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密室本 ピアノの調べ

都会にも不思議な夜がある。


先日、数年前に弊社を退職し独立した人から連絡を貰い、
飲みに行こうということだったので行ってきた。

かれのSNSは見ていたのでなんとなく何をやっているのかは知っていたが、事業に一貫性あ欠けているように見えていて、はたしてどうやってご飯を食べているのか気になったので話を聞いてみようと思い行くことに。

お店集合で先に待ち構えていたかれ。


私的な近況報告を聞きながら、
今どんな仕事をしているのかを聞くと、
自分の事業を語りだすかれ。

話を聞いていると非常に一貫性があり、
将来性もあるように感じる。

会社から独立したさまざまな人と会う機会が多々あるが、
全員共通しているのはなんかすごそうだし将来性がありそうと感じるということ。

というよりも、私ごときの一介のサラリーマンをそう思わせるだけの力が無いと、会社を興していくなんてできないんだろと思う。

1軒目が終わりを迎え、もう1杯だけ飲みましょうということで、
中目黒駅周辺の喧騒の中を歩き、隠し扉の中にある会員制のバーへ。

壁がじつは回転扉になっており建物の中へ。

壁の内側は雑居ビルの裏階段のようなビールケースが積まれている階段。

そこを3階まで上がると突き当りに一つの電球に照らされたドアが。

ゆっくりノックをするかれ。

ノックの音と反比例して早くなる鼓動。

すっと扉があいた。

そこには着物姿の女性が。

中は薄暗いというか、ほとんど手元と隣の人の顔の輪郭くらいしか見えないバー。

この暗闇がなぜか安心感を抱かせる。

暗闇のなか、仄明るい光に照れされ暗闇に浮遊しているかに見える木。

その木を囲むようにカウンターがある。

静寂そして静謐な空間。

BGMはピアノの調べ。

日本酒専門のお店という事で着物の女性おすすめの日本酒をいただく。

そこでいい気持ちになりながらかれの話を聞いていると、
なんだか口説かれている気分に。

体のなかにかれの声がこだまし、暗闇の中を浮遊する。
絶対的な孤独を感じる空間の中でかれとのつながりを感じる。

暗闇に包み込まれることの気持ち良さ。

そんなシンプルな感情に浸っていると、「行きましょう」と言うかれ。

一杯だけ飲み、席を立ち、とろんとした気持ちで再びバーの扉をあける。

再び体は喧騒の中。

外に出ると、
じゃあ、といって手を振って駅へ消えていくかれ。

私のセクシュアルティは女性だ。

だが、なんだ。この気持ち。

これは恋??

そんな気持ちを抱かせた夜。

勝負している男の背中を見つめながら、
騒々しい街を背に家路をいく私。

家に帰る頃には現実が私を包み込み、そんな気持ちは消え失せて、
ただあのお店のピアノの調べだけが耳に残っていた。

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