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海賊王を目指すあの世界的作品をホラーアニメだと思っていた話

「ゴムゴムのぉーっ!」
「次、俺ルフィね!」
「私ナミやる!」
よく遊んでいる保育園のお友達が、急にONE PIECEごっこをやっていた。昨日までずっと犬夜叉ごっこだったのに。
ONE PIECEを観ていなかった私は、テレビで放送される日を聞き、ONE PIECEごっこに参加するべく、次の放送日を楽しみにしていたのである。

しかし、事件は起きた。

放送当日、すっかり忘れていたのである。
慌ててチャンネルをまわし、ONE PIECEを観ようとすると、幼女にとっては衝撃的な映像が映っていた。

砂漠の中でルフィが息も絶え絶えに大の字になって倒れている。
左腕が大きく映し出され、だんだん干からびて骨になっていく。

このシーンがとても怖く、慌ててチャンネルを変えた。私の中で、ONE PIECEはホラーアニメになった瞬間であった。
私は次の日からのめくるめくワンピースごっこに参加できなくなったのである。

小学生になると、ONE PIECEを観ている子はいたが、私が普段仲良くしているような子たちはアニメを観ていなかった。
運動会で曲が使われたりしていたが、覚えるほどには聴いておらず、私の中でONE PIECEは、いまだホラーアニメとしてそのポジションに鎮座していたのである。

中学生になった。
受験して、学区外の中学校へ入学したので、新しい友達がたくさんでき、仲良くなった子に、アニメ好きのカナちゃんがいた。

「えっ、ONE PIECE観たことないの?1話も?」
「だって、めちゃくちゃ怖かったんだもん。ONE PIECEはホラーアニメだよ。」
「違うってば〜」
くすくすとカナちゃんに笑われながらも、絶対観た方がいいよと強く勧められることもなく、私にとって、ONE PIECEのすべては、あのトラウマシーンだけだったのである。

私の人生にONE PIECEとの関わりはないと思っていたが、やはり国民的漫画、アニメだったので、知っていたこともある。

主人公は海賊王を目指す少年・ルフィで、ゴムゴムの実を食べたから、ゴム人間になっていること。
金髪のコックさんが仲間にいて、女性好きであること。
ナミという女性キャラクターもいること。おっぱいが大きい。
鼻の長い男性は、ウソップという名前。
と、まぁ、こんな感じ。

ある日、登校するとカナちゃんがめちゃくちゃ落ち込んでいた。
「おはよ!どうしたの?何かあった?」
「エースが死んだ。」
「エース?だれ…?」
「ルフィのお兄さん。まさか死ぬとは思わなかった。」

カナちゃんは、コナンとエヴァのガチ勢だったので、ONE PIECEのことは、私がトラウマであることに配慮してくれていたのか、あまり話していなかった。
でも、推しの死。そりゃあ、落ち込むものである。
見渡すとクラスメイトの多くがエースの死について話題にしていて、案外みんなONE PIECEを観ている(または読んでいる)ことに驚いた。
しかも、私の中でのONE PIECEの知識はあれっぽっちだったので、そもそもルフィに兄がいることに衝撃を受けた。

みんなの話題に耳を傾けると、私は一つ、大きな勘違いをしていたことを知る。

あれだけ人気がある作品。
ただ、保育園のときにアニメが放送されていて、中学生になってもいまだ放送されている。
主人公のルフィは、海賊王になると言いながらも、まだ海賊王になっていない。
私は勝手に、ONE PIECEはサザエさんやドラえもんの類で、海賊の日常を綴った作品だと思っていた。
なんなら、ウソップはきっと嘘をつくから鼻が長いんだと思っていたので、ルフィの敵だと思っていたのである。
ウソップの巧みな嘘に騙されたルフィとその仲間がウソップを倒す、言わばアンパンマンとバイキンマンの構図だと思っていた。
だから、カナちゃんにトラウマシーンを説明した際に、「ああ、あの時のね」と言われた時は、よくわかるな〜、さすがアニメ好き!と思っていたのであるが、もしかしたら話が進んでいて、ちょっとずつでもルフィは海賊王に近づいているのかもしれないと思った。
私のONE PIECEレベルがひとつ上がった日だった。

