見出し画像

【ショートショート】炎上専門店

以前、たっくーさんの動画で、世にも奇妙な物語風の話を募集する企画(動画はこちら)があり、そのコメント欄に投稿したものです。

残念ながら取り上げられなかったので、ここで供養したいと思います。

どうぞご覧ください!

—————————————————————

その男はしがないYouTuberだった。

一攫千金を目論んで、心機一転脱サラを図り、入念に準備を進めた。しかし、満を持しての初投稿は一切伸びず、気づけばストックも切れていた。それから、ネタが思いつかず、悩む日々が続いた。

男は売れるためならなんでもするつもりだった。そんな彼が、炎上商法に走るのも時間の問題だった。男は毎日芸能人のスキャンダルを取り上げ、執拗なまでに罵倒した。それでも、再生回数は一向に伸びなかった。

失意の中、古びた商店街を歩いていると、かすれた白字で「炎上専門店」とだけ書いてある真っ赤な看板を掲げた店を見つけた。

店の中は薄暗くてよく見えなかった。興味本位でドアをくぐる男。あたりを見回すと、壁にはびっしりとモニターが埋め込まれ、店内の明かりはそのディスプレイの他にはなかった。目を細めて店内をよく見ると、奥の方に髪の長い、小汚い青年がパソコンに向かってカタカタとせわしなくキーボードを打っている。

男がその青年に声をかけると青年はどうやら店主らしかった。男は店主にどんな店なのかを尋ねた。店主が言うには、この店はあらゆる炎上を取り扱うのだという。

「それって、意図的に炎上させることもできるんですか?」

「ええ、もちろんできますよ。そんな人は滅多にいませんけどね。皆さん大体、炎上を止めてくれとおっしゃいます。」

「そんなのいいんです。お願いします。私を炎上させてください。」

「分かりました。ただ、気をつけてくださいね。依頼の取り下げがない限り、炎上させ続ける契約になりますので。」

炎上系で生きていこうとしている男にとっては願ったり叶ったりだった。男はその場で契約を結ぶ。家に帰ると早速、前日にあげた動画が炎上していた。それからというもの、あげる動画あげる動画炎上を繰り返し、再生回数はうなぎのぼりに上がっていった。

男が自分の名前でエゴサをすると罵詈雑言の嵐だった。中には殺害予告まであった。その状況にひるむどころか寧ろ味を占め、どんどん動画を上げ続ける男。ついには男の動画は急上昇にまで載ることになり、YouTube界で彼の名を知らないものはいなくなった。

やがて大金を蓄えた男はYouTubeを引退し、悠々自適の生活を送るようになっていた。男はもはやあの小汚い店のことなどすっかり忘れていた。

いつものように優雅に晩酌をすませ、床に就く男。男が気持ちよく寝ていると、何やらバチバチと音がする。男が飛び起きて部屋を出ると、なんと家が燃えていた。男は半狂乱になって取り乱す。

男は大事な契約を忘れていたのだ。実は、男がYouTubeを引退した後も炎上専門店は活動していたのだった。そして、雲隠れのように引退した男は、世間に逃亡扱いされ、もはや炎上専門店が手を加える必要もないほどに燃えていた。中には男に対して抑えきれない憎しみを抱えるものまで現れた。

そして、そのうちの一人があの商店街を訪れた。

「すみません、炎上させてくれると聞いたんですが、それってなんでも大丈夫ですか?」

「ええ、もちろん。ちなみに何を?」

「あの、どうしても許せないんです。そいつの家を燃やしていただくことは可能ですか?」

「ええ、もちろん。何だって、うちは炎上専門店ですからね。」

モリタ:人は概して自分がしたことを忘れているものです。あの頃のいじめっ子も、今は昔のことをすっかり忘れて、YouTubeでも見ているのかもしれません。しかし、反対に人は自分がされたことは忘れにくいようです。かつてのいじめられっ子も、隠れて報復の機会をうかがっているかもしれませんね。おや、そこのあなた。お部屋からバチバチ聞こえますが大丈夫でしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?