はかなりの資産を築きます。仮に上場企業としては小型な100億円程度でも50%のシェアを持っていれば50億円です。なかなか50億円の売却は国内においては無いですが、100億円ほどの新規上場企業はめちゃくちゃあります。ただし売れない。これが一番のネックであり、上場企業の創業者が実はキャッシュを得づらい大きな原因です。残念ながらいくら売りたくても株式というのは需要と供給の関係によって株価が決まりますから、大抵は代表取締役社長になっている創業者が、一気に沢山の株式を売ろうとすると、売りが多すぎて株価が下落をたどってしまいますのでそもそも証券会社もそれを実行させてくれません。そして何より会社のトップが株を沢山手放すとなると周りからは会社がヤバいのか?とか色々ありますし、一番ネックなのはインサイダーなる情報を常に握りやすいトップにとって売り時はそうそうないということです。(すべてが全く無いわけじゃないですがなんだかんだ厳しい環境です)そうしたことから創業者の株による資産というのはある意味みなしのような資産になることが多く、可視化させるためには株式を担保に入れて銀行からお金を借りるというのが常套手段になります。ただこれは株価が下がって担保掛目を割ってしまったりすると、株式を安値で銀行に取られてしまうリスクが有り、気づくと筆頭株主ではなくなっていたりすることもあります。一方で、売却というのはその点キャッシュがまとまって一括で手にすることが出来るので現金という点においては売却組の方がお金持ちです。二桁億くらいのイグジットをすると、後はしっかりと手堅く運用していけばフローもそれなりに稼げますのでお金がお金を生むスパイラルになり、正直お金で困ることはほぼ無いと思います。そして金融マーケットではキャッシュが何より強いので、資産形成と相続がシンプルです。上場オーナーの場合は実は資産の引き継ぎも大変です。現金化されていない資産を相続する場合、税金の面でも対策をしっかり講じないと子孫に莫大な資産と同時に莫大な借金も背負わえることになります。みなし資産に対しても税金は現金で払わないといけませんからね。。そう考えると上場においてお金はあまりメリットが無さそうに見えますが、一番の方法は数千億円規模の会社に育て、利益配当をしっかり出せるようになることです。大株主であれば配当で数億円、ソフトバンクの孫さんくらいになれば、200億円ちかい配当収入を一年で得ています。毎年とんでもない売却を繰り返すようなもので実際にはほぼ不可能です。もちろんソフトバンクほどの会社を創業して作るのもほぼ不可能ですがw、起業家たるものそこを目指して良いはずですので😄

以上、IPOと売却における名誉とお金について書いてみました。起業家として常に新しい事をやっていないと気が狂ってしまう、という人は間違いなく売却をおすすめします。つまりイチローのようにヒット量産型の起業家でしょうか。そういう人は時間を掛けて物事にじっくり取り組めない分、コレと決めたら集中力が爆発するタイプ。実際、連続起業家というのは病気みたいなもんなんです(笑)一方、上記には書きませんでしたが上場企業の創業社長はなかなか辞めれません。ですからなかなか新しい事をやろうと思っても、会社と利益相反が無いかどうかを常に考えなければいけなかったり難易度が上がりますので、腰を据えて一世一代の勝負に骨を埋めて挑戦したいという人にはIPOをおすすめします。ただサイバーエージェントの藤田社長のように、この両方が出来るスーパーマンのような起業家も居ますから、まずは変な先入観を持たずに行動しながらその都度で道は決めていけば良いと思います。私自身、連続起業家として複数の売却やIPOも経験させていただきつつ、今は大企業の幹部に席もありますので、人生何でもやってみないと答えは分からないものです😄



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