高校生になった。
カナちゃんとは同じクラスにならず、アニメを話題にする人も大しておらず、ONE PIECEはまた私から遠ざかった。

大学生になった。
新しくできた友達とカラオケに行ったら、ONE PIECEの主題歌を歌った子がいて、周りが口々に「懐かしい〜!」と言っていた。私は何も分からなかった。
一部の友達には、ONE PIECEがトラウマで、1話も観たことがないと言ったが、その友達も大してONE PIECEの知識を持っておらず、私のONE PIECEの最新の知識は、エースが死んだままで更新されていなかった。

社会人になった。地元で就職したため、地元に戻った。
家族でテレビを観ていたら、ONE PIECEの映画が放送されていて、「こういうの、じっくり観たいよね〜」と母が言ったが、放送開始から既に時間が経っていたことと、私の家族もONE PIECEを知らなかったので、結局観なかった。
映画ONE PIECE FILM REDが大ヒットしていて、世界的にも注目されているニュースが連日放送され、ONE PIECEの海外人気を改めて認識した。

プロポーズをされた。
婚約し、二人で暮らし始めた時、AmazonプライムでONE PIECEが1話から観られることを発見した。
ちなみにオットは、漫画の最新話をチェックしているほどのONE PIECE好きである。
トラウマシーンがあるために、ONE PIECEを大して知らないことは伝えていたが、やはり世界的作品であるからこそ、ちょっと興味があることも事実だった。

「観てみる?」
「でも、既に1,000話くらいあるんでしょ?観きれるかな?それにオットは、1話からのスタートでつまらないんじゃない?」
「ONE PIECEって伏線が散りばめられているんだよ。それを知った上で観てみたい。トラウマのシーンが怖ければ、そこで観るのをやめてもいいしさ。それに、これから二人で観る時間はたっぷりあるよ。」
「わァ…!」
これからの甘い甘い新婚生活に胸を高鳴らせていた私は、オットのONE PIECEへの熱い想いをそこそこに、ちいかわのような反応をし、1話から観始めたのである。


面白い。これは、めちゃくちゃ面白い。
まさか、仲間を一人ずつ集めるところから話がスタートするなんて思っていなかった。
ウソップは私が勘違いしていた敵ではなく、ちゃんとした仲間だった。
サンジはただの女性好きコックだと思っていたが、ものすごく戦えるタイプのコックだった。
ナミが仲間になるも、自分の村を救いたい一心で宝を持ち去り、仲間を抜けると言った時、ルフィの言動から、この作品は「仲間」を強くテーマにしていると思った。
仲間になるキャラクター一人ひとりにしっかりとしたバックボーンがあり、伏線が散りばめられていると言ったオットの意味も分かった。尾田栄一郎先生の頭の中をのぞいてみたくなった。

ゼフの「風邪引くなよ」でうるうるし、ナミの過去に心を痛め、チョッパーの桜で泣き、手首につけた×印を掲げるビビとの別れのシーンで感動し、今まで対海賊だったのが、エニエスロビーから対世界政府となり、面白みがさらに増した。メリー号との別れに涙し、インペルダウンでの再会に驚き、エースの死も見届けた。
仲間にロビンが増え、フランキーが増え、ブルックが増えた。

そう、お気づきの方もいるかもしれないが、私はトラウマシーンを克服し、まんまとどハマりしたのである。
お友達と遊ぶべく幼女が観たシーンは、アラバスタ編でクロコダイルとルフィが戦っていた時のものだった。
ONE PIECE好きの人たちが、私のトラウマシーンを説明しただけで即分かっていたのも納得した。ONE PIECEは私が想像していた日常系海賊アニメなんかではなかった。

私たちは今、パンクハザード編を観ている。アニメだと600話を超えたところだ。
オットは相変わらず最新話もチェックしていて、最近は私がいないところで、YouTubeにある考察系動画も観ている。
昨年のクリスマス時期に、モスバーガーのCMで、麦わらの一味たちがモスチキンを食べていた。ジンベエが一味たちとソリに乗っていて、思わぬ形でネタバレを食らった。
ONE PIECEカードのCMでは、ベガパンクが出ていて、想像と異なる見た目に驚いた。
観始めたのが遅かったので、ONE PIECEファンにとっては知っている情報でも、私にとってはネタバレになることがあるが、それでも楽しみに、オットと仲良く観ている。

最新話に到達するにはまだまだ先であるが、オットの言う通り、時間はたっぷりあるのだから、じっくり楽しみながら観ていきたい。

ちなみに、もしONE PIECEごっこをするのであれば、私はビビ役かボンちゃん役がいい。

